第三話 不安!!
非常にまずいことになったと千絵は頭を抱えた。せっかく無事にループ空間から抜け出せたと思ったのに、今度は時空転移そのものが出来なくなるなんて。何か対策を講じなければならない。とはいえ、なんのアイデアもすぐには思いつかなかった。
とにかく、この世界でしばらくの間、生きてゆかなければならない。
「うんん、なんでもない。大丈夫」
千絵は絶望をかき消すように笑顔で言った。焦って口を滑らせて正体がばれるなんてことになったら目も当てられない。
「そうですか……それじゃ、僕は帰ります。気をつけてくださいね」
彼がくるりと背中を向けた途端、千絵は急に不安になった。彼は単なる通りすがりのはずなのに、千絵とこの世界を結びつける唯一の存在な気がして、それがみすみす自分の前から姿を消してしまうことがどうしても怖く感じて、いてもたってもいられなくなった。
今度は千絵が彼の腕を掴む番だった。
「ねえ少年!! ……お腹、すいてないかい?」
彼は驚いた目をして振り返り、それから目線を落として千絵にしっかり握られた腕を見て、真っ赤になってフリーズした。たぶん彼は女性に慣れていないのだろうと千絵は考えた。さっきは自分から握っていたくせに。
「今ならお姉さんが何でも奢ってあげるよ? ……あー、ほら、これのお詫び」
と、彼のびしょびしょに濡れた服を指し示した。
「ほら! 何食べよっか? どこでもいいからさ!」
ここまでくるとやけである。とにかく今は、彼が隣にいてほしかった。彼は頬をぼんやり紅潮させたまま「でも、あまりお金持ってなさそうだしな……」となかなかに失礼なことを言う。
「いいからいいから。私はこのあたりのお店をよく知らないんだ。どこか美味い店に連れてけー」
と彼の背中を押しながら、千絵は今、財布を持ち合わせているかどうか確信できずにいる。