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12:船の上


パーツはそろった。だけどこの舞台を完成させるにはまだ足りないな。

ギィがすべての記憶を取り戻した時、君はどう動くんだろう。

困惑する? 恐怖する? それとも泣き出す? それとも――





(とある道化師の手記より)


*********************************


 僕に兄姉がいた。すごくドキドキする。僕はオーサーが小さい頃にそっくりらしい。

じゃぁ僕が大人になったらオーサーみたいにかっこよくなるのかな?

 ずっと一人っ子だったからすごく嬉しい。オーサー兄さんはちょっとおっかないけど、ギィとはまた別ですごく頼れる感じがする。

 これから僕達は勇者様を探す旅に出る。勇者様ってどんな人なんだろう。オーサー兄さんみたいな人、そんな気がする……。



(セシルの日記より)


**********************************


 船の揺れで眠れず、ランディは朝早くから甲板に出てぐったりしていた。


「船は苦手だ、ぐぇ」


 真っ蒼な顔をして口元を手で抑える。


「大丈夫ですか?」

「……ギィか」


 ギィが優しく背中をさすってからブランケットをランディの肩にかけた。


「まだ朝早いですから、冷えますよ」

「サンキュ」


 それから二人、無言で海の水平線をじっと見つめていた。


「……もう少ししたら、ミントスの町につく」

「なんだかスッキリしそうな名前ですね」

「なんだよ、それ。ミントスの町はウラーナっていう魚料理が有名でな、めちゃくちゃおいしいんだぜ」

「それは楽しみですね。体が見つかったおかげで、食べ物も飲み物も味わうことができましたしね」

「そうだったな」


 ランディはにししといたずらっ子のように笑う。


「ミントスの町について詳しいんですか?」

「俺は一か月前、あの町からサウス大陸に向かって旅立ったんだ」


 朝もやが晴れてきて、遠くに大陸が見えてきた。ランディはすっと目を細め、険しい表情を浮かべている。


「ミントスの町で俺は親父に引き取られた。その時何があったか知らねぇ。親父は死んじまったからな。だから、もう理由なんてどうでもいい話さ」

「ランディ……」

「だが、キースは、キースの話だけはどうでもよくねぇ」


 ランディはぎりっと下唇を強く噛む。


「どうして俺たちやエミリーを残して行っちまったんだ。それに、アイオ村に向かったのなら何故その情報が一切ないんだ」

「アイオ村にはキースが訪れた情報すらなかったんですよね」

「アイオ村に向かったって言うのは嘘で、本当はどこかの女と一緒に暮らしてるのか? そんなの許せねぇ。それならいっそ向かった途中で死んでるほうがマシだ!!」


 ランディの青白い肌が、泣きそうな表情を更に際立たせる。ランディはぎゅっとペンダントを握りしめ、小刻みに震えていた。


(……きっとここは、優しく頭を撫でるか、肩を抱き寄せるんでしょうね、人間だったら。今セシルがいてくれたらよかったのに)


 ギィは思わず頭を撫でようとして、やめた。自分なんかに慰められたって、ランディは喜ばないと思ったからだった。


「……ミントスの町についたら、酔い止めを買いましょうか」

「……船旅は二度とごめんだ」


 ざぁぁと朝もやが完全に晴れ、遠くにエイダル大陸が見えてくる。


「早いな、お前たち」

「おはようございます、オーサー」


 オーサーがギィの横に並んだ。


(……俺のペンダントに刻まれた文字はI。お袋のイニシャルと思っていたが違う。一体何を意味するものなんだ?)


 ランディはじっとペンダントを見つめていたが、枯れた声でオーサーの名を呼んだ。


「まるで老婆のような声だな、大丈夫か?」

「悪かったな。それより、あんたのペンダントを貸してくれ」


 オーサーは一瞬眉根を寄せたが、ネックレスを外しランディに渡した。


「皆早いね! おはよう」

「おはようございます、セシル」

「よ、おはよう」

「お、おはよう」


 まだ船に興奮しているからなのか、薔薇色のほっぺのセシルはニコニコとランディの隣に立つ。一瞬ドキッとしたランディだったが、深く息を吸って平常心を保つ。


「セシルのペンダントの文字はEだよな」

「うん、そうだよ」

「オーサーがG、俺がI、セシルがE。E、I、G……I、G、E……GIE……ギィ?」

「はい、何でしょうか」


 隣に立つギィが返事をした。


「まさか、ギィは俺がつけた名前だ。きっともっとすごい意味があるはずだ!」

「でも、すごい偶然だね」


 ばちっとセシルと目が合う。ぱっちりとしたエメラルドグリーンの瞳、お人形のような可愛らしい顔、華奢な体。


(きっと、俺を知るやつはセシルが初恋だなんて思いもしないだろうな)


 だがランディは知っている。この華奢で気弱なセシルは人のためなら強くなり一歩前へ歩き出せることを。あの時感じた頼もしい背中、そして初めて男にときめいた瞬間。


(あぁ、やっぱ好きだなぁ)


 途端にランディの白かった顔が赤みを帯びていく。あのまま何も知らず一緒に旅ができたらどんなによかっただろう。


「ランディ?」

「セシル、水を貰ってきてください。ランディは船酔いでまだ体調が悪いようですので」


 ギィがランディの肩にかけてあったブランケットを持ち上げ、頭から被せた。


「そうなの? ごめんね、すぐもらってくる」


 セシルが船の中へと戻っていく。ランディは頭に被せられたブランケットをぎゅっと掴むと、とても小さな声でサンキュと言った。


「大丈夫です、あなたならきっと立ち直れる」

「……へへ、買いかぶりすぎだぜ」


 ランディがギィを軽く小突くのを見て、オーサーは船酔いごときで大げさなと首を傾げた。


「水もらってきたよ……あぁ! 港が見えて来たよ!」


 セシルが嬉しそうに駆け寄ってきた。汽笛が鳴り、船は港へと入っていく。ミントスの町が目の前に広がっていた。






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