24.私は小心者なんです*デマントイドルート*
「さて、決まったかな?」
スフェーン殿下は、ニヤニヤとした笑いを浮かべ私を見下ろしてきた。
「どういう事?」
私は、臣下の礼ではなく更に低く頭を下げた。顔を上げなよと少し不満そうに促す殿下ではなく周囲の卒業生に向かい再び低く姿勢を保つ。
「この場は、皆様の祝の席。このような大切な場を乱したお詫びをしたいと思います」
明日から、彼等は社会人となる。ちょっとした羽目を外す事ができるのは今日迄なのだ。
楽しむ場を在学生が水を差した。
「申し訳ございませんでした」
いわば身内の問題だったのに。
「僕がその堅物にけしかけたんだよ。だからペリドール嬢は悪くない。で?折角だからどう収まったか知りたいな」
知りたいななんて可愛く首を傾げているが、目が怖い。
「今一度思案したいと思います」
殿下が言ったように私に非はないと思っている。でも常識的には謝罪すべきだ。私だけではなく兄も。
そして殿下も同罪だ。
「良い目をしているね」
頭は下げたが視線は上げ突き刺す視線を受け止めた私は、何故か殿下の高感度が10%も上がったのを見てしまった。
いやいや殿下に目をつけられるなんてごめんである。
「図々しくも、お詫びに余興をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
目立つのは大っ嫌いだけど、もうここまできたら仕方がない。卒業生には楽しんでもらいたいと日陰暮らしの私は大胆に申し出た。勿論何か言いたそうな兄を無視した。
* * *
「「おぉ」」
「まぁ!」
「素敵だわ」
薄暗くした大ホールにはイルカが床から飛び出し青く光る飛沫を豪快にあげながら空で回転する。
「可愛いっ」
ペンギン達がお行儀よく列になりペッタンペッタンと歩いていたら、床に飛び込み卒業生の前にジャンプして現れた。
「いつの間にこんな力の使い方を」
海の生き物達の躍動感に合わせて生演奏が奏でられているので耳元でデマントイドがして体がビクリと動いてしまった。演出に集中していたし暗いして、肩が触れている距離なのを忘れていた。
「ペリィ?」
「あ、すみません。以前のものからアレンジしただけですので。最初に考えた方はすごいですよね」
私が葉月として生きた場所の真似だ。ただ、想像力と水や風の力を使っているけど。
「見て!」
ドーン
パラパラッ
ホールは半分が贅沢なガラス張りであり大きな扉も全開にしてもらったので、花火がよく見えた。
勿論、本物ではないけど。
花火師ではないので知識は全く無い。ただ、友達と海で見た花火を再現しているだけ。
わっ
花火を見たことがないこの世界の人には、とても新鮮みたいで打ち上がる度に歓声がわく。
「君の世界か」
ペリドールとしてでなく葉月として話しかけてきたデマントイドの声は小さかったのにちゃんと聞き取れた。
「はい。イルカやペンギン、可愛いラッコ。夏には空に打ち上がる花火。海で見るとよりいっそう音が地響きみたいに胸に響くんですよ」
そこまでは再現できてないな。まぁ初めてにしては良い出来よね。きらきらと子供のような顔をしているスフェーン殿下を見つけた。どうやら満足しているよう。卒業生や在校生も笑っている。
「大丈夫か?」
力の使い過ぎだけではなく、緊張が解けて足がふらついた。
「大丈夫じゃないです」
これからじっくり話をしないと!
「もう直ぐ終盤だ。許可はとってあるから先に帰宅しよう」
「えっ!ちょ」
いきなり体が宙に浮いたわけではなくデマントイドに勢いよく横抱きにされ抗議する間もなく運ばれていく。その一瞬、殿下と目があった。
『またね』
口パクでそう伝えてきた彼は、呑気に手を振ってきた。もう会いたくないと言えないまま私は馬車に乗せられた。
兄と二人っきりの無音の馬車。
苦行なんだけど。