4,ファーストエンカウント
サブタイトルに横文字とか使っちゃおっかなー
三日三晩活動することができる。
誇張ではなく、何なら一週間くらいなら余裕な気さえする。
今日一日、時間にしては半日程度だったが休むことなく歩き続けてきたが、まるで疲労を感じない。それどころか、どんどん活力が湧いてくるようだ。
さらに言えば、眠気も空腹も喉の渇きも感じない。水場を探してさまよっていた時に本当はもう気づいていた。それでも、心のどこかでは否定していたのだろう。正直に言って脳がちゃんと受け付けていない感覚もある。
いや、もしかしたら猫になったせいで気分が高揚してるんだろう。そのせいで感覚がマヒしてるんだ。疲れを感じないのも腹が減らないのも気のせいだな。うん。きっとそうだ。そう思うことにしよう。
さあ、気を取り直して寝床を探そう。
そう思って、立ち止まっていた足を踏み出そうとしたとき、前方からバキバキという木々をへし折る不吉な音が聞こえてきた。
それは、飢えていた。自分の足先ほどしかないような獲物であっても、全霊を賭して狩ろうとするほどに。
それは巨大な体を持っていた。俺が小さいから大きく感じるだけではなく、実際に人を優に一口で丸呑みにできるほどに大きかった。
そいつは、全身にまとった灰色の毛は逆立たせ、ただでさえ大きい体が膨らんでいる。三角形の大きな耳は後方を突くかのように裏返り、筋肉質な手足の鋭い爪は月明かりを鈍く反射する。すっと前に長く伸びた鼻先には、牙をむき出しにして口がある。そこからはぼたぼたと流れ落ちる涎と低い唸り声があふれている。
そいつは、馬鹿みたいにでかい狼だった。
対面した瞬間に、マズいと思った。
見上げるほどに大きな狼に対して俺は小さな猫。
一瞬でこいつのおやつになるのは目に見えている。
いや、俺では腹の足しもならないだろうけど。
普通に考えれば絶望的な状況。勝ち目なんか万に一つもないだろう。
ただ、そう考えるのとは裏腹に俺の心はひどく落ち着いていた。
ただ冷静にこう思った。
ああ、大したことないな、と。
狼が動く。
一息に俺の命を屠ろうとして、その大きな口を広げて飛び込んでくる。
ギラギラと涎にまみれ殺意に満ちたその牙が目前に迫ったその時、俺の体は勝手に動いていた。
そして、次の瞬間には、頭からとめどなく血を流して力なく倒れこむ狼の上に俺は座っていた。
わかってはいた。薄々そうなんじゃないかとは思っていた。
それが確実になっただけだ。
俺は……、
どうやら俺は、ただの猫ではなかったらしい。