25.私が望んでいるのは*デマントイドルート*
本来なら護衛対象である殿下の元にいるはずの兄と共に帰宅する事になった。どうやら最初から殿下が兄を警護の人数にいれていなかったようだ。
「あ、兄じゃないのか。グラッサムだったっけ」
違和感が拭えない。私の知らぬ間に名字が変更されていたのよね。馬車の窓には少し髪が乱れたペリドールが映っていた。
「葉月、すまなかった」
反対側に座る兄であったデマントイドの言葉につい苛ついた。
「何に対してですか? 家名が勝手に変わった事ですか?それとも大勢の人前で結婚一択しか選べないように仕向けた事ですかね」
私の声は思っていた以上に低かったのは仕方がないよね。
「全てだ。葉月の言ったよう色々と強引に進めすぎた」
綺麗に整えられていた髪に雑に指を通し乱れた様子に男っぽさを感じて。どきりとした自分にもイラッとした。
仕方がない。この人は格好いいのだ。揺れる馬車でも崩れない真っ直ぐな姿勢で近寄りがたいくらい硬質な雰囲気。真面目で不器用でいわゆる損をするタイプかもしれないけど柔軟性もなくもない。
「あっ」
ほつれていた髪をただ耳にかけようとしてくれただけなのについ、体をひいてしまった。ちょっと悪かったかなと謝ろうとしたら、腕を強く引かれて。
「何もしない」
なんの衝撃もなく、ふんわりとデマントイドの腕の中にいた。
「着くまで」
今だけだと耳元で低く囁かれた私に勝ち目はなかった。
「血の繋がりがないのは目が覚めてから早い段階で気づいたけど、全くの他人なのがどこかショックで。ペリドールとしての感情が強かった。だけど…嫌じゃなかったんですよ」
すぐに一緒に帰り方を探そうとしてくれたし、悩んでいると必ず大きな手が不器用に頭を撫でてくれた。
好きにならないほうがおかしいくらい。
「私、領地を維持していかないといかないんですよね?」
もう受理されているなら覆すには相当な理由がないと厳しいだろう。無知な私にそんな責任ある立場が務まるの?
かといって王妃なんて絶対に無理。
「私は、普通にただ健康になって静かに暮らしたいだけなんですよ」
権力や領地なんて望んでいない。
「うっ、ひっく」
一度涙がこぼれてしまえば次からつぎへと流れていく。子供じゃないのに。泣いたってどうしようもないのに。
「悪かった。逃げ場を塞いだ俺が悪い。言葉も足りなかった。急がなくていいから。そんなに泣くな」
大きな手がぎこちなく頭を撫でてきた。私だって止めたいんだけど出ちゃうんだよ。
結局、涙が止まらないまま帰宅し全てを拒絶するように即ベッドに入り込んだ。
その夜、私は久しぶりに高熱を出し三日間寝込んだ。