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02:プルンの森


「はぁはぁ」


 プルンの森の入口に来たが、ロン達はもういなかった。足も遅く、体力もあまりないセシルがマッチョなロン達に追いつけるわけがなかった。


「もう奥に行ったのかな……たぶん道に迷って入口にすぐ戻ってくると思うんだけど……」


 プルンの森は別名、迷いの森。入り組んでいるというわけではなく、何かの魔法がかけられているらしく、正しい順序で進まなければ気づけば入口に戻ってきているのだ。


 だから木こり達は入口付近でしか作業はしないし、セシルも奥までは行ったことがなかった。


「臆病なプルン達が人を襲うなんて、そんなの信じられないよ……」


 大人しいプルン達が人を襲う。どうしてもセシルにはその事実が信じられなかった。深呼吸をして進もうとしたセシルの背後から、突如声がした。


「ふーん、ここがプルンの森か……良い所だな」


 自分以外の人がいると思っていなくて、セシルは飛び上がった。振り返ると、ランディがいた。


「あなたは……何故ここに?」

「俺はランディ。ここで親父が迷ってないかついてきたんだ」

「お父さんが……僕はセシルです」

「よろしくな、セシル。あ! プルン!!」


 自己紹介をし合っていると、突如草陰から水色のプルンが飛び出してきた。反射的にランディは装備していた弓を構える。


「プルリン! ランディさんやめて! 友達なんだ!」


 セシルの言葉にランディは柳眉を歪めたが、構えるのをやめた。だが、警戒は解いていない。


「セシル!!」

「プルリン! 無事だったんだね! よかった……」


 プルリンはランディに一瞬怯えたが、セシルが駆け寄ると一生懸命話しだした。


「セシル タイヘン ニンゲンタチ キタ スラミン ツカマエテ オクイッタ」

「プルミンを……? ロン達だね。急がないと……」


 突如、森の奥の方から嫌な気が漂ってきた。おもわずセシルは鳥肌をたてた。冷や汗が止まらない。昨日とは違う、敵意を持った森にセシルはゴクリと喉を鳴らした。


「入口は清廉としているのに、森の奥から、嫌な気が漂ってるぜ……」


 ランディも感じているらしく、額の汗を手の甲でぬぐっていた。


「アサカラ ミンナ オカシイ キケン キケン」


 危険を支えようとプルリンは赤く発色しながらぷるぷると震えた。おそらく、おかしくなっているプルン達は皆このように発色しているのだろう。


「プルリン、僕を奥へ案内してほしいんだ。ロンを連れ戻さないと……プルミンも助け出すと約束するから」

「イク プルミン タスケル」


 ぷるぷると震えると、ランディはふっと笑った。


「プルンが友達なんて、変なヤツだなぁ……だが、意気地なしではなかったようだな。友達のために危険に飛び込むなんて」


 ランディの言葉に、セシルは力なく首を振った。


「そんな事ないよ……ほら、僕の足、こんなに震えてる……でも、行かないと……ロンは大切な友達だから……!」


 ガクガク震える足でセシルは必死に踏ん張った。これからロンを助けるために凶暴化したプルン達と戦うのだ。おそらく、襲って来るのはプルン達だけではないだろう。


 それは、どんなに恐ろしい事だろう。それでも、ロンを放っておけない、だって大切な友達だから。どんなにロンに傷つけられようと、ロンはセシルにとって大事な友達だった。


「そうか、よし! ならとっとと行こうぜ! セシル」


 ランディはぽんとセシルの肩を叩いた。自然と全身の震えが止まったような気がした。


「一緒に行ってくれるの? ありがとう、ランディさん……」

「親父を探し出すついでだぜ、気にすんな! それと、俺は魔法は苦手なんだ、魔法でしか倒せないモンスターが出たら、任せるからな」


 その言葉に、セシルはキョトンとした。


「何でランディさんは僕が魔法を使えるって知っているの?」


 すると、ランディは少し気まずそうな顔をした。


「何ていうかな、わかるんだよ。ぱっと見ただけでその人の放つオーラってもんがな。セシルのオーラは清らかで、魔力に溢れてるからな、だからわかったんだよ」


 そう言ってランディは歩き出した。




 プルリンの指示で奥に進んでいくと、凶暴化したプルンが襲いかかってきた。


 ランディは素早く矢を放つが、次々とプルン達が飛び出してきた。セシルは初めての戦闘に怯えて、オロオロしながらランディを見ていた。


 ランディの矢でプルン達は倒せたが、一匹の大きなプルンがなかなか倒せない。


「セシル! 火だ! こいつは火に弱いはずだ!!」

「そ、そんな急に言われても……」


 怯えるセシルはまだ尻込みしていた。


「いてっ! この野郎! 噛み付きやがった!!」


 目の前でランディがプルンに噛まれている。もう尻込みしている場合ではない。このままでは自分達は全滅してしまう。


「このっ……! セシル! バカ! さっさと動けーー!」

「ファイアー!!」


 ランディの怒声に後押しされ、セシルはプルン目掛けて火の玉を放った。プルンは火だるまになり、転がっていたがやがて動かなくなる。それを見た他のプルン達は怯えて逃げていった。


「はぁはぁ……何やってんだよ、セシル……」

「……ごめんよ、プルリン。君の仲間を傷つけてしまって」


 自分にではなく、プルリンに謝るセシルにカチンと来たランディだが、ぐっとこらえる。


「仕方ないだろう、凶暴化してるんだから。それともあれか? 反撃せず噛まれ続けろって言うのか?」

「そ、そんな事言ってないよ……ごめん、ランディさん」


 謝るセシルにランディはため息をつくと、セシルの肩をぽんと叩いた。


「ほら、友達助けに行くんだろ? 落ち込んでないで、行くぞ。それと、ランディさんはやめろ。ランディでいい」

「う、うん」


 戦うという事がどれほど辛いものであるかを、平和なアイオ村で育ったセシルは知らなかった。

 ランディに促され、ショックを癒せぬまま、セシルはノロノロと歩き出した。




 奥に進むにつれて、プルン達は凶暴化していった。プルン達だけでなく、低級な精霊まで襲ってくる。プルリンに申し訳ないなど言っていられない。心苦しいが、セシルはランディの後ろで魔法を唱え続けた。


「みんなどうしてしまったんだろう……」


 早くみんな正常に戻ってほしい。自分の放つ炎に苦しみやがて動かなくなるモンスターを見て、セシルは泣きそうだった。


「キリがないぜ……!! ロンの野郎さっさと出てこい!」


 イライラと弓を引くランディは正確に矢を当てながら、後ろのセシルを気にしていた。初めての戦闘、連続した魔法の詠唱。もうそろそろ限界が近いはずだ。いつ倒れてもおかしくない。


 自分が全て倒せればいいのだが、襲いかかってくるモンスター達の数は異常すぎた。一人ではさばききれない。


「モウスグ セイイキ プルン セイイキ」


 プルリンが声高に言うと、草陰からロンが飛び出してきた。


「助けてくれ!」

「ロン! 無事だったんだね!」

「セシル!? 来てたのか……」


 助けを求めて飛び出してきたものの、相手がセシルだったのでロンは困惑しているようだ。


「ロン、大丈夫だった? 怪我はない?」

「あぁ、大丈夫だよ。どうなってんだ、プルンのやつ気が狂ったかのように襲いかかってくるし……」


 それでもロンの体には少し擦り傷があった。セシルはほっとして安堵のため息をついた。


「他の子達は? プルミンは?」

「プルミン? 案内させてたプルンの事か? 途中で逃げ出されて、道に迷ってたんだよ。他のヤツらはあっちで隠れてるよ」


 ぐいっと親指を後ろに向けると、向こうの方に男の子達が固まって隠れていた。中には泣いている子もいた。


「よかったな、セシル。さぁ、早いとこ引き上げようぜ!」


 ランディがそう言った時だった。


『た……助けて……さい』


 弾かれたようにセシルとランディは森の奥を見た。声は弱々しく、かすれていた。


「どうしたんだ?」


 二人にしか聞こえなかったらしく、ロン達は不思議用な顔をしている。


「まさか……親父?」


 血相を変えたランディが走り出した。


「ランディ! 一人じゃ危ないよ!! 迷ってしまうよ!」

「コノサキ セイイキ ニンゲン ハイレナイ」


 ランディを止めようとするセシルをプルリンが止める。


「じゃぁ、さっきの声は何だったんだよ!? 聖域の方から聞こえたぞ?」


 ランディはどうあっても行くようだ。セシルは少し考えてから、プルリンと向き合った。


「プルリンお願い、力を貸してくれないか?」


 セシルの言葉に、プルリンは迷わず小さな光る石を渡した。


「コレ モツ セイイキ ハイレル アカイハナ メジルシ ススム」


 小さな光る石は暖かく、聖なる気を感じた。セシルはそっと受け取ると、もう一つプルリンにお願いした。


「ありがとう、プルリン。ロン達を入口まで送ってあげてくれないかな? 僕はランディと一緒に行くよ」

「セシルはもう戻れ! 俺一人で行く!!」

「ランディ……」

「セシルはもう疲れきっている、いいから帰って休むんだ。よくがんばったよ」


 ふっと優しく笑うランディの言葉に、セシルは自身の疲れを再確認する。体力のない体はもう悲鳴をあげているし、魔力も限界を超えている。それでも、セシルはランディをほうってはおけなかった。


 この先には、何か恐ろしいモノが待ち構えている。セシルはぎゅっと光石を握り締め、疲れも弱音もぐっと飲み込んだ。


「この光石がないと進めないんだよ、ランディ。一緒に行こう。次は、僕が君を助ける番だ」


 そう言ってセシルは歩き出した。それを見てランディは何も言わず、無言で歩き出した。


「セシル……」


 ロンはセシルに声をかけたかったが、かけられる雰囲気ではなかった。プルリンに連れられ、帰っていく。


 ロンは何度も振り返ったが、セシルは一度も振り返らなかった。




 赤い花を目印にたどっていくと、女神像が立っていた。かなり古く、ツタが這っていた。


「この女神像は元々、大昔に人々を恐怖から救った天使様の像だったんだって」


 教科書にも載っていない、古い物語。魔王を召喚し、世界を恐怖に陥れた人間の王がいた。その王を倒した天使。記述はそれだけで、その後どうなったかは書かれていない。


「天使像が壊されて……いつからか、女神像に作り変えられたってのか? 何故なんだ?」

「さぁ……わからないけど、お顔は天使様のままなんだってさ。この像は世界の至る所にあるらしいね。アイオ村の、こんな森の奥深くにもあるなんて」


 ざわざわと風が葉を揺らす。この女神像のある空間だけ、今まで通ってきた森と違い清らかだった。


「俺も旅の途中、何度か見かけた事があるぜ。美しくて、優しそうな、慈悲深い顔してるよな」


 二人はそっと目をつむり、女神像に祈りを捧げた。


「何か、疲れがふっとんだような気がするな」

「うん……なんでだろうね」


 不思議と、体の疲れも魔力の消費も癒されたような気がする。うーんと二人は背伸びをして、空を見上げる。空は何も変わらない、それなのに今自分はさっき会ったばかりの女の子と一緒に戦っている。


(不思議だ、ランディといれば何も怖く感じない)


 疲れが取れたからかもしれないが、セシルはランディといるとふつふつと腹の底から何かエネルギーのようなものが沸き起こってくるように感じていた。


(大丈夫、先に進める)


 もう一度女神像に祈りを捧げて、セシルはランディに振り返った。


「さぁ、行こう」


 そう言ってセシルは歩き出した。



(最初は足をがたがたさせてたのに、やるじゃん)


 光石を胸に先に進んでいくセシルの姿は少し頼もしく見える。ランディは不思議な気持ちでそれを見ていた。


 今日、しかもさっき出会った少年の背中。華奢で小さな背中が頼もしく見える。そう感じる自分が不思議で仕方が無かった。


(何故、セシルにこうも親しみを感じるんだ?)


 ランディは簡単に他人を信用しないし、距離を取る正確だ。本来なら気安く人助けなど、しない。鋭い眼光を放ち、人を寄せ付けないクールで警戒心が強い。育った環境が彼女をそうさせた。


「セシル……」


「え? 何?」


 不意にセシルが振り返った。見つめ合う、エメラルドグリーンの瞳と瞳。まっすぐな視線を受けて、ランディの心臓がドクンと大きく波打った。


(えぇぇぇ!! 何だよ、コレ……セシル見てたら何か変になる……)


 生まれて初めて芽生えた、何と呼んでいいかわからない感情に、ランディは戸惑った。


「な、何でもない! いいかセシル。俺の足を引っ張るなよ!」

「う、うん、がんばるよ」


 ランディが張り切っていると勘違いしたのか、セシルはにこっと笑顔で返した。それがよけいに、ランディの感情をかき乱す。


(違うだろ……! そこはありがとうだろ……なんで素直に言えないんだ、俺のバカ!)


 自分の口の悪さと性格に嫌気がさす。ランディはセシルにバレないように小さくため息をつく。そして気持ちを切り替え、聖域で待ち構えているであろう邪悪なオーラに対して戦闘準備をした。





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