月見
なぜこんなことに…
手を掴まれたままに私は走廊に男と並んで座り、空を見上げていた。今夜の月は本当に美しく、夜であっても人の顔がわかるほど光が強かった。やはり見なければ勿体無いくらいではあり、わざわざ外に出て見ることはおかしくはない…が月見に初めて出会った人を誘うだろうか。それに男の正体は全くもってわからない。汀家の者だとしたら今夜は近づいてこないだろうし、無関係の者だとしたら警備の目を盗んでここまで入り込むほどの手練れということだ。暗殺者だとしたら私を殺しているだろうけれども、こんな格好をしているから気づいてないかもしれない。いや探っているのか?だったらなぜ話しかけてこないんだ?………読めない!!!顔をなるべく隠しつつ薄絹のすきまから男をちらりと見る。
男は下を向いている。いや月見ろよ。いやなんで誘ってきたんだ。すっごい衣を握りしめているし。…もしや体調が悪いのか?それは盲点だった。
「…あの」
びくーんと面白いくらいに男は反応する。
「体調が優れ…「美しいです!!!」
ばっと男は面をあげる。びっくりした。急に動かないでほしい。顔は真っ赤に染まっていて本当熱でもあるのかと思ったが食い気味に発言しているので大丈夫そうだ。美しい?…はい?ああ月か。君見てないじゃないか。
「そう…ですね」
はっとして肩を落として下を向く。…なんなんだ急に元気になったりしょんぼりしたり…よくわからない態度である。でもこんな大きな声を出したり、全く殺気を感じられないのだから暗殺者とは思えない。だめだ、しゃらくさい!
「…あなたはどこの誰ですか。」
「そうでした!!!」
男は急に立ち上がると石に足を取られて…豪快に転んだ。
「ぷ」
思わず笑みが漏れてしまう。彼は呆然としていたが私の声に正気を戻ったようで慌てて立ち上がった。どうにしても恥ずかしいようで真っ赤な顔をして衣に付いた土を払っていた。申し訳ないと思っても笑いが止まらない。
ようやく笑い止んだ頃、涙を拭っていると彼は立ち尽くし、青い瞳が私を縫いつける。本当に見たことないくらいの美しく、逃れ難い光だった。