第65話 店外デートはお断りです。
メイド喫茶セルヴァントは今日も昼から営業している。
最近、気づいたのだが、常連さんは何となく来る時間が決まっていたりする。
御影は本店の方に出勤していた。
「杏ちゃん今日も可愛いね」
「ご主人様もいつも来てくれてありがとうございます」
このご主様は開店当初からの常連さんであり、杏が出勤するときにはほぼ必ず顔を出している。
「今日もかわいいからドリンク奢っちゃおうかな」
「いいんですかぁ。ありがとうございます!」
セルヴァントにはお気に入りのメイドさんにドリンクを奢って、一緒に飲める制度を新たに導入したのだ。
ドリンク料金は全額、もらったメイドにバックとして入るシステムになっている。
「御影さん、ご主人様からドリンク頂きました」
「はいよー」
御影は杏が好きでいつも飲んでいるソフトドリンクを手渡した。
「ありがとうございます」
それを持って杏はまたホールに戻って行く。
「では、乾杯!!」
杏は笑顔で乾杯をしていた。
「ねぇ、俺さ、杏ちゃんにだいぶお金使っているよね?」
「いつもありがとうございます!」
「だからさ、そろそろいいんじゃない?」
その客はニヤニヤとした表情を杏に向けた。
「いいって何の事ですか?」
「だからさ、お店じゃなくて、外で会おうよ。美味しいレストランとか知ってるし、ご馳走するよ」
「そ、それは出来ないルール何ですよ。申し訳ありません」
杏はなんとか笑顔を保っていた。
「何でだよ!? 俺はこんなにも君を想っているのに!!」
男は声を荒げた。
「ですから、会いたかったらお店に来て下さいね」
その騒ぎを聞いた御影はキッチンから出て来た。
「お客さん、困りますよ。他のお客さんにもご迷惑ですから、落ち着いてください」
「うるせぇ! 関係ないヤツは引っ込んでろ!」
男は御影を突き飛ばすと杏の手を握った。
「ねぇ、僕が養ってあげるから、僕と暮らそう。ね?」
杏は完全に嫌な顔をしていた。
「あ、あれ終わりましたね」
「あれを御影さんは許しませんからね」
杏の他に出勤していたメイドさん二人がキッチンの方からそう呟いた。
「お前、バカじゃねぇのか? いいか、お前が杏を好きになるのは勝手だ。だからってそれを押し付けるなよ! お前と杏はビジネスで繋がった関係だ。それ以上を求めんな」
御影はドスの効いた声で言い放ち、杏の手を握っていた腕を捻り上げた。
「夢見たいなら綺麗に遊べ。料金は要らねぇからさっさと出て行け」
その言葉で男は逃げるように去って行った。
「あぁあぁ、どうしてうちの店には問題起こすヤツばかり来るんだろうな。大丈夫だったか?」
「え、えぇまぁ。ありがとうございます」
「お前、可愛いんだから自覚持って行動してくれよ」
「か、可愛い……ですか?」
「え、可愛いと思うけど。可愛いよね」
御影の言葉に杏は顔を真っ赤に染めていた。
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