秘密
今夜は妻の実家である汀家での宴であった。
今夜は汀家の別棟に宿泊する予定であり、宴で皇帝夫妻は義父への挨拶、乾杯をすませ、早めに退出した。
別棟に移ると、本棟の庭で行われている宴から囁やかな琵琶の音色が流れてくる。
月は天高く昇り、辺りを明るく照らしていた。
醒月はすぐ前で流れてくる音よりもこのような遠くから流れてくる音色を聴くのも良いなぁと見当違いのことを考えていた。今の状況が逃げられないものだとわかっていたからだ。
彼の妻が醒月の姿をみて感嘆の声を漏らす。「ああ!!!麗しいわ!!知っております?今はこのような色が城下では流行ってるんですって…でももう少しはっきりした色合いの方がお似合いかしら…」
有鄰の前に座る人は桃色の衣に淡い空色の裙を身に纏い、黒檀の艶やかな髪に、雪のような白い肌。きりりと吊り上がった真っ黒な瞳はけぶるようなまつげと唇の色と同じ紅で縁取られている。鼻筋はすっと通り、頰は桃色で染まっている妙齢の女だった。
醒月は呟く。
「…美しいか?」
「ええとても!!!」
「何故にこのようなことをするのか」
「良かれと思ってですわ」
「こう言った衣は貴方の方が似合うと思うのだが。」
「いいえ、私にはこのような未婚の女子が着るような色は着ることができません。」
「いや私も妻がいるのだが。」
そう、この場には醒月と彼の妻である有鄰しかいない。有鄰はにこやかに笑うと
「ええ。お世話になっておりますよ旦那様。…ですが女子としての貴方は未婚でございましょう?醒月様。」
思わず彼が頭に手をやると、いつもより軽やかな袖が手から流れ落ち、女人の衣を身につけていると実感させた。
「…何故こんなことを。」
世にも美しい女人の口から溢れでたのは先ほどと変わらぬ疑問の言葉であった。