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第106話 思わぬ罠

 ハレイン・グレイストールの反乱から、王国では今回の戦いを『グレイストール戦争』と名付けている。


 こちらの地名は『シカウンド』という地方名だから、てっきりシカウンド戦争と名付けると思っていたけど、違ったみたい。ハレインが帝国に勝った戦いを『シカウンド戦争』と呼んでいた。


 既に『グレイストール戦争』は始まっており、肆式がハレイン軍の陽動軍を相手している間に、両陣営の本陣がぶつかった。


 ハレイン軍はそもそも進撃してから耐える戦法を取っているので、本格的に攻めてこないのが王国軍にとってはプラスに働いている。


 ハレインが普通の状態なら、王国軍の少なさや、陽動軍が遅い事をいち早く理解して、本陣で押し込んで来たんだろうけど、そうしないという事は、それほど追い詰められているのだろう。


 ルリくんのおかげで、ハレイン軍の各所の司令官が暗殺され、実際の軍の士気は随分と減っている。


 こんなピリピリした状態で暗殺されたら、焦っても仕方ないと思う。


 暫く眺めていると、俺の足元に二つ(・・)の影が移動して来る。


【お疲れ様、ルリくん、ルナちゃん】


【【ただいま!】】


 ルリくんは暗殺を、ルナちゃんはハレインの不安を煽るために頑張ってくれた。


 ルリくんを追ったルナちゃんが、ハレインの下に戻らないと、ますます焦るはずだ。


 少しして、肆式のカーターくんから連絡が届いて、陽動軍を殲滅したとの事だ。


 殲滅か…………。


 もう戦争は始まっているし、気にしては駄目だね。


 暫く待っていても、未だ戦場の本陣に大きな動きはない。


 余程余裕がないように見えるね。


 陽動軍を殲滅して帰って来た肆式とルリくんで、ハレイン軍の後方に向かって貰った。


 更にルナちゃんには、ビズリオ様に伝言「これからハレイン軍の後方に陽動をかけます」を伝えに言って貰った。


「みんな行ったね」


「ああ……」


「みんな頑張ってくれるから、私達も頑張らないとね」


「そうだな…………君にも戦いを強制する事に……」


「ううん。私は自ら貴方の手になる事を誓ったの。だから私を使ってくれた方が嬉しい。その為にこの力があるのだから」


 フィリアは、自らの両手を見つめた。


 その瞳には、確たる信念が灯っている。


「だからね? 悲しまなくてもいいからね? 貴方は私が守るんだから」


 『シュルト』に扮したフィリアは、真っ黒い大きな大剣(・・)を『アイテムボックス』から取り出した。


 すっかり、シヤさんの『アイテムボックス』が『銀朱の蒼穹』内で定着していて、何もない所から武器を取り出す事など、造作もない。


 俺は大剣を持った『フロイント(フィリア)』に、精霊騎士のスキル『上級精霊付与』を掛けてあげる。


 火を司る上級精霊が『フロイント』の身体に灯る。


「うん。みんなをお願いね」


「任されたわ」


 そして、飛び出た『フロイント』は、とんでもない速度で向かい、ハレイン軍の本陣に大きな爆撃を与えた。




 ◇




 戦場に両軍ともに驚くほどの爆炎が空高く上がり、ともに響く熱風と爆音が聞こえる。


 あまりにも急な爆炎に両陣営驚くが、すぐに王国軍の方で進軍の太鼓の音が鳴り響く。


 更にそのあと、王国軍の後方から、炎の魔法が数十発、空を掛けハレイン軍に落ちると、兵士達が爆炎に包まれ、ハレイン軍の悲鳴が戦場に響き渡った。


 そんなハレイン軍に更なる追い打ちとして、後方から目にも止まらぬ速さで動く黒い()が、次々ハレイン軍を襲い始める。


 何が起きているか理解出来ないハレイン軍は逃げ回る事しか出来なかった。


 敵対しようとした瞬間、その首が空を舞う。


 そんな仲間を見ただけで、兵士達は恐怖に陥った。


 そんな彼らを導くべき司令系統も、既に『ブルーダー』により、殆どが命を落としていて、戦場のハレイン軍は最悪な状態であった。




「い、一体何が起きている! 何故王国軍がこんなに強いのだ! く、くそ!」


 ハレインは現状が信じられず、悪態をつく。


 頭をフル回転させ、現状を理解しようとするが、あの戦力差がひっくり返るとは思いもしなかった。


 相手はこちらの半数……それを戦争の対応が遅れた(・・・)と思い込んでいるハレインは、まさか王国の西側から攻めているミルダン王国すら侵攻が失敗している事を知る由もない。


 その時、ハレインの視界の向こうに一際金色に光る鎧が見えた。


「ゼラリオン王…………!」


 何度も見た『戦場の黄金獅子、イージウス・フォン・ゼラリオン』の姿だった。


 ハレインは、迷う事なく、黄金獅子に向かい速馬を走らせた。




「ゼラリオン王!!」


「……ハレインか。貴様の敗北だな」


「くっ! ふざけるな! ここで、貴様の首をはねれば、俺の勝利だ!」


「くっくっ、出来るかな?」


 ゼラリオン王の挑発に、ハレインは愛剣を抜いて、馬から飛びつく。


 斬りつけた剣は、ゼラリオン王の大剣に簡単に防がれ、二人の剣が火花を散り始める。


 常人には決して見える事がない速さの攻防に、周囲の騎士達は息を呑む。


 敵でありながら、元インペリアルナイトでもあり、ゼラリオン王国だけでなく、世界でも強者として知られているハレインの本気の戦い。


 そして、その剣戟をいとも簡単に跳ね返しているゼラリオン王。


 二人の戦いは多くの者の心に刻まれる事となった。

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