10:キララ姫奪還
ちょっと長いです^^;;
「わぁ! マリオン王子だー!」
街はずれにある木にエルフの穴はあった。中にはかわいらしい小さな妖精の女の子が三人いて、マリオンの周りを嬉しそうに飛び回っている。
「王子様なのか?」
「紹介が遅れて申し訳ない。私はエルフの国の第一王子、マリオンと言います」
妖精の穴に入ることで、マリオンの姿や声はセシル以外にも見えるようになったらしい。ランディはふーんと腕を組んでマリオンを観察している。
「ランディ、ジロジロ見たら失礼ですよ」
「いや、エルフなんて初めて見たからさ。悪いな」
「エルフを初めて見る人間は大抵そうですから気にしてません」
マリオンはランディに微笑み返すと、妖精達はきゃーっと街の女の子と同じような反応をしている。
(ランディ、本物の王子様を見ても全然動揺してない。すごいなぁ)
マリオンの神秘的な美しさはセシルでも少しドキドキしてしまうほどだった。
「それで、ここまで連れてきて俺たちに何を話そうっていうんだ?」
「はい、実はキララ姫を攫ったのはエルフ王の指示なのです」
「エルフ王……?」
その言葉にギィが首を傾げた。
「エルフとは森の中で静かに暮らす種族ですよね? そのエルフが何故……」
「何で記憶喪失なのにそんなことは知ってんだよ」
「さぁ、わかりません」
「話を逸らさないで。ま、マリオン王子。エルフの王様は何でお姫様を攫って行ったの?」
セシルが問うとマリオンは悲痛な表情になる。
「元々エルフはサウス王と土地争いを昔からしていました。しかし、父の代になってからエルフは北西の森で暮らし、人間とはかかわらないようにしていたのです」
マリオンは指につけてある指輪をぎゅっと握りしめる。
「しかし、父は突然豹変しこの大陸の半分をエルフのものにすると言い出したのです」
「え?」
その言葉にランディとギィの表情が険しくなった。
「王様は元々心優しいエルフなのー! なのに突然わがままで非道な王様になっちゃったのー!」
「マリオン王子が今まで王様を止めていたけどもう止められなくて今回の事件が起こったのー!」
妖精たちが泣きそうな声で喚いた。
「父は人間嫌いですが、あんな卑怯なマネをするほど人間を憎んではいませんでした。説得しても届かず、とうとう城を追い出されました……」
「そんな……」
「父はキララ姫を人質にするつもりです。だから、私は……」
「代わりに人間側の人質になろうとしたんですね」
「はい」
「それはいい案とは言えませんね。失礼ですがエルフ王はきっとあなたを見捨てるでしょう」
「やはり……そう思いますよね」
ギィの言葉にマリオンは俯いてしまった。
(マリオン王子は王様を止めるために、危険な人間の国に一人で来たんだ)
それはどれほど勇気のいることだろう。自分だったら足が竦んでできないだろうなとセシルは思った。
「ねぇ、ギィなんとかならないかな」
「ダメだぞセシル」
セシルの声にランディはぴしゃりと言い切った。
「キララ姫を助けになんかいかないからな。マリオン王子の手伝いをしたいとか言うなよ」
「ランディ……」
「マリオン王子を手伝ってキララ姫を助けに行く。なるほど、それしか案はなさそうですねぇ。ランディの考えを聞きましょう」
「何勘違いしてんだ。俺はダメだって言ってるんだ! 危険すぎるんだよ!」
「その、危険すぎる方法を聞かせてください」
にこっとギィがほほ笑むと、ランディはうっと言葉を詰まらせた。
「この野郎……! バカなんだか賢いんだか、むかつくぜ……!」
ランディは大きく舌打ちをしてから口を開いた。
「危険極まりないけど単純な話だ。俺たちが騒ぎを起こして注意を引き付けている間にキララ姫を奪還すればいいんだよ」
「ひぇ、想像以上に危なすぎるよ」
「だから、危険だって言ってんだろ」
「そ、そんなの危険すぎます! 皆さんの命が!」
青ざめるセシルとマリオンにランディはすました顔で答える。
「俺たちだけじゃ危険だろうな。だけどよ、エルフ城にはすでにぱっかぱっか走っていったでこっぱちがいただろう。あれが大暴れしてくれたら大丈夫じゃね?」
「あの人に頼るんですか? 大丈夫ですかね」
苦笑するギィにランディはにやりと笑った。
「うまく利用するんだよ。オーサーとハサミは使いようってな」
エルフの抜け穴を使い、エルフの森入口に一行は到着した。
入口には馬がつないでおり、もうすでにオーサーは到着しているようだ。
「エルフの森は他種族が入ってこないよう、入口にまやかしの結界を施しています。なので、あの騎士といえど入れないと思います」
マリオンの言葉通り、入口でオーサーが頭から湯気が出そうなほどいら立っていた。
「何度入っても入口に戻ってくる!! どうなってるんだ!!」
イライラと頭を大きく振り、また森の中へ入っていこうとする。
「おい、オーサー」
「何だ!? って貴様らは」
突如現れた一向に、オーサーはぎょっとしている。
「怪しいやつらとは思っていたが、エルフと一緒とはな」
そう言って剣をこちらに構えた。
「おいオーサー、キララ姫の命が惜しければ黙って俺たちについて来い」
「脅しているつもりか? 貴様らなど俺の剣で」
「あほ! 俺たちはキララ姫を助けに来たんだよ。だからお前も来い」
「そんな戯言には騙されんぞ! それにさっきから人を呼び捨てにしたり偉そうに話しかけたり、貴様! どういうつもりだ! バカにしているのか!」
今にもランディに切りかかりそうな雰囲気の中、セシルはオーサーの前に走り出た。
「お願いです、オーサーさん。話を聞いてください。時間がないんです! このままだと戦争になってしまいます!」
セシルの姿に、オーサーはうっとたじろいた。
「だ、だがエルフは姫を攫って」
「マリオン王子が必ず助けてくれます! あなたの力が必要なんです! 僕達を信じて!」
「うっ」
オーサーはまぶしいものを見るように目を細めた。セシルの涙目による訴えの効果は絶大らしく、オーサーは眉間にしわを寄せると剣を降ろした。
「……姫をお救いするんだな。偽ると命がないぞ」
「じゃぁ本当だったらお前の命がないぞ」
「なんだと?」
「あ?」
「はいはい、もうおしまいです。さっさと行きましょう」
バチバチと火花がランディとオーサーの間に散ったが、ギィによってかき消された。
「マリオン王子、誘導お願いします」
「わかりました」
ギィの言葉にマリオンは頷き、先頭に立った。
「ちぇ、ギィのやつバカにしやがって」
ランディはふんと鼻を鳴らして後ろをついていく。
(最初からギィが説明してくれればややこしくならなかったのに)
それともギィはランディがくってかかるのをわかっていて任せたのだろうか。セシルはこれが人が悪いということなのかと学習した。
「一体何なんだこのパーティーは。あの女は口が悪すぎるし、子供までいるし……」
オーサーはぶつぶつ言いながらも後ろをついてくる。
(怖そうな人だけど、話しを聞いてくれる人でよかった)
少しだけほっとしながら、セシルも後に続いた。
ランディの作戦を聞いて、オーサーは愕然とした。
「ほ、本当にそれしかないのか? 何も考えていないのと同じではないか」
「んだと、失礼な。嫌なら一人で突撃しやがれ。骨ぐらい拾ってやるから」
「何だと、この口悪女」
「んだよ熱血ハゲ」
「ハゲてない!」
「はいはい、もういいですから。とにかく、やるしかないんです。でないとこの大陸は戦火に包まれることになるんですから」
ギィの言葉に二人は舌打ちをしてにらみ合いをやめた。
「仕方ない。この命、キララ姫に捧げます」
オーサーの決意の言葉に誰も何も言わなかった。
しばらくすると城が見えてきた。マリオンの姿を見た兵士達は慌てて駆け寄ってくる。
「マリオン様! 入ってはいけません、王はあなたを殺害しようと考えています」
「わかっている、それを承知で姫を救いに来たんだ」
「王は何かにとりつかれているのです、もはや王子を王子とも思っていません!」
兵士に縋られたが、マリオンの決意は固く引き留めることはできない。仕方なく兵士達は城門を開けた。
「キララ姫はおそらく地下室に捕らえられています」
まずパーティーは二手に分かれた。ランディとギィがエルフの注意を引き付けて、オーサーとセシルがマリオンの先頭を行き、マリオンを地下室へと向かわせる作戦だ。
「エルフ王! 出てきやがれ、姫を攫うだなんて恥を知れ!」
ランディが大声で叫ぶとエルフ達は一斉に飛び掛かってきた。
「スリープ!」
ランディに飛び掛かってきたエルフに向かってギィがスリープをかけると、彼らはバタバタと床に倒れていく。
「よし、この調子でいくぜギィ!」
ランディ達が引き付けてくれている間に三人は地下室へと走る。
「王子、王の命令なのです」
そう言ってエルフが飛び掛かってくる。オーサーはセシルを守りながらエルフに当身していく。
「ここは俺たちが引き付けるから、行け!」
「はい!」
マリオンは地下室へ続く階段を降りて行った。作戦はこのまま成功かと思われたのだが、予想外の事が起きる。
「モ、モンスターだ!」
セシルの言葉に、全員がぎょっとした。城の中にモンスターが現れ、誰彼構わず攻撃しだしたのだ。
「誰だよ! モンスターを城内にいれたアホは!」
ランディが狙いを定め矢を解き放つ。ギィも魔法で対処している。
「くそっ」
オーサーは必死にセシルを守りながらモンスターを切り捨てていく。何故こんな子供を戦場につれてきたんだアイツらと思いながらだったからか、隙が生まれモンスターがセシルの方へ行ってしまう。
「しまっ」
その瞬間、ごぅっと大きな火蜥蜴が火柱を立てながらモンスターを飲み込んだ。
「な……」
セシルの魔法によって真っ黒こげになったモンスターを見て、オーサーはたじろいた。
(まさかこんな子供が……)
セシルはサラマンダーを唱え、モンスターをやっつけていく。
「オーサーさん、マリオン王子が心配です。僕達も行きましょう」
「あ、あぁ、そうだな」
セシルとオーサーが地下室へ向かおうとするとランディ達も合流してきた。
「モンスターがうじゃうじゃ湧いてくるぜ」
「エルフも襲われています、これは何かがおかしいですね」
四人で地下室へ向かうと、マリオンはもうすでに絶命寸前だった。マリオンの前には二本足の牛が立ちはだかり、筋肉質な腕を振り上げマリオンを殴り飛ばす。すると王子の細い体は吹き飛ばされ、がつんと壁に頭を強く打ち付けた。
「マリオン!!」
檻の中から涙を流し、悲痛な声でマリオンの名を呼ぶ美しい女性がいた。
「キララ姫!!」
オーサーが剣を構え、モンスターに切りかかる。モンスターは腕を振りかぶってオーサーを殴り飛ばそうとするが、腕をランディに矢で打たれ動きが一瞬止まった。その隙にオーサーはモンスターを一刀両断した。
「ひゅぅ、すごいな」
ランディが口笛を吹いてオーサーを称賛した。オーサーは地下牢のカギを壊し、扉を開けて姫を牢から出した。
「あぁ、オーサー、来てくださったのですね」
「キララ姫、ご無事で」
「えぇ、あぁ、マリオン!!」
キララは泣きながらマリオンにかけよる。
「キ、キララ姫?」
「ひゅぅ! 二人はそういう関係なのか、いいねぇ」
「そ、そんな……」
オーサーがヨロヨロと膝から崩れ落ちると、ランディは不謹慎だとわかりつつもにやっと笑った。
瀕死のマリオンにセシルとギィは必死に回復魔法をかけ続けるが、マリオンの怪我はなかなか治癒しづらい状況だった。
「ギィ、どうしよう。血が止まらないよ」
「攻撃魔法は得意なんですが、回復は苦手なんですよね、私。もう一人ぐらい、欲しいですね」
「あぁ、わたくしに回復魔法が使えたら」
するとその様子をじっと見つめていたランディが無言で近づいてきた。
「ランディ?」
「ん」
そう言って手をマリオンの額に当てる。するとぱぁぁと光が生じ、マリオンの頭部の傷がふさがっていく。
「す、すごいランディ! 回復魔法使えたの?」
「ま、まぁな。俺が使える唯一の魔法だ。といってもセシルほど回復力はないんだけどよ」
「いえいえ、すごい回復力ですよ。ランディとセシルは聖なる魔法の力が強いんですね」
「へへ、照れるぜ」
三人は回復魔法をマリオンにかけ続けた。その間もキララはずっとマリオンに呼びかける。するとようやくマリオンの目がうっすらと開いた。
「マリオン! あぁ無事でよかった。あなたがいなければわたくしは生きていけません」
「キララ……無事でよかった……危険な目に合わせてしまいすまない……」
二人手を取り合い、じっと見つめ合う。その様子を見てオーサーは泣き崩れた。
「そんな……姫、どうしてエルフの王子なんかと……」
「半年前、私は人間とエルフはこのままでいいのかと思い立ち、姿を消してサウスの街で人間観察を始めました」
マリオンは懐かしそうにどこか遠くを見つめる。
「エルフは元々好奇心が旺盛な生き物です。なので、城の中も見てみたいという誘惑に勝てずとうとう中へ入り、中庭へと行きました」
「その時、マリオンの姿を見ることができた私と出会ったのです」
二人はお互い一目ぼれだった。まるで運命のように惹かれ合い、密会を重ねた。
「そ、そんな、城にエルフがうろついていただなんて」
「オーサー、その言い方はやめて。エルフも人も、どちらも心を持って生まれた存在。きっと話し合えばわかりあえるはずです」
「ですが、エルフは姫を攫ってこの大陸から我々人間を追い出そうとしたんですよ!? どう話し合えというのです」
オーサーの声が地下室に響く。誰も何も言えなかった。
「……私が責任を取ります、王子である私が」
マリオンはギィの助けを借り、必死に立ち上がる。
すると地下室に数人の武装したエルフが降りてきた。
「やっべ、さすがに戦いづらいぜ」
狭い空間だと魔法も弓も戦いづらい。全員で構えていたのだが、彼らは全員深々と頭を下げた。
「王子、我々は王の考えが理解できません。王は二週間前からおかしくなりました」
「我々は戦争など望んでいません!」
「どうか今一度王を説得してください! 我々は王子についていきます!」
「お前たち……」
マリオンはぎりっと下唇を噛んだ。そしてキララをぎゅっと抱きしめる。
「ひゅぅ」
「うぐぅぅ、ひ、姫ぇ」
悲しむオーサーを、ランディは明らかにおもしろがっている。ギィがコラとランディの背中を軽く突くと、ランディはちぇっと舌を軽く出してやめた。
「キララ、何があってもあなたを愛している」
「私もです、あなた以外に伴侶はありえません」
二人が抱き合っているのをセシルは悲しい気持ちで見ていた。
(二人で幸せになってほしい。このままマリオン王子を死なせちゃだめだ)
セシルなりに考えてみる。
(おかしくなったのは二週間前。何でなんだろう。二週間前って何かあったっけ……)
急に人格が変わったり攻撃的になったりする、それはまるでプルンの森の精霊達に似ているとセシルは思った。
(一体何が起ころうとしているんだろう)
セシルが考えている間に二人は別れの挨拶を済ませたらしい。
「オーサー殿、キララを頼みます。サウス王にこの度のことは本当に申し訳ないとお伝えください。そして……キララ、君の幸せを願っているよ」
「マリオン!」
そう言ってマリオンは部下を連れて行ってしまった。
「あぁ、マリオン! マリオン!!」
キララが泣き崩れてしまった。オーサーはオロオロしながら何もできずにいる。ランディとギィも辛そうな表情をしている。
「オーサー、お願いです! マリオンは死ぬつもりです! お願いですから彼を助けて……!」
「姫……」
キララに泣きつかれ、オーサーは涙を我慢しているような表情になる。
(怖い人だけど、きっと根っこは優しい人なんだ)
オーサーは涙を流さず、背中で泣いていた。戦闘中もずっとセシルを守りながら戦ってくれた。
(誰も悲しむことのないようにしたいけど、どうしたらいいんだろう)
セシルが悩んでいると、ランディがはぁと大きくため息を吐いた。
「しゃぁねぇなぁ、オーサー。手伝ってやるぜ」
セシルはランディのこういう所が好きだと思った。
(プルンの森でも、ランディは助けてくれた。ランディも口は悪いけど、優しい人なんだ)
オーサーは小さな声で助かると言ったのだった。
マリオンは部下のエルフを一人だけ残してくれていた。おそらく森を抜ける案内をさせるためだろう。
「我々はエルフ王の元へ行く。だが、姫をどうするか……」
セシルはキララを見つめた。涙にぬれた長いまつげに、甘いチョコレートを連想させる少しウェーブかかった長い髪。知的な顔立ちをしていて、ランディと同い年なのに彼女の方が年上に見えた。
(お姫様だもんね、一人残すのは危険だ)
するとエルフが地下牢の壁には隠し扉があって、エルフの穴に続いていると言い出した。
エルフに案内され、隠し扉をくぐるとエルフの穴に入る。中は真っ白な空間で、扉が三つついていた。
「ここならまだ地下室より安全かもしれませんね」
ギィがそう言ったからか、オーサーは納得し姫とエルフをエルフの穴へ残した。
「いいか貴様、姫に何かあったら承知しないからな」
そう脅し文句もつけてだが。
「この扉はどこへ続いているの?」
「それがわからないんだよなぁ」
どこに続いているかもわからない扉があるのかとオーサーはぎょっとした。
「姫、くれぐれも扉には」
「わかっています。オーサー、皆さん、マリオンをお願いします……!」
キララ姫の涙に背中を押され、一行は謁見の間に走った。途中モンスターが襲ってきたがそれをオーサーが怒涛の勢いで薙ぎ払っていく。
「すごいな、怖ぇ」
「彼はきっと失恋したんです。失恋を怒りに変換しているのでしょう」
「男の嫉妬は怖いな」
ランディとギィが失礼なことを言い合いながらオーサーに続いていく。
(ギィも口が悪いと思う)
ランディやオーサーのように直接的ではないが、ギィも同じレベルだとセシルは思った。
謁見の間の扉前にて、ギィが叫んだ。
「感じます、ここに私の体があります!」
突然の叫びに、オーサーはぎょっとした。
「何を言っているんだ、貴様の体はちゃんとあるだろう」
「いや、いいんだ。そうか、あるのか。ならちゃんと持って帰ろうぜ!」
ランディの言葉にオーサーは増々眉間のしわを深くする。
「えぇい、もういい! とにかく行くぞ!」
オーサーが扉を勢いよく開くと、部下のエルフは全員倒れていた。ボロボロになったマリオンだけが王の前に立ちはだかっている。
「ふはは、これで最後だ。エルフの王子、マリオンよ。父の手で死ぬがいい!」
「ち、違う、貴様何者だ!? 父上をどうするつもりだ!」
王の手を振り下ろすと、雷撃がマリオンの脇腹を突き抜けた。
「が、がはっ」
マリオンは血を吐きながら床に倒れる。
「ふ、ふはは、ははははは! これでもはや邪魔者はいない! エルフも終わりよ!!」
邪悪に笑う王に、ランディは戸惑っていた。
「あれは王なのか? モンスターなのか? どう戦えばいいんだ!」
「知れたこと! どっちであっても真っ二つにたたっきるのみ!!」
オーサーが剣を構えたので、ギィが止めた。
「マリオン王子の言葉を聞くと、どうやら王は操られているようです。だから命を奪わず手加減すべきです」
「くっ、わかった」
オーサーが渋々頷くと当時に、雷撃がギィの頭目掛けて直撃した。
「あっ」
強い雷撃に体であるプルン達が耐え切れず失神してしまい、体の部分が崩れ落ちた。
「く、首が浮いてる!?」
首だけになったギィはぷかぷかと空中に浮いている。
「プルリン!」
セシルが崩れ落ちた体の方に駆け寄る。オーサーは何故首だけが浮いているのに皆驚かないのだろう、それとも驚く自分がおかしいのだろうかと脂汗をだらだらと流した。
「どうして首だけで生きていられるんだ? やつはモンスターなのか?」
震える声でつぶやくオーサーにセシルはこそっと耳打ちした。
「あのね、ギィは天使様なんだよ。だから平気なんだ」
「て、天使だと」
そんなわけないだろうと言い返したいが、セシルの曇りなき眼で見つめられるとオーサーは言い返せなかった。
「……一番マトモに見えないやつが一番マトモだったりするからな……そういうことにしておこうか」
「うん!」
オーサーが無理やり納得してくれたのでセシルは笑顔で頷いた。
「よっしゃ、いっちょあのオッサンを痛めつけてやろうぜ!」
ランディの言葉に全員が戦闘態勢に入った。
「ふはは、何人来ようと一緒だ!」
王は雷撃を放ち、四人を分散させる。ギィとセシルが同時に火の魔法で攻撃するが魔法のシールドで塞がれてしまう。
「さすがエルフですね、魔法耐性が高い」
あのシールドを叩き割るほどの魔力でないと魔法は効かないのか。セシルはどうしようと考えながら先ほどから連続で降り注ぐ雷撃を必死で交わしていた。
「な、何で僕ばっかり!」
「てめぇ、ロリコンかよ!!」
ランディが怒りの一撃を王に放った。
「ぐわぁ!!」
矢は見事王の手を突き刺した。その隙にオーサーがタックルをし、押さえつける。
「観念しろ!」
王はあきらめが悪くジタバタと暴れ続けた。
「……えいやっ」
仕方なくセシルは持っていた杖で王の頭を思いっきり殴った。すうと王はがくりと力を失い、動かなくなった。
「ニンゲン、コロス、コロス」
王はうわ言のようにその言葉を繰り返す。その様子を見て、マリオンは悲し気に手を顔で覆った。
「父上はおかしくなってしまった……もはや正気ではない」
「正気でなくなった人を正常に戻す魔法を知っていたはずなんですが……思い出せません」
ギィが申し訳なくつぶやく。その時、セシルのネックレスが熱くぼぉっと光った。
(あったかい、まるで誰かが力を貸してくれてるみたいだ)
力と呪文が頭の中に流れ込んでくる。
「ギィ、僕その呪文知ってるかもしれない」
ぼぉっとした表情でセシルはエルフ王に手をかざし、長い呪文を唱え始めた。
唱えた時間はほんの数分だったのかもしれない。だがセシルにとっては気の遠くなるほど長い時間だった。汗を流しながら唱え終わると、王の表情から狂気が消えた。
「ふぅ」
唱え終わってセシルは倒れそうになった。聖なる魔法はレベルの低いセシルの体力も気力も消費しつくし、眠たくて溶けそうだった。
「しっかりしろ! ここはお前の家じゃないんだ!」
オーサーに渇を入れられ、セシルは気力を振り絞り倒れないようにした。
「う、うぅ、ここは? 長い悪夢を見ていた」
「ち、父上。私がわかりますか?」
「マリオン……あぁ、ではあの悪夢は全て現実なのか」
正常になった王はマリオンに急いでサウス王に和平を申し入れ、謝罪に行くよう命じた。
「ギィの体はどこにあるんだよ」
「本当ですね、気配を感じはするんですが」
ランディとギィが辺りを見回す。ぶんぶんと飛び回るギィを見てオーサーがハエか貴様はとつぶやいた。
「ここです! ここにあります!」
玉座の後ろにある扉の前でギィは止まった。
「そこは宝物庫です」
「開けてもいいか?」
「父上、いいですか?」
「あなた方はエルフの危機を救ってくださった恩人だ、どうぞ入ってください」
マリオンにカギを開けてもらい、中へ入る。中にはたくさんの宝箱が並んでいて、ガラスケースに宝石が並んでいた。その中でも黒くて大きな宝箱が気になったランディはこんこんと宝箱を叩いた。
「それはいつからあるのかわからないのですが、かなり昔からここで保管している宝箱です」
「へぇ、開けるぜ」
「あ、あーーっ、ランディちょっと待ってください!」
「待てと言われたら余計に待てないだろ!」
へへと笑ってランディは宝箱を開けて絶叫した。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!? す、素っ裸じゃねぇか!」
「だ、だから待ってって言ったのに」
ランディは顔を真っ赤にして飛びずさり、セシルの後ろに隠れた。
「あの宝箱にはギィの体が入っていたんだね」
「だからって何で素っ裸なんだよ。レディに失礼だと思わないのかよ」
「レディ? ヤマザルの間違いではないのか?」
オーサーの言葉に、ランディは無言で回し蹴りを食らわせた。
「ふぅ」
ギィは宝箱の中に入り、頭部を胴体にくっつけた。首と胴体は繋がり、空中に浮いていたが前ほど素早く飛べなさそうだった。
「あとは手足だけですねぇ」
そう言うと目を覚ましたプルン達が手足になりギィにくっつく。
「胴体だったプル吉とプル坊とプルモンはどうする?」
「せ、センスのないネーミングセンスだな! 貴様らしい、可愛らしさの欠片もない」
「この子達の名前をつけたのはセシルだぜ」
「え」
セシルが傷ついた顔をしたので、オーサーはオロオロした。
「残ったプルン達はエルフの森で預かりましょう」
「いいの?」
「彼らは幸い大人しそうですし、それにあなた方の仲間ですから」
そう言ってマリオン王子は優しく微笑んでくれた。