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12.不用品を売り、手に入れた物は

もぐもぐ


「家柄や頭が良いからって……負けないんだから!」


パンを口に頬張ばりながら昨日のアンデシンの態度を思い出し苛立ちを口にした後、ついでに彼の舌なめずりを思い出しゾワリと鳥肌が立った。


「確か今日はお父様の帰りが早いって執事が言っていたわよね。真相を確かめて本当だったら泣いてみるか」


娘に甘い父親には有効な気がする。


「それにしても濃いな」


銀杏切りされた小さなリール、林檎そっくりな果物にフォークをブッ刺し口に放り込むと日本で食べていた林檎より酸味が強く後から濃い味が口の中に広がる。ジューサーにかけてジュースにしてもよいなと思いながら、再びムカムカと怒りが復活してきた。


「だいたい私に必要なのは健康なの! 彼氏でも旦那でも、パートナーでもない!」


ガゼボでの本日の昼食は、パンと具だくさんスープにデザートの果物。それらを改めて眺めつつ次の段階かなと思った。


「うーん、幼児食に近い完了に上げても大丈夫そうかな」


ペリドールの弱りきった胃腸の為に全粥、いわゆるおかゆから始めて軟飯、最近は柔らかめのご飯にしているが、味付けはかなり薄いまま、いわゆる赤ちゃんが食べる離乳食レベルまで下げていたのには理由がある。


「なんせ濃くて油っこい。ついでに辛い料理も多いのよね。お菓子もボリュームが凄いしなぁ」


素材は悪くない。調理も丁寧で下処理もされているだけに残念である。


「かといって流石に薄い」


鶏肉や玉ねぎに似た野菜をメインとしてスープを作ってもらっていたが、そろそろ違う旨味成分を増やすか。


「きのこ類や二枚貝も少量入れるか」


グラタンとか良いなぁ。


「アサリやハマグリの汁物も飲みたい」


味噌はあるのだろうか?


「白身魚のすまし汁でもよいか」


食べるのが好きな私の頬は緩みっぱなしだ。


「食事を考えるのって、楽しいなぁ」


しかも自分をプロデュースである。成果も身を持って感じるし許可を取らずに新しい事が出来る。


「お嬢様、お食事中に申し訳ございません!お探しの品がございました!」

「え、本当?!ってシトリンは今日はお休みの日よね?」


急に現れた侍女にちょっと驚きつつも、わくわくしてしまい、乱暴に置いてしまったフォークが音をたてたが、気にしていられない。


「はい。こちらです」


侍女の制服ではなく私服姿のシトリンが、いそいそと私物であろう立体的な鳥の飾がついたド派手なフェルト生地の手提げバッグから取り出されたそれは、可愛いバッグとは異なりすぎる金属で縁取られた本。ではなくて日記帳である。


「随分年代物にみえるけど。お金は足りたの?」

「はい。お嬢様が売られた品々は、有名な宝石店の品ですので」

「ならよかった。あ、いらないから次のお休みにでも使ってね」


受け取れないと渋るシトリンに、じゃあ兄弟に何か買ってあげてと粘ればポケットに微々たるお金をしまってくれた。


趣味の悪い伯母が押し付けがましく置いていった品々を売っぱらい、気持ちは清々しい。ペリドールは長話や意地悪に耐えていたようだけど。


私は無理だから!


「物なんて必要最低限でいい」


改めてシトリンから受け取った日記帳にそっと手をふれてみる。


「お嬢様。店主が言うにはご使用前に鍵を決めなければならないそうです」

「わかったわ」


単なる日記帳なんて、どこでも売っている。私が欲しかったのは、特別なモノ。


「詳しく教えてもらえる?」




* * *



皆が静まり返った深夜、自室の小さな灯りを灯しただけの薄暗い状態で、私は息を潜めながら昼間の古めかしい日記帳を取り出した。


「習得した火の魔法でメモ書きは燃やしていたけど、やっぱり読み返したりしたいしね」


完璧なんて事は何事においてもないと思うから、正直、この先、日記が誰かに読まれたらと不安はつきまとう。


「でも、記憶力が特別優れているわけでもない私には、この方法が頭の中の考えを整理できていい」


この日記は、単なるその日の天気や気分を記すものではない。


「平和な未来の為に」


昼間、シトリンに教えてもらった通りに手順を進めていき最後に中央にはめられた雫の形をした小さな石に所有者の血、即ち私の血を一滴たらす。


「イテ」


指先から出た赤い血を汚していいのか戸惑いながらも美しい空色の石に垂らせば、直ぐに変化が現れた。


「石の色が緑に」


カチッ


小さな音なのに、響いたそれは鍵が解除された音。


「中に説明まであるなんて親切ね」


見開きには、使用する際の注意点などが記されていたのだ。それを読み次のページをめくって、さっそく書いた。


『対象攻略者は何人か?』

『誰も選ばないはありなのか?』

『私は、もう戻れないのか?』


周囲を見渡せる余裕が出来てきた私にとって最近、気づいたのが。


『何故、専属侍女たち以外の働いている人は、私ことペリドールに対しての好感度が低い?』


どうしてかな。


「ペリドール、貴方は何をしでかした?」



勿論、返答はなかった。



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