表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

第五話 存在!!

「お、おっとぉ、イツキ君! 夜景ばかり見てないで、ちゃんとご飯も食べようぜ~」

 と千絵はテーブルの上にあるドリアをイツキの前に差し出すが、こんなごまかしでは通用しないことくらい分かっていた。

 イツキの目線は千絵の映らない窓の鏡に固定されたままだ。

 この世界の鏡は真実のみを映す。

 千絵はこの世界には存在しない。この世界の物理法則には当てはまらない異質の来訪者である。だから、鏡には映らない。

 存在するとは知覚されることである。

 たとえば箱の中に指輪が入っていたとして、その箱の蓋が閉じられていたとしたら、その指輪があるかどうか、箱の外にある人間には分からない。一度蓋を開けて、人間がその指輪を知覚することで初めて、そこに指輪が存在するのである。

 千絵の時空転移は、こうした人間の知覚と存在の相互関係を利用したものである。

 彼女は人間に、この世界には柳田千絵がいると錯覚させることで、いわば箱の中に指輪があると思い込ませることで、この世界に自らの存在を打ち立てることを可能にしている。

 柳田千絵は、人々に知覚させて、存在しているのである。

 しかし今、イツキは指輪の箱を開けてしまった。そして、そこに指輪がないことを確認してしまった。

「千絵さん。僕は鏡越しにあなたを見ているはずです。でも、僕には見えません。絶対そこにいるはずなのに。あなたは僕の作り出した幻覚……?」

 それを聞いて、千絵はプール空間に閉じ込められたときや、時空転移機能の呼び出しに失敗ときとは、比べものにならないほどの恐怖感に苛まれた。

自らが消滅する恐怖。

 今のところ、千絵の身には何の異変もないが、このままではいつ消えてもおかしくない。

 もし、今ここでイツキが騒いで周囲の注目を集めて、千絵が鏡に映らないことを多くの人に知られたとしたら、状況はもっとひどくなる。

 千絵はテーブルの上にあるイツキの手を両手で握りしめた。

「イツキ君。落ち着いて聞いて。君は正気だよ。幻覚も見てない。ほら、私の手、温かいでしょ?」

「……温かい。震えてます」

「そう、幻覚の手が震えるわけないよね。だけど君には理解できないことが今、起ってる。でもそれにはちゃんと理屈がある。私にそれを説明させてほしい。だからまず、ここを出よう」

 と彼の手を引いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ