8.空に瞳に夕焼け空
「あぁ、外のが気持ちいい」
お友達が帰った後、なんとなく外に出たくて、庭の大きな木の下に置かれたベンチでお茶をすする私。
「疲れた」
ペリドールの私は常に疲労感を感じている気がする。
「あの弾丸トーク。職場にもいたなぁ」
ルビー嬢とのお茶タイムは、彼女の一方的な話で終わった。ただ、その弾丸にも有益はかなりあったので、嬉しかったりもしている。なによりも。
「勢いにはついていけないけど、良い子だな」
彼女の話は、主に愚痴。ただし、ただの愚痴ではなく薬学、代々薬剤師の家らしく自分の薬草園でうまく行かない、また兄に負ける!というような内容だった。
「しかもまだ十三歳なのに。自分で悪口ですわとか言ってるけど全然違うし。あの探究心、羨ましいな」
私がペリドールやルビー嬢の年齢の時、何してたっけ?
「……昔過ぎて思い出せない」
ただ、葉月として良かった事もある。
「対象者とは、出会ってはいても恋愛にまではまだ発展していない」
先程のルビーや副料理長、そして兄達の私に対する視線には好感度は高いけれど、熱はないのが葉月としてペリドールよりも長く生きているからこそ確信している。
「あ、でも、まだ会っていない対象者もいるのか」
面倒くさいよ。こういう、恋愛ゲームとか向いてないのよ。
「あ、もう誰も選ばないとか!!」
一番、楽で安心ではないのだろうか。
「あ、不味い!」
膝の上とベンチに積み上げた本の上にある紙が急な強い風により舞ってしまった。
「はぁ、今日はもうツイてない日なんだ。これが取れたらもう部屋にいよう。う、あと少しっ」
なんとかかき集め、残りの一枚が木の枝に引っかかって取れない!
「取れ、あっ」
そうだった。この身体はまだ弱っちいのであるとバランスを崩し後に転倒するのをスローモーションで他人事のように見ていた。
だが、身体が傾き目の前が夕方の空だけになった時、違うモノが映ったと同時に軽い衝撃が。
「怪我は?」
どうやら背後で支えてくれたらしい。逆さまから、正常な向きに戻り改めて声の主を見た。
「気分が悪いのか?」
逆さまで目に飛び込んできた色と同じ。
「夕焼けを持っているなんて凄い」
その人の瞳は、濃く深いオレンジ色。今の空と同じで、とても綺麗だった。
「あ、失礼致しました。助けて下さりありがとうございま」
やっと、人様の腕に支えられているこの状況に気づいて、慌てて離れるも、足がふらついた。
「危ない」
「ごめんなさい」
再び、腕をとられて申し訳なさと悔しさが、突然、私を支配する。
ああ、私の葉月として、度々感じていた感情だ。
「あ、あの」
いけない、今の私は、ペリドールなのに。あれ、こんな整った子が家にいたかな。いつもなら、私の中にいるペリドールが名前など教えてくれるのに、何も浮かばない。
「誰も選ばないとは?」
「えっ」
まさか、さっきのひとり言を聞かれていた?
いつから?
「貴方は」
「アンデシン!」
誰ですかと訪ねようとしたら、向こうから見覚えのあるシルエット、ジェードが現れた。
あれ?
何で険しい顔をしているんですか?
そして、遅すぎる発見が。
「偶然じゃない」
ここ数日間で会った人の名前が、少し違うのもあるけど全て石の名前だ!
「ペリィ、何故ここに?夕方は外に出るな。また熱を出す」
「ペリィ……、話にでてくる妹君か」
「ああ。悪いが妹を先に部屋に行かせる。玄関ホールにいてくれないか」
「ああ」
兄が、私の肩にマントを掛けグイグイと押していく。つんのめりそうになるからヤメテと思いながら、玄関ホールに向かう男の子の背中をなんとなくちらりとみたら。
好感度20%だけでなく、あのハートマークが見えた。
今日だけで、三人の新たなハートマーク保持者を発見した。発見頻度が高くない?
それにしても、綺麗な瞳の子だったな。
「あの目こそ宝石だ」
「なんか言ったか」
「いえ」
なんとなく先程の人を兄の前で褒めないほうが良い気がして、言うのをやめた。
とりあえず、対象者に会いすぎてお腹いっぱいだと葉月は、呑気に思っていた。
あの夕焼けの瞳の人、アンデシンのポケットに自分がメモをしていたうちの一枚の紙が入っている事に気づいたのは、随分と時間が経過してからだった。