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第103話 ダークドラゴン

 俺達が『Aランクダンジョン』を縦横無尽に狩り尽くして数日。


 俺以外のみんなのレベルが簡単に9に上がった。


 肆式のメンバーも全員上がったので、俺達はダークドラゴンが一体だけ佇んでいる広場にやってきた。


 ダークドラゴンは倒してから次出現するまでに一か月かかると言われている。


 基本的にダークドラゴンに挑戦するパーティーも、年に一度くらいしかいないので、いつ来てもここに佇んでいる。


「さて、みんな。せっかくだからという単純な理由で挑戦になるけど、少しでも危なくなったら引く事。今回は倒す事が目的じゃないからね?」


「「「「はいっ!」」」」


 肆式のみんなが元気に答える。


「では作戦通り行こう!」


「「「「おー!」」」」


 最初に仕掛けるのは、遠距離の魔導士達の一斉魔法。


 最上級魔法は詠唱破棄出来ないため、魔導士達が詠唱に入ると、それを察知したダークドラゴンがこちらを睨む。


 すぐに大きな口を開いて、赤黒いブレス攻撃を放った。


「ラビ!」


「ぷう!」


 ラビの全力風魔法でブレスの軌道をずらして、空の彼方に消え去った。


 直後、詠唱を終えた魔導士達二十二人による最上級魔法が放たれる。


 それぞれ違う属性の魔法が飛び交い、ダークドラゴンに直撃すると、凄まじい音を立てて、ダークドラゴンがその場に落ちた。


「接近攻撃開始!」


 俺の号令に合わせて、フィリア達全員がダークドラゴンに向かう。


 反撃するダークドラゴンをどうしようかなと思ったけど、意外にも反撃は返ってこない。


「あれ? もうちょっと激しい反撃があると聞いていたんだけど……」


 『Aランクダンジョン』に入るパーティーに教える情報に、ダークドラゴンの情報も入っている。


 防御力よりも、その破壊力が有名だと聞いているのに……全く攻撃が飛んでこない。


 全員奥義を繰り出し、数十にも及ぶ数の奥義攻撃がダークドラゴンをきざんだ。


「最後の攻撃が……来………………ないな」


 俺だけ真剣に身構えているけど、肆式もうちのメンバーもみんなまるでピクニックに来たかのような雰囲気だ。


「ソラくん」


「ミリシャさん…………」


「もう終わったのよ…………」


「………………うちのクラン、もしかしてとんでもない方向に進んでますか?」


「だから言ったでしょう…………」


 ミリシャさんが気を失うくらいには、やっぱりとんでもない事が起こっている事だけは確かだ。


「あ! ソラ! レベル10に上がったよ!」


 フィリアが嬉しそうに走って来た。




 ◇




 その頃、グレイストール領では。


 ハレインの下に一通の手紙が届いた。


「ふん」


 その手紙を見て鼻で笑うハレイン。


 手紙には、王家の紋章が描かれている。


 刻印を外し、内容を見たハレインは、小さく笑みを浮かべ、火が灯っている蝋燭(ろうそく)に当てて燃やし始める。


「いよいよ王国も痺れを切らしたか…………だがもう遅い。こちらはあと一か月もあれば準備が整う。帝国との話し合いも終わっている…………くっくっくっ、この一か月でどう変わるのか楽しみだな!」


 ハレインの自信に溢れた笑い声が響き渡った。




 ◇




 数日後のゼラリオン王国の王城。


「陛下。ハレインが反旗を翻しました」


「ふん、どうせ自分が勝ったとでも思っているのだろう」


「そう思われます。まさか――――自分が握らされている王国の情報が偽物だとは思わなかったのでしょう」


「ふむ。それで、『シュルト』が求めている報酬はどうなった?」


「はっ、既に話し合いは進めております。出来る限り、彼らの要件を呑みます。もし向こうに付かれても叶いませんから」


「…………分かった。しかし、まさかあやつらから土地(・・)を要求されるとはな」


「ええ。どうも住処――――ではないようです。一体に何に使おうとするのか、見当もつきません」


 ゼラリオン王はビズリオを通して要求された内容を思い出していた。


 希代の暗殺者を二人とも抱える『シュルト』から、ハレインの方にも力を貸している事を言われた時には、どこか納得する部分もあった。


 そんな彼らは、今回の戦争に傭兵として参戦を要求、その見返りとして土地(・・)を欲した。


 その土地というのは、他でもなく、現在のグレイストール領である。


 さらに、今回の戦いで参戦するであろう『ミルダン王国』に関しても、別契約でいいなら受けると言い放ったのだ。


「一つだけ、気になる事がございます」


「気になること?」


「はい。『シュルト』が潜んでいる盗賊ギルドですが、盗賊ギルドで最も商売に精通した『鴉』という者がございます。わたくしも直接何度か取引を行いました…………が、最近めっきり姿を見せません」


「盗賊ギルドを制圧した時にも殺されたか?」


「それも考えましたが…………もしかして、『シュルト』の一員になったのではないかと予想します。さらに盗賊ギルドが抱えていた多くの孤児達が姿を消しました。もしかして……『シュルト』は、自分達の手駒を増やそうと思っているのではないかと予想します」


「うむ。あれほどの力を持った者だ。未来を見通す力もあるなら、古い人間ばかりではいずれ腐っていく事くらい見通しているのだろう。しかし、どうしてこのタイミングで現れたのか、今でも謎だ。今のレボルシオン領にならもっと早くから付け入る隙はあったはずだが……」


「東の例の帝国から逃げて来た者かも知れません。今は魔女王のせいで簡単には通れませんから、少数で逃げて来たのでしょう……そうでもなければ、あのような暗殺者が二人もいる訳ないと思います」


「東方の神術とやらか…………ふん。魔女王が生きている限り、こちらには入ってこれまい。とにかく、今は『シュルト』とやらの力を楽しみにするとしよう。戦いの準備も進めるがいい」


「はっ」


 ゼラリオン王もビズリオも油断しているであろうハレインの負けた姿を思い描いて満面の笑みを浮かべた。


 ――――――『シュルト』の本当の力を知るその日まで。

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