3.メモをしたいと悩んでいたら
「ノートに細かく書いて整理したいけど誰かに見られるとあまり良くないような気がする」
再び机に向かうも数行書いて手を止めた。
この国の言葉で書いて見られてしまう場合、または日本語で書いていれば読めないかもしれないけど、逆に不信感を持たれる可能性があるよね。
「それに、ありきたりだけど他にも私みたいな中途半端な人がいるかもしれない」
なんか、考えるほど悪い方向へ傾いていくな。
コンコンッ
「あ、はい!」
自分の世界に入っている時に現実に戻され声が裏返ってしまった。
「ペリドール。今、大丈夫か? 少し話したいことがあるんだが」
声からして一番上の兄、デマントイドだ。不味い!この紙を見られてはいけない!
「お待たせして申し訳ございません。ディーお兄様、どうされたのですか?」
ガサガサと音をたてながらも引き出しの裏側に貼り付けるという選択をした。あれ?
「ジェードお兄様も?」
デマントイドの後ろからひょっこりと現れたのはもう一人の兄だ。
「入っていいか?」
「あ、もちろん」
身体を横にずらせば、二人の兄は普通の一人部屋にはないであろう立派な三人がけのソファーに腰掛けた。
「ジェードお兄様?」
何やら左手で虫を払う仕草をしたのでつい話しかけてしまったけど。
「聞かれたくないから音漏れしないようにしておくな」
二人の兄を前にして頭の中で警報が鳴りっぱなしなんだけど。
「ペリドール、君は誰だ?」
一番上の兄が直球を投げてきた。
「私は……私です」
手汗が大量発生のなか、発せた言葉に対して説得力ゼロだったのは二人の表情や雰囲気でわかり過ぎるほど感じる。
「最後だ。もう一度だけ問う。貴方は誰だ?」
ペリドールも父親や兄達と同じ緑の瞳だけど、デマントイドの目の色は深い緑だ。優しいはずの色味なのに表情が乏しいからか、ハッキリ言って……怖い。
「兄さん、圧を抑えなよ」
「怖がらせるつもりはない。ハァ、困ったな」
騎士という職業だからなのか、ビリビリとした空気感に押されて、25歳にもなって本気で怖くなり目に涙が溢れてきていたのが直ぐにバレてしまった。
「怒らないから。ゆっくりでいいから話せるか?」
伸びてきた手にびっくりして、でも避けられなくて目をつぶってしまったら、その手はペリドールの頭に着地して、あやすように撫でられている。
私の中の彼女は兄に撫ぜられて嬉しいらしい。
ほんわかと心が暖かくなったのを感じ、混乱と迷いが少しづつ落ち着いてきた。
「私は……ペリドールだけど葉月なんです」
頭の上にある手が止まった。
ペリドールの体は、カタカタと身体が震えている。こんな、怖さで震えるだなんて人生で初めてだ。
「ペリドール。いや、ハヅキ」
ああ、ずっと目を閉じていてもしょうがないじゃないか。
「はい」
私は、返事を返しながら震える手を反対の手で押さえながら俯いていた顔を上げた。