5.デマントイドとジェード〜二人の兄は〜
「兄さん、我が妹は騙されやすい大人になりそうで心配だ」
「そうだな。ただ」
デマントイドは、弟の呟きに同意するも完全にとは言い切れない気持ちだった。
「ただ何?」
「いや。私の知るペリドールより抜けている部分もあるが、落ち着いている態度に違和感がな」
顔色があまり良くない妹に長く問い詰めるのもと触りだけの話で終わりにしたが。
「彼女は、まだ何かを隠している」
突拍子のない内容も嘘を言っていないと私の勘は伝えているし、誰にでも話したくない事はあるだろう。
「今日の今日では限界だよなぁ。それよりさ、結構クルな」
ジェードの端折られた言葉は聞かなくても分かる。ハヅキとの会話をして確信した。
ペリドールは、もう、私達の知る妹ではない。
「見ためは変わんないのに気配が全然違う。まだ、薄くは感じられるけど」
「ああ」
「こうなったのは、何かきっかけがあるはずだよな?」
私より柔軟性があり、荒々しい部分もありながら明るく皆に好かれる弟の顔は、先程のハヅキの様だ。
「ダッ! 何すんだ?!」
弟が妹にしたように、ただし加減せず眉間にできたそこを中指で弾いた。
「私達が騒いでどうする。一番混乱しているのは妹だ。幸い、本来の気配も残ってはいる。まずは、事例がないか調べよう。どうした?」
すぐ後にいた弟がいない。振り向けば随分と距離ができている。
「……俺達は、所詮、他人みたいなもんだったのか?」
妹が、こうなってしまったのは、なんらかの強いショックが影響しているのは間違いない。
私達は、ペリにきっかけの理由すら話してもらえなかったという事だ。それを改めて感じた弟は、かなり動揺している。
「直接聞いてみないと判断はできないな」
私達は、それぞれ兄として新しく加わった家族を溺愛してきた。妹には事実、完璧な兄達だと思われているようだった。またそれに満足さえしていた。
……私達は、妹に依存していたのだろうか?
「頭を撫でた時の顔はペリィだった」
どこか諦め冷めた以前の妹も、オドオドとしていたかと思えば目を合わせ意見を言ってくるさっきの妹。
「少し、喪失感はあるが、妹には間違いない。今は、それで良い」
魔術師により乗っ取られたわけではないのだ。
「父には黙っておけ」
「勿論」
私達以上に溺愛している娘が、このような事になっていると知れば騒ぐ。いつもは冷静な父でも何をしでかすか分からない。
「お前は屋敷の書庫を。私は城の書籍を調べる。当分誰にも漏らすな」
「わかった」
やけに素直だな。
「なんだよ。いつまでもガキじゃねーよ」
ムッとしたような態度がまだ子供なんだが。まぁ言えば騒ぐから口には出さない。
「久しぶりの家も悪くない」
城までの距離が面倒で騎宿舎を利用していたが、妹の件もある。暫くは家で寝泊まりだな。
「休暇、溜まっているから取ってもよいのか」
「え?! 仕事がすべての兄さんが?!」
なんだ、その気持ちの悪いモノを見たような視線は。
「ダッ、なにすんたよ!」
「ふざけてないで、すぐに調べるぞ」
優しく弟の頭をはたきながら、これからの事をどうしていくか、頭を巡らすデマントイドだった。