第60話 愛しき人。
御影は愛も変わらず昼過ぎまで寝ていた。
今日は休日だし、誰にも文句は言われないはずだった……
「ふぁぁ、おはよう」
御影がリビングまで行くとメレーヌが怒りに満ち溢れた顔をしていた。
「おはようじゃないです! 今、何時だと思っているんですか! 遅刻! ですよ」
「え、でもまだ起こされる前だからそんな時間じゃ……」
御影はチラッとアネットの方を見た。
「もうし訳ございません。いくら起こしても旦那様が起きなかったもので……」
アネットは少し目を伏せた。
今日はクラリスと杏とお出かけした時の埋め合わせとして、メレーヌと出かける予定だった。
「あ、ごめん!!」
出掛ける予定時刻より、既に一時間以上が経過していた。
御影は完璧そうに見えて、所々抜けているのである。
「御影さんのバカ! もう知らない!」
そう言うとメレーヌは勢いよく屋敷を飛び出して行ってしまった。
「どうしよう……」
「どうしようじゃありません! いいから早く追いかけて下さい!」
杏が真剣な顔で訴えてきた。
「お、おう、分かった」
御影も急いで屋敷を飛び出し、メレーヌの後を追った。
「どこ行ったんだ….?」
かなり走り回ったが、メレーヌの姿はどこにも見当たらない。
「あ、もしかしたら……」
御影には一つ、心当たりがあった。
メレーヌが何かを考えたり、心が折れそうになった時によく行く場所があった。
御影はそこに向かって走り出した。
「あ、いた」
そこは、王都の外れにある森の一部で開けた草原になっている場所だ。
メレーヌはここの風が心を落ち着かせてくれると言っていた。
「メレーヌ、ごめんよ。こんなポンコツで」
「み、御影さん……追いかけて来たんですか? 顔見たくないです」
メレーヌは顔を背けてしまった。
「うん、俺が悪かった。申し訳ない」
「謝って済む問題じゃ無いんです」
「それは分かってる。でも、クラリスに悲しい思いをさせた」
御影は心に誓っていた事がある。
それは、メレーヌに笑顔でいられるようにしてやる、という事だ。
メレーヌには辛い過去がある。
恵まれた環境で育った御影には分からないほどの壮絶な過去が。
メレーヌはその背負った過去から今、やっと解放されようとしていたのだ。
そんな時に御影は一番やってはいけない、メレーヌの涙を見た。
「メレーヌは俺の大切な仲間だ。それこそ家族のように思っている」
「本当、ですか? 何があっても私を見捨てたりしませんか?」
「当たり前だろ。お前が困って居たら助けてやるし、過去のトラウマからだって守ってやる」
「御影さん……」
メレーヌは涙目になっていた。
「お前が背負ってるもんが分かるとは言わない。だけどさ、半分くらい俺も背負ってやるよ。今日はごめんな」
「いえ、私の方こそ急にお屋敷飛び出したりして……」
「俺が悪かったんだから気にするな。行こうぜ」
二人は手を繋いで王都の街中を歩いた。
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