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第59話 獣人族との対話

「全員武器を捨てろ。住民達を迫害してない事に免じて、命だけは助けてやる」


 俺は残り獣人族に告げた。


 しかし、誰一人武器を捨てようとしなければ、ますます敵意が増していた。


「……仕方ないな。こちらのリーダーを人質にして貰おう」


 ますます敵意が増していく。


 獣人族は部族でパーティーを組み、団結力が強いと聞く。


 人質は逆効果だったのかな?




「貴方達。ソラの好意を無下にするなら、私がこの場で全員斬り捨てるから」




 フィリアの凄まじい殺気を含んだ威圧に、獣人族全員が震え上がった。


「うちのソラは住民達を迫害してない貴方達を高く評価しているの。だから悪いようにはしないけど、ソラの好意を無視するなら私が許さない。戦う人は相手になるわ」


 更に追い打ちをかけるフィリア。


 寧ろ、俺が怖いとさえ思うほどだ。


 フィリアの剣聖のレベルもだいぶ上がっていそうだし、威圧感が凄い。


 その時、獣人族の一人が叫んだ。




「ど、どうせお前ら人間は、俺らをまた奴隷(・・)にするんだろう! 折角逃げてここまでたどり着いたのに……また奴隷生活…………もう耐えられないんだよ!!」




 悲痛な叫びだった。


 それを聞いた周りの獣人達も涙を流し始めた。


 何となく、以前助けたトーマスさん達の事が頭をよぎる。


 獣人達全員が嘘をついている…………なんて思えるほど、俺はまだ人を疑うのが好きではない。


 だから今度はもう少し獣人族に寄り添った形で話を進める事にした。


「分かりました。ではこうしましょう。今回怪我をした獣人族の皆さんを回復してあげます。ですから、俺達と話し合いをしましょう。俺達はこの町を助けに来ただけで、貴方達を奴隷にしたいとか思ってる訳ではありませんから」


「に、人間はすぐに甘い言葉で俺らを騙す!」


 相当人間に対して信用がないようだ。


「……分かりました。ではこうしましょう。こちらも人質を出します。それならどうですか?」


「…………誰が人質になるのだ?」


「ここはリーダーであるお――」


「待って。私が人質になるわ。ソラが人質になったら回復魔法を使える人が減るから駄目よ」


 俺が志願しようとしたら、フィリアが割り込んだ。


 すぐに双剣を鞘ごと腰から外し、獣人達の目の前に投げた。


 そして、両手を上にあげ、獣人達の元に歩いて行った。


「分かった。お前の申し出を受け入れる。悪いがこの女には人質になってもらう」


 すぐにロープでフィリアを動けなくしたのを見て、俺とミリシャさんで手分けしてケガしたすべての獣人達を回復してあげた。




 ◇




「理解した。まず最初に感謝する」


 獣人達の回復が終わると、リーダーのような女性獣人が代表で話し始めた。


 回復の事を最初に感謝している事や、住民達を迫害しなかった事もあるから、ちゃんと話し合いが出来そうだ。


「いえ、これも約束ですから。俺はこの一団のリーダーのソラです」


「私はカシアという。人間の言葉で言えば、リーダーみたいなモノだ」


 獣人族と人族で感覚が違う部分も多いと、ミリシャさんから聞かされている。


 群れになった時、一番強い人が自然とリーダーのような立ち位置になるそうだ。


 彼らに取ってのリーダーは、人族のリーダー以上に、従うとの事だ。


「ではまず初めに単刀直入に言います。この町から出て行って貰いたいんです」


「…………それは私達を罰しないというのか?」


「端的に言えば、そうなります。この町は現在レボルシオン領という領に所属していますが、レボルシオン領には支配する貴族がいません。強いて言えばレボルシオン領の全ての土地は俺が持つ事になったので、こうしてこの町を助けに来たんです」


 俺の説明に、カシアさんが驚いた。


「貴方達がこの町から出て、レボルシオン領内で悪さをしないのなら、俺としてはこれ以上追求するつもりはありません。レボルシオン領は今始まったばかりで、漸く邪悪な貴族から解き放たれたんです。だからこれ以上、住民達に迷惑をかけないで欲しいんです」


「………………我々は南にある帝国から逃げてきた一団だ。本来なら『奴隷の首輪』に繋がれ奴隷として扱われていた。…………私達を支配していた人間が偶々目の前で命を落として、私達は『奴隷の首輪』を外す事が出来、こうして逃げ延びた訳だ。だが、我々だって最初から奴隷だった訳ではない。ここにいる多くの獣人達は、人間に騙されて『奴隷堕ち』している…………我々にとって人間の言葉など、信頼するに値しないのだ」


 カシアさんの瞳の奥には怒りの炎が燈っていた。


 トーマスさんと同じ瞳。


 種族の違いではない。


 我々は同じ人なんだと、改めて認識する事が出来た。


「俺達がこの領に来る前、このレボルシオン領の前はゲシリアン子爵領という領と呼ばれていました。そして、全ての元凶であるゲシリアン子爵によって、民は虐げられ…………多くの人々が傷つきました。俺が出会った被害者の人々はみんな……カシアさん。貴方と同じ瞳をしていました。

 カシアさんからすれば俺達は同じ人族にしか見えないかも知れません。ですが、人族全てが悪い訳ではない事を知って欲しい。仮にもここにはフィリアがいます。彼女一人で皆さんを圧倒する事も出来るでしょう。ですが俺は対話を望みました。ですから、俺の事を信じてはみませんか?」


 俺はカシアさんに右手を差し伸べた。


 獣人族もその意味(・・)を知っているだろう。


 迷っているカシアさんだったが、今の獣人達を見回して、覚悟を決めたように、俺の手を握り返した。

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