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転生したので厄介事はスルーしたい。~変身たぬきつき女子は、砂漠の皇子に愛される~  作者: 藤谷 要


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第16話 皇子の提案2

 元々アムールは、あまたの神々を奉り、サルグリーア(護られし者)も神々の子として、尊ばれた時代があった。神の恵みのお陰で、水が豊かな緑溢れる土地だったという。しかし、サルグリーアだけではなく神々も怒らせた結果、ネグロガ(呪われし者)になってしまった。ネグロガは水を枯らし、その恵みを奪ったとされる。だから、サルグリーアと神々をぞんざいに扱えば、害をなすネグロガになる。そう信じられていた。

 だが、百年ほど前、血みどろの争いが起きたとき、サルグリーアまでも戦場に駆り出された結果、その異能のために恐怖の対象となってしまった。


 現在まで神に愛された者――サルグリーアを排除し続けてきた因果なのか、資源の採掘に困難を伴うことが多くなってきた。それに加え、ネグロガが増えて地域住民を脅かしていると、噂で聞く機会が増えた。

 まるで言い伝え通りに。


「今までは偏見や迫害を恐れて、サルグリーアは家族から隠されて生活をして、国ですら存在を見つけることが難しい状況だ。そんな現状を打破するために、アムール王国は、サルグリーアを手厚く保護することにしたのだ。サルグリーアと精霊を軽視し続けた結果の出来事ならば、サルグリーアを保護すればよいのではと」

「なるほど。だから、サルグリーアである姫様との結婚話は大事なんですね」

「その通りだ」

「でも、そもそもこんな大事なことを私に話して大丈夫なんですか?」

「いいや。本来なら、勝利の条件を余人に漏らせば、その時点で失格になる」

「ええっ!?」


 失格という厳しい条件を聞いて、理央は思わず声を上げて驚いてしまった。


「だが、この秘密を打ち明けたのは、訳がある。一つは、兄上に王位を継いで欲しいということ。二つ目は、オルビア姫、あなたのことだ」


 彼は透き通るような青い目で、理央にことを真っ直ぐに見つめる。その瞳は、姫の姿をした理央自身まで見通しているような、そんな鋭さがあった。

 咄嗟に逃げたくなるような、危うさを感じる。胸の鼓動が速くなった気がした。


「失礼だが、あなたの身辺を調べさせてもらった。以前、抱き上げたときに右手に感じた違和感が気になって」


 アディードの視線が、一瞬だけ理央の下半身に向けられて、さらに緊張が高まっていく。

 やはり、理央が心配した通り、彼に怪しまれていたのだ。

 相手の動向を必死に落ち着こうと努め、探るように彼を見つめる。

 アディードも、視線をしっかりと理央に向けて、口をゆっくりと開く。


「リオという人物は誰ですか?」


 彼の言葉を聞いた瞬間、理央は息を呑んだ。

 彼の青い目が、こちらを少しも逃さないように見ている。


「宮殿にいるヤッサム国の者たちの名前を我々は把握している。だが、あなたたちを探っているうちに、我々が知らない人物の名前が、彼らの口に上がっていることを知った。それがリオという名前だった」


 心臓が激しく鼓動する。胸が締め上げられたみたいに苦しくなる。頭が真っ白になり、焦りの想いばかりが占める。

 理央は何も答えられない。答えていいのかも分からない。ただ黙っていると、向かいに座るアディードが言葉を続ける。

 ヤッサム国の減っている護衛兵の数、ハインリヒ公爵の子息であるハロルドの所在など、的確に不審な点を挙げてくる。

 なぜ、彼らがいないのか、答えられるわけがない。

 理央は救いを求めるように、隣に座るイリアを見た。彼女もどう反応してよいのか分からないようで、とても困惑した表情をしている。

 理央が判断しなくては。そう感じた瞬間、思わず泣きそうになる。


「姫自身の行動も、用がない限りは、屋敷の中に閉じこもりがちで、まるで他の者に姿を見られるのを避けているようだった」


 以前、目撃した猿の精霊を思い出した。あれは理央たちを探るように窓から見ていた。恐らく、他の人には見えない精霊を使って、理央たちの周囲を調べていたのだ。

 ということは、アディードが精霊の加護を持っているのだろうか。


「姫、私はあなたを追いつめたいわけではない」


 アディードの声のトーンが穏やかなものに突然変わり、理央は驚いて視線を彼に戻した。

 彼はこちらに同情した目を向けている。きっと、彼は今までの言葉以上に、理央たちの背景を察しているに違いなかった。


「私はあなたの力になりたい。その代わり、私を選ばないという条件を呑んで欲しい」


 力になりたい。その言葉が心に響いた。彼になら、打ち明けても大丈夫だと思えるようになっていた。

 それにきっと、こちらが誤魔化そうとしても、既にここまで疑いを持っている彼を納得させることは不可能だろう。

 それに、取引条件もそこまでヤッサム国に不利なものではないはずだ。それでも自分が選んだ答えが間違っていないか、不安でたまらなかった。


「あの、一つお聞きしたいことがあります」


 念には念を置いて、理央は最後の気がかりを晴らそうとした。


「なんだ?」

「どうしてエディルド皇子を選んで欲しいのでしょうか?」


 理央の問いにアディードはその疑問はもっともだという感じで、感心したように頷いた。


「ただ単に、私より兄上の方が王に向いていると思ったからだ。それに、王も本音では、皇太子に兄上を望んでいる」

「え、どうしてですか? 私に選ばれた者が皇太子になるなら、あなたにも同じようにチャンスがあると思うのですが」


 アディードは諦めきった表情で首を振る。


「そもそも女性に選ばれるという時点で、女性に好かれる兄上のほうが圧倒的に有利な条件だ。人付き合いの上手さでは、兄上に到底敵わない」


 そんなことない、とは言えなかった。アディードの初対面の者に対する口下手は、理央もよく知っている事実だった。それを悪いとは思わないが、貿易や外交が盛んなアムールでは、兄のエディルドのほうが次期王として適任と言えば、そうかもしれない。


「では、何故、アムールの王は、最初にエディルド皇子を選ばなかったのですか?」

「それは、母上が原因だと思われる。母上はアムールでも有力な部族の出身だ。だからこそ、母の機嫌を損ねたくないのだ。死んだ皇妃より、存命の皇妃のほうが影響力は大きい」

「でも、皇妃様のお話を聞いた後では、エディルド皇子をとても選びづらいのですが……」

「ああ、そのあたりは、私が上手く母に説明して、あなたが恨まれないように気を付けたいと思う」


 理央はその言葉を聞いて、やっと迷いが消えた気がした。一応、彼の言質を取れたのだから、あとはこちらが覚悟を決めるだけだ。

 隣のイリアを改めて見つめる。彼女は何も言わない。ひたすら理央の決定を待っているようだった。


「私、彼に言おうと思います」


 そう事前に確認すると、「それも仕方がないと思います」と彼女は観念したような声で返事した。

 理央は再度アディードを見つめる。状況が激変する一大事を理央の責任の元で、発言するのだ。この一瞬が、とてつもなく重く感じる。


「実は、私は、オルビア姫ではないのです」


 そう言った声が震えていた。胸元に置いた手までも微かに震えている。決して漏らしてはならない国の秘密を理央の一存で話したのだ。

 真実を口にした瞬間、自分でも予想もしなかったほど動揺して、恐れと罪の意識がどっと堰を切ったように溢れ出ていた。

 気付いたら子供のように泣いていた。


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