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第55話 ルナの覚悟

「ん…………ここは?」


「ルリ!!!」


「えっ? ルナ?」


 起きた双子の()のルリくんに、()のルナちゃんが抱き付いた。


 五日も寝込んだルリくんが漸く目を覚ましたのだ。


「初めまして。俺はソラ。こちらはフィリア。俺達は君達の味方だよ。怖がらなくて大丈夫」


 俺の言葉にキョトンとしたルリくんだったが、直ぐに疑いの眼差しに変わった。


「…………」


 ルリくんは、ルナちゃんを抱きしめると、俺達から距離を置こうとする。


 無理もない。長い間、あの地下での出来事があるからね。


 ゆっくりでいいから、これから仲良くなっていきたいなと思う。


「ルリ? ソラお兄ちゃんのおかげで治して貰ったんだよ?」


「っ!? …………ふん! 別に頼んでない!」


「えっ? ルリ? どうしてそんな事言うの!? ソラお兄ちゃんのおかげで――」


「くっ! 別に助けてくれと言った覚えはない! そいつが誰だかは知らないけど、ルナは俺が守る!」


 敵意むき出しのルリくんと、それに戸惑うルナちゃんに、何故か昔の自分とフィリアの事を思い出した。


 フィリアと仲良くなっていた頃、まだ孤児院の連中……カールと仲良くなかった頃に、俺もああいう事をカールに言った事あったっけ。


「ルリくん。確かに助けてくれと言われてないから、俺は感謝は言われなくても構わない。でもね。俺から一つだけお願いがあるんだ。それだけは聞いて欲しい」


 ルリくんが驚いた表情のまま、俺を睨んできた。


「この先も君とルナちゃんは生きていかなきゃいけない。だから君達が自立出来る日までは俺に面倒を見させて欲しい。特に何かをする必要はない。ただし、絶対に守って欲しい事がある。それは――――食事だけは絶対に取って欲しい。君達のこれからの人生の為に、俺は勝手に君達を助けるから、感謝なんてしなくていいから、ちゃんと食事を取って、元気になって、その先にここを出たいというなら止めはしないからね?」


「…………」


 俺はルリくんとルナちゃんの分の食事を部屋に残した。


 俺について来ようとするルナちゃんを制止する。


 小さく首を横に振って、ルリくんの隣に残るように促し、俺達は部屋を後にした。






「ルリ! 酷いよ!」


「…………ルナ! お前はあいつを信じるのか!?」


「うん! ソラお兄ちゃんは凄いんだもん! ちゃんと私達も治してくれたし、美味しいご飯もただでくれるし、足りないともっとくれるし! 凄く優しいんだから!」


「くっ! それは俺達を利用するつもりだからだ! あんなやつに――――」


 ルリは自分の前に渡された食事を振り払った。


 食器が落ちる音が部屋に響く。


「…………酷い…………ルリ? ソラお兄ちゃんは私達の為に頑張ってくれたんだよ?」


「そ、そんな事ない! あいつらは俺達を騙して、またあの時みたいに――――ルナ?」


 自分の分の食事をルリの前に置いたルナは、落ちた食事をまた皿に戻した。


 熱いスープもそのまま手ですくい皿に戻す。


「ルナ! そんな事をしたら手に火傷を!」


「…………ねえ、ルリ。ソラお兄ちゃんはね……真っ先にルリを助けようと必死に回復魔法を使ってくれたんだよ? ……私もソラお兄ちゃんに治して貰ってご飯も沢山食べさせて貰って……こうしてルリのご飯もただでくれたんだよ……?」


 スープを最後にすくい終えたルナは、地面に落ちたスープの残りを舐め始めた。


「こんなにも私達の為に頑張ってくれたのに……せっかく貰えた食事をこんな事にして……これじゃいつか天罰が下るよ……ルリ…………私は何としてもルリを守るからね」


 必死に地面を舐めるルナを見たルリは悔しさと悲しさと――――後悔に苛まれた。


 ルナは自分の為にここまで考えてくれたはずなのに、自分は何をしているのかと。


 施しは受けない――――しかし、それではルナは守れない。


 ルナを守れなかった自分に苛立った。


 そして、悔しくて涙が止まらなかった。


 ルリは目の前の食事に手を伸ばす。


 ルナがここまで信じた相手を、どうして自分は拒絶したのか、それが悔しくてたまらなかった。




 ◇




 ルナちゃんが食事を終えて食器を下げて来てくれた。


 しかし、何故か両手を隠すような事をしているのに気付いた。


「ルナちゃん? ちょっと手を出して貰えないかな?」


「えっ? ソラお兄ちゃん? どうしたの?」


 やっぱり何かを隠している。


「ルナちゃん、ごめん。ちょっと乱暴だけど――――」


 俺はルナちゃんの手を引っ張った。


 申し訳ない表情のルナちゃんの両手は、何故か火傷だらけになっていた。


 さっきまでこんな状態じゃなかったはずなのに……どうして?


「そ、ソラお兄ちゃん! ご、ごめんなさい! 私が間違えてスープを落としてしまって! それを手ですく――――」


 想像だにしなかった答えに、俺は衝撃を受けた。


 そのままルナちゃんを力強く抱きしめた。


「ルナちゃん。食べ物を粗末にするのは良くない事だよ。でも落としてしまったモノは仕方ないんだ。その時はまた新しい食事を出してあげるからね? だから、今度はそんな事はしないで欲しいな……」


 抱き締めたルナちゃんに回復魔法を掛けて、両手の火傷を治してあげた。


 ルナちゃんはずっと「ごめんなさい……」と謝罪していたけど、俺は何となく彼女の所為ではない気がした。


 ルリくんのあの態度……もしかしたら、と思う。


 俺が思っていた以上に二人の心は深く深く傷ついていた。

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