6.昨日の今日でそうなるの?
兄弟と会話をした次の日の朝食後、自室に戻った私は昨日の会話を思い出しながら考える。
嬉しい誤算で兄達が私を敵視せず協力的だったのはよかったよね。
「でも、完全に信じているかは分からない」
頭上に見える好感度の数値が正しければの話であり、油断はできない。
「しかし、ほっそい腕」
腕だけではない。全体の肉づきはハッキリ言って悪い。また見た目だけではなくて。
「昨日の夜のお肉料理が残っているのか胃もたれが酷いのよね」
先程から胃のあたりを無意識にさすっている事に気づき手を止めた。
「昨日、兄達にそれとなくペリドールの身体の状態を聞いた限りでは、羨ましくて興奮するのを抑えるのに苦労したな。よっと」
立ち上がり全身が映る鏡まで移動し、くるりと回るとスカートがふわりと浮き棒の様な足が一瞬見えた。
「葉月の、私の体は、どんなに努力しても無理だった。でも、ペリドールの身体は頑張れば必ず良くなる」
──泣きそうなくらいに嬉しい。
「喜ぶのはまだ早い」
とにかく行動あるのみ。
***
「あの」
「先に野菜の方を洗って。あ、コーンは在庫見てくれるか?」
「ムーの粉はあと一回分だよ。注文しておくかい?」
「ちょっといいですか」
「そうだな。どうせならメエ粉も頼んでおきたいな」
「すみません!!」
あ、大声を出しすぎたと思ったけど、既に手遅れだ。慌ただしく動く人達が一斉に動きを止め、視線は私に集中している。
「お嬢様? こんな場所にどうされました?」
その中の一人、指示をだしていた若い男性が此方に近づきながら聞いてきた。
『レッドジャスパー・ノエル 副料理長22歳。料理長は奥さんの体調が悪く今はジャスパーが料理長代理』
一気に頭の中に流れ込んできた情報により反応が遅れた。
「気分が悪いんですか?」
「あ、大丈夫です」
ふらつく私の身体を支えようと出された手を思わず拒んだ。
「わざわざいらしたのは食事について何か?」
少しガラの悪そうに感じる口調と間近で見た顔は不思議と似合わない。
赤茶色の瞳は意外と優しげで、疑いを持ちながらもペリドールの体調を気遣ってくれている。
「あ、何故」
「ペリドール様? 何を見ているんです?」
私は、彼の真紅の髪の毛のさらに上にあるモノを見て混乱した。
「邪魔してごめんなさい。また来ます」
踵を返し、真っ直ぐにもと来た道を戻る。走っているつもりだけど、実際にはもつれながら歩くぎこちない姿になっていると、何処か冷静な自分がいる。
「はぁはぁ」
ちょっと動いただけで息切れがする。自室の目の前にある椅子に座るという判断もできず扉を背にし、そのままズルズルと床にお尻をつけた。
「父親も、他の働く人も好感度は見えた。ただ、あの調理の人の頭上にはハートマークもついていた」
行儀の悪さとか、今はそれどころではない。バクバクとうるさい胸を服の上から強く押しながらも思考は止めない。
「あのハートマーク、昨日の二人にもあったのよ」
それは、どういう事か。予想が正しければ。
「乙女ゲームの攻略対象者は、副料理長と……兄二人」
それが正解ならば。
「私は、兄達と血が……繋がっていない?」