第71話 クラリスの返還要求。
アリサを身請けしてから数日が経過した。
アリア自身も仕事にも慣れてきて、周りの皆とも馴染んできた様子だった。
「この様子なら大丈夫だな」
御影は少しホッとした。
しかし、ホッとしたのも束の間、執事のロイクが書簡を手にやって来た。
「旦那様、王宮からお手紙が届いております」
「おう、分かった。ありがとう」
御影はまたかとも思いながら、その書簡を開いた。
『明日の朝、王宮へと来られたし』
書簡にはそう書かれていた。
「こりゃ、また厄介事だな」
御影は少し嫌な予感がした。
その日は夕食を食べるとそのまま眠りに就いた。
翌朝、御影はいつもより少し早い時間に目が覚めた。
「さて、行くか」
いつものスーツに袖を通す。
「これも少し暑くなってきたから夏用も用意しなきゃな」
最近は日差しが出ると少し暑いくらいの気候になってきていた。
屋敷から少し歩くと王宮が見えてきた。
王宮に入るとメイドさんにより応接間へと通された。
しばらく待つと陛下と公爵様、ギルド本部長が入って来た。
「待たせてすまないな」
陛下はいつになく厳しい顔をしていた。
「どうかしました？ そんなに怖い顔して」
「実はな、お前さんの所のクラリスさんの兄を名乗る人物からクラリスさんの返還要求があった」
「まさか、了承したんじゃ無いでしょうね？」
御影の目つきが鋭くなった。
「する訳が無かろう。本当にクラリスさんの兄なのかもさだけではないし、そんなことをしたらお前さんを敵に回す事になる。そしたらこの国は終わりだ」
「そんな大袈裟な」
「いいや、お前さんは身内に手を出したら容赦なく叩き潰す。そういう男だ」
陛下の目は真剣だった。
「それで、要求を飲まないと相手は何と言っているんです？」
「全面戦争も辞さない、との事だ」
「たかが、エルフの里が全面戦争って」
御影は鼻で笑った。
「それが、侮れないかもしれないぞ。いくらお前さんでもな」
「と、言いますと？」
「この返還要求の書状の送り主は国でもトップクラスの魔導士だ」
「はぁ、それが？」
「それがってお前なぁ」
陛下は半分呆れていた。
「いっそ里ごと燃やしますか」
「それはダメだ！！」
「いや、冗談ですよ？」
「そうか。お前さんならやりかねんと思ってな」
「僕ってそんな非人道的に見えます？ それで、策は何かあるんですか？」
御影は陛下たちに尋ねた。
「それがあったら苦労はせんよ」
「まぁ、そんな事だろうと思いましたけど」
「頼む、なんとか収めてきてくれんか？ うちとしてもエルフの里と一戦交えたくは無いのだよ」
「分かりました。とりあえず一晩考えてみます。考えて駄目そうなら正面突破で行きますね」
「任せる」
話を終えると御影は王宮を後にした。
屋敷に戻ると御影はクラリスを呼んだ。
「と、いう訳でクラリスを返せとエルフの里が言って来た。帰りたいか？」
「いいえ、私はここで御影さんに一生ついて行く決めましたから。それと」
次にクラリスから放たれた言葉は衝撃的なものだった。
「私に兄は居ませんよ」
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