1通目
親愛なるトライアン
お久しぶりです。
貴方に文を送るのは何十年ぶりでしょう。
こちらは少し寒さが和らぎ草木が芽吹きはじめた季節になりました。
そちらは、もう新緑の彩りが美しく暖かな日差しが気持ち良い頃かしら
最近、貴方の事をよく思い出すのよ。
きっと子供たちも巣立ち、ゆっくりとした時間の中で生活しているから暇なのだわ。
貴方は如何お過ごし?
もう、暫く前に一線を退いたと私の所にまで届いているのだけど、
その後、便りの一つも寄越さないのは、もう私のことを忘れてしまったからなのかしら
そうだとしたら、寂しすぎるわ。
幼過ぎたあの頃の眩しい日々と、お兄様の様に優しかった貴方との思い出は、どれだけ月日が経っても私の中で色褪せないないのに
貴方も私も、別々の場所で共有できない年月を重ねてしまったけれど、あの頃と変わらない所が今もあると思っていいかしら
だって、私の中の貴方はあの頃のままなんですもの
返事は待たないわ
筆の進むままに、またお便りします。
そして、願わくば・・・
あの頃と変わらない唯一の貴方に、再会出来ることを願って
風の妖精のいたずらを楽しみにしていた リースより
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男は封筒に同封されていた一枚の葉を弄びながら手紙を読み終わると
丁寧に元に戻し鍵付きの箱に仕舞った。
読んで頂いたことに感謝です。