21.気乗りしなくてもパーティーは義務なのよ*デマントイドルート*
「…様……ペリドールお嬢様!」
「えっ」
「お力になれない事もありますが、お話して下れば楽になられる場合もあるかと」
いつものガーネットが鏡越しに。いえ、少し眉が下がっている。普段からあまり表情に出ない彼女が心配してくれてるんだと今なら分かる。その隣には、髪飾りを持つシトリンが力強く頷いている。
「ありがとう。緊張しているのかもしれないわ」
昨日、あそこで足を止めなければ聞かずに済んだのにという後悔と今朝、父親からの話で思っている以上にダメージを受けていたらしい。
「実は、衝撃的な事があって脳がついていかなくて」
雇う側と雇われる側は全く違う。変な言い回しというかフレンドリーな会話は好まれないのに前世であろう葉月には慣れなかった。
「ごめんなさい。まずはパーティーに集中しないとよね。髪型は二人に任せるわ」
私の少し変わっている言動や態度も月日が経過すると屋敷の人には仕方がないなぁと受け入れられた気がする。現に私に対する好感度は、ほんの少し上がった。
* * *
「ペリィ!」
「パール」
「すぐに会えてよかったわ」
「確かに密度が凄い」
学園内で一番広いホールは既に人で賑わっている。ひらりひらりと彼女達の動きに合わせ揺れるドレスはまるで熱帯魚のようだ。
「水族館も行ったりしたなぁ」
そういえば、いつからだろうか。葉月としての日常をあまり思い出さなくなっている?
「ペリィ、顔色が良くないわ。大丈」
「パール!探したよ」
声のした方に視線を向ければ、ヒョロリとした男性が人をかき分けながらやってきた。
「エル!あ、ペリィ、紹介するわね。こちらはアンバー・イエルズ様」
じっとパールに視線を送ると。
「わ、私の婚約者よ」
よく言えました。そこで照れるなんて可愛い。普段がしっかりものでキリッとしているだけに頬を染めるのもポイントが高い。
「もぅ、やめて。こちらはペリドール・カルデリア様。私の親友よ」
「初めまして」
名前の通りというか琥珀というのがしっくりくる。明るいトロリとした瞳と落ち着いた雰囲気。意外と気の強いパールと合うのかも。
「ペリドール・カルデリアです。この度はご卒業おめでとうございます」
とりあえずドレスをつまんでご挨拶。
この動作をする度に学園祭の出し物で劇の最中ではなかろうかと錯覚する。
悲しいかな現実なんだけど。
「パール、私は大丈夫だから」
なにやら二人の周りにピンクのハートが飛び始めたのではよ若いのは行きなさいと促してあげてみる。
私って世話好きなおばちゃんみたいだわ。
病弱なりに頑張って留年もしなかったので年齢や学年もパールと同じ。けれど葉月としての年齢を加算すると私はいいおばさんである。
「でも」
「いいから」
そんな困り顔しないで。本当は、私にも同じクラスの子と組む約束していたんだけど、腹痛で欠席なのは仕方がないもの。あまりにも一気食いする子だから、みかねて食べすぎは良くないって言ったのに。
「わかったわ。少ししたら戻るから、この場所で会いましょう」
「ハイハイ、楽しんできて」
目でアンバーさんによろしくねと念を押す。
だってパールは美人さんなんだもの。私を気にして振り向きなが離れていくシルエット、後ろ姿のくびれ具合から違う。
相思相愛でいいなぁ。
「私は食べるか」
学園長の挨拶も終わり、美しい庭や隣に隣接されている小ホールにも人が移動したので人が減ったので見渡しやすくなり、お上品に盛られた夕食とデザートのテーブルめがけて移動する。
──どこからか視線を感じる。
絡みつくような感覚を受け足を止めて振り向けば、遥か先にキラキラ金髪、あれは殿下よね。ならば。
強い視線の先には兄のデマントイドがいて普通に目で挨拶すればよかったのに、思いっきり顔を背けてしまった。
「兄よ、なんか怖いから」
何故か鳥肌が立ってしまった剥き出しの腕を擦りながら、本来の目的地、食べ物エリアに速歩きで向かった。
「うわ〜。豪華ね」
思わず皿に盛られた品々の美しさにうっとりしてしまった。それはあまりにも色彩の組み合わせや食べやすさを重視されている上品なカットの仕方が悪いのよ。ブツブツと心の中で呟きながら、気になる品々を決して大量に見えないように取り分け、さっそく口に運べば。
「切りづらそうなお肉なのに厚み完璧だわ。飾り切りも美しい」
くどい料理が多いけれど、ローストビーフのような品は意外とアッサリの味付けで食べやすい。しかも良い肉使ってるなぁ。おかわりしよ。
「あ、デザートもいっちゃうかな」
まだパーティーは始まったばかりで、もう締めかと思うだろうけど、まだこれからよ。ガツガツ食べると目立つから、また時間おいて食べるのである。
「それに補充されるお菓子も違うだろうし。あ、ラディッシュみたいなの飾り切り上手い」
なんか楽しくなってきたかも。
「ペリィ」
小さなケーキにフォークを入れた時、名を呼ばれた。この低音ボイスは。
ピカピカに磨かれた靴に長い足の上には、腹は割れているだろうと想像がつく立派な身体つき。ついでに腰には重そうな長剣。
「ディーお兄様」
既に声で分かっていたが、軍服姿の兄がいた。
あれ、王子様の護衛大丈夫?