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11.生意気な騎士の卵

「好みか分からなかったので、これを」


アンデシンが前に差し出してきたのはピンクのチューリップに似た花束。フワリと甘い香りが鼻をかすめる。


「花は迷惑でしたか?」


毎年、実家の庭に咲いていた馴染みのある花を突然目にしたのと、見た目と匂いが一致しなくて呆けていたらしい。


「あ、そんな事はないです!良い香りですね」


お礼を伝えれば、微笑まれた。


『お嬢様!頑張って下さい!』


視界の端に侍女のガーネットが口パクで伝えてきた。何を頑張れというのか?


あ、案内をしないと。


「今日は暖かいのでお庭でお茶でも如何でしょうか?」

「是非。ありがとうございます」


今になって、もてなす側なんだと実感して少し緊張してきた。子供相手だというのに。


「お嬢様、お花はお部屋の花瓶に生けましょう」

「ありがとう」


ガーネットに花束を渡せば、なにやら含みのあるニヤリという顔をされた。


ガーネットさん、私はペリドールだけど葉月だから視線での会話は難易度が高いです。





* * *



「居心地が良い場所ですね」

「気に入って頂けてよかったです」


案内したのは、庭の一角にあるガゼボ。ペリドールの家はかなり大きいので庭も広い。


「緊張されていますか?」


普段なら、日陰でクッションたっぷりのこの場所は、寛ぎランキングでもベストスリーに入るし、目の前に広がる沢山の焼き菓子と小さく正方形にカットされたジャムやハム、卵サンドイッチに加えて淹れたての紅茶の香りなんて最高である。


そう、本来の一人ぼっちの時間なら。


「正直言えば少し。あの」


ん?という表情の彼に結局は、ストレートに聞いてみた。


「この前のときの様な話し方で構いません。それに今日いらしたのは、私の書いたメモですよね?」


彼はカップに口をつけながら、目を少し見開いた。ちなみに私は、まだ何も手を付けていない。


「普段の口調は令嬢方には不愉快を感じさせるらしい。ですが、貴方がそれで構わないのなら」


カップを置くと制服のポケットから折り畳まれた紙を無造作に出して私の方に向けたので、手をのばすと、ヒョイとかわされた。


「返して下さる為にいらしたんですよね?」


何なのよ!


「一つ伺いたくて。書かれている内容は、失礼ながら年齢より遥かに高い内容だ。だが字がまるで習いたてのように拙い」


私は、まずはこの国の言葉で書いていたメモだった事に安堵した。


「兄から聞いているかもしれませんが数日間、高熱を出したのです。身体は回復したのですが、その際に記憶が曖昧になってしまったのです。兄達の名などは覚えておりますが、文字が読めても上手く書けなくなっていて」


いやー、無理のある設定である。だがしかし、さも当たり前のように堂々と発する私。実際にかなり寝込んでいたらしいし。ちなみに、無になれば字も綺麗に書ける。


だけど、葉月として意識したとたん、書けなくなる。


これは厄介だと早々に字を学びだした私は偉いと自分を褒める。デマントイドは拙いと言うけれど、かなり上達したんだぞ。


「もうよいでしょうか?」


再びテーブルに置かれたメモ紙を掴めば。


「──なんのマネでしょうか?」


私の右手に被せられた左手。それが私の低い威嚇の声色により、強く握られた。


いきなり握ってくんじゃないわよ。礼儀がなっていないのでは?


「貴方のお父上と私の父との間に随分前から婚約の話があったのは知っているか?」


「存じ上げません。痛いので離して下さいませんか?」


私とアンデシンはお互い笑みを浮かべているが、手元はギチギチと攻めぎあい紙が今にも千切れそうだ。


早く手を退かしなさいよ!


「婚約というのに全く興味がなかったが、気が変わった。貴方には何かある」


「ちょ!」


争っていたはずの手は、強引に貝殻繋にされた。ガッチリ組み合わされ外れない!


「指を痛めるから止めたほうがいい」


アンタが、掴んでるからだろうが!!


最近のなかで一番口汚いセリフが頭の中を駆け巡る。


「もう一度言う。婚約の話は事実だ」


こんな至近距離で話をしていて聞き漏れるはずないじゃないの。


「お断りしますわ」


あ、オレンジ色の目が驚いている。

そして手元が少し緩んだ。


わたくしにも選ぶ権利がありますから」


手と紙を引っこ抜きホッとするも顔には出さない。おや?なにやら不服そうな顔。格下から拒否されるとは思わなかったのか。


自意識過剰は、身を滅ぼすよ?


「申し訳ございません?」


なんとなく謝罪をした。しかし、言葉は素直なもので疑問風になってしまった。侍女は少し距離をおいているが、視界にはいるのでこれ以上乱暴には扱われないとは思うけど、わからない。


「お茶も飲まれたようですし、帰られますか?」


冷めてしまった紅茶に口をつけながら、彼を見やれば。


「──ますます興味がわいた」


瞳の色なんて変わらないはずなのに、やたら輝いているように見えるのは気のせいだろうか。しかも舌なめずりしているんだけど。


私は、餌じゃない。



「ガーネット。アンデシン様は急用で帰られるそうよ。わたくし目眩がするので、お見送りはできなさそうですわ」


用事は済んだでしょ。

帰りなさい。



「また、伺います」


こんだけ雑に扱ったのに右手をとられ口づけされた。口は口角が上がっているけど、目が怖い。綺麗なんだけど、なんか鳥肌が。



「お見送りを」



それには答えず侍女に丸投げした私だった。








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