表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

70/77

第69話 遊女を身請けしました。

 御影と夕霧は屋敷までの道のりを歩いた。


「身請けして頂いたということは、私はあなた様の妻や愛人となればよろしいのでしょうか?」


 道すがら夕霧が御影に尋ねた。


 遊女が身請けされるということは、ある程度の自由と引き換えに身請けした者の愛人や妻となる事が一般的であった。

身請けされた遊女は年季が明ける前に遊郭を出ることができるため、たとえ愛人枠であろうと、いわば、勝ち組なのである。

しかし、自由の身になったとはいえ、実質的には男の顔色をうかがい、かごの中の鳥のままで暮らさざるを得なかったという。

実際に身請けされて幸せだったかは人それぞれだったのだろう。


「いや、別にそんなつもりで身請けしたんじゃない。夕霧にはうちのメイドカフェで働いてもらおうと思ってな。まあ、スカウトってやつかな」

「え、それだけのためにあんな高額な身請け金まで支払ったんですか?」

「まあ、それだけって訳じゃないけど、主な理由はそれかな」


 夕霧は驚いた表情をしていた。


「はい、着いたよ。ここが僕の家」

「え、大きい......」


 夕霧はほとんど遊郭から出て来なかったため、遊郭から反対方向にある御影の屋敷など、知る由もなかった。


「まあ、入ってくれ」


 御影に促され、夕霧も中に入った。


「ただいまー」

「お帰りなさいませ。おや、もう、身請けしてこられたのですか?」

「ああ、まあな。彼女は夕霧だ。今日からうちに住んでもらおうと思っている」

「お、お世話になります」


 夕霧はペコッと頭を下げた。


「叢雲家の家令を務めております、ロイクと申します。よろしくお願いいたします」


 ロイクが綺麗に一礼した。


「ところで、夕霧って源氏名だろ? 本名は何て言うんだ?」


御影が尋ねた。


「わ、私の本名はアリサと申します」

「アリサか。いい名前だな。これからはアリサと呼ぶ事にするよ。よろしくな」


 その言葉を聞くとアリサはポロポロと涙を流し始めた。


「ど、どうした? 俺、何かしたか?」

「い、いえ、嬉しくて……本名で呼ばれるのなんて何年ぶりだろう」


 遊郭にいるときはずっと夕霧として過ごしてきたのだから無理もない。

遊女としてお客を取るまでに10年、遊女になってからは3年ほど働いていたのだ。

その間はアリサではなく、夕霧として、生活していたのだ。


「落ち着いたか?」

「は、はい。取り乱してすみません」

「いや、気にする事はないさ。アリサの部屋二階だから、夕食までゆっくりしてて。ロイク、案内頼むよ」

「承知致しました」


 ロイクの案内により、アリサは二階へと上がって言った。


「杏にはまた何か小言を言われる気がするな……」


 そんな事を考えながら御影も自分の部屋へと入った。


 そして、御影は店の経営状態などの一通りの仕事を始めた。




お読み頂きありがとうございます。

『面白い』『続きが気になる』という方は、ブクマ、評価をお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ