20.デマントイドルート
「調べ物をしていたら遅くなってしまった」
卒園パーティー前となる数日間は、自由学習となるので葉月も家でゆっくりとしている。と言いたいところだけど実際はドレスの最終チェック、また授業はないとはいえ勉強は必須である。
「しかも誘惑がね」
おまけにカルデリア家は書庫というか図書館レベルを誇る書物を保有しているので、つい夢中になってしまった。
「娯楽本から薬学まで幅が広すぎるのが悪いのよ」
パールに言われたのも影響したのか珍しく恋愛モノ小説も読んでしまい横道に逸れてしまったのも原因である。
──ガシャン
「本気か?!」
夜ふかしくらいで悪事は働いていないが、なんとなく忍び足で自室へと向かっていたけど左の廊下の先から物が割れる音と怒鳴り声が聞こえて自分がターゲットではないのにギクリと足を止めてしまった。
何故なら、この怒りマックスの声は温厚な父のものだったから。
「触らぬ神になんとやらよね」
にこにこ顔しか見たことがない父があんなに荒ぶるとは。ここは大人しく部屋に戻ら……。
「私の名前?」
父の書斎から距離があるとはいえ、やっと慣れてきた自分の名が聞こえてきたので一度は背を向けたものの無意識に扉に近づいてしまう。
「ですからノルマン家……養子」
ところどころ聞こえない。ノルマン家って聞いたことがあるような。
「ペリィ……婚姻」
なっ?!
今、婚姻って結婚って言ったよね?!
「そこに誰かいるのか?」
まだ扉から離れているのにも関わらずデマントイドの鋭い声に身体が固まるも、次の私の動きは速かった。
「誰だ」
扉が開いた時には部屋履きを脱いで本気の逃げをみせた私は、ギリセーフで逃げられた。
「まさか、本当に?」
激しい胸の苦しさは、走っただけではない。
「冗談よね?」
学園の食堂の視線を思い出した。
「デマントイドさんは兄でしょ?」
腕の力が緩み抱えていた本が床に落ちた。跡がついたら困る。拾わなきゃ。
『近々必ず動き出すわ』
パールのやたら自信に満ちた台詞。
「まさかね」
残念ながらパールの言った通り的中したのだが、この時はまだ、自分がお気楽脳だったと痛感する出来事が起きた。
***
「お父様、お呼びですか?」
「あぁ、朝からすまん」
パーティー当日の早朝に父に呼ばれた。準備で落ちつかないけれど、忙しいのは充分理解されているみたい。それに忙しさなら父のが遥かに上回るだろう。
「構いません。どうされたのですか?」
私に甘い父の表情は、緩みっぱなしのそれとは違って、憔悴している。
「ペリィ」
「ハッキリ仰って下さい。どこか具合が悪いのですよね?」
明らかに体調がすぐれない様子に心配になる。葉月としても、この優しい穏やかな父が好きだった。
「体調の具合で医師を決め」
「体はなんともないんだ。ペリドール」
「はい」
深いため息をしたペリドールの父は、私の目とやっと視線を合わせて言った。
「デマントイドと婚姻する意思はあるか?」