第55話 クラリス、御影との出会い。
あの日、私は儀式の生贄に捧げられ、死ぬはずだった。
エルフの里に千年以上伝わる言い伝えによって。
『十年に一度鬼が生まれる』
その十年目が今年だ。
「クラリスよ、覚悟は出来たか？」
「はい、お父様」
クラリスはエルフの里の長老の家系に生まれた。
儀式の生贄に捧げられるのは若い女性であり、今回はクラリスにその役目が回ってきた。
『そんな言い伝えはおかしい！』
そう、里の若い者は意見したが、長老一派は聞く耳を持たなかった。
そして、儀式はいよいよ明日へと迫っていた。
『死にたく無い……』
そう思ったが、今更どうしようも出来ない。
この死を受け入れるしか無いのだろうと。
「クラリス様、お逃げ下さい」
「しかし、そんな訳には……」
「いいから早く！ 私どもはクラリス様に生きて欲しい。後のことはこちらで何とかしますから」
「分かりました」
長老家系に仕えるレイシャとエマがクラリスを逃す計画を立てていたのだ。
彼女たちは夜中にこっそりと逃してくれた。
「これからどうしよう……」
箱入り娘だったクラリスに行く当てなどは全く無かった。
「とりあえず、王都に行けば何とかなるかもしれない」
一抹の期待を胸にクラリスは王都レオリアンに向かった。
しかし、ここから王都までは徒歩で丸一日はかかる距離だ。
追っ手が来るかもしれないという恐怖からクラリスは必死に走った。
王都まであと三時間ほどに迫った森の中でクラリスは力尽きて座り込んでしまった。
意識が徐々に遠のいて行くのを感じる。
「あぁ、結局私は死ぬ運命だったのかな……」
今までの日々が走馬灯のように浮かんできた。
薄れゆく意識の遠くで私を呼ぶ声が聞こえたような気がした。
「おい、しっかりしろ。大丈夫か？」
そして、全身が暖かい光に包み込まれるような柔らかい感覚がした。
「何これ、すごく心地良い」
そう思った矢先、男性の声が聞こえた。
「大丈夫か？」
そう言って覗き込んできた彼は、真っ黒いコートに身を包み、黒髪短髪のイケメンなお兄さんだった。
「あなたは？」
「驚かせてすまない。僕は叢雲御影という。この国で冒険者をやっている者だ。だいぶ衰弱してたので、勝手ながら回復魔法をかけさせてもらったよ」
叢雲御影、その名前はクラリスでも知っていた。
世界最強の賢者として名を馳せた人だ。
「え、あなたが、最強の賢者様？」
「まぁ、世間ではそう呼ばれているね」
彼は微笑んで手を差し伸べてくれた。
その差し伸べられた手は凄く暖かくて安心した。
「助けて頂き、ありがとうございます。何とお礼をいったらいいやら」
「いや、当然のことをしただけだから気にするな。それより、何でこんな所に居たんだ？」
クラリスは事の顛末を話した。
彼は親身になって話を聞いてくれた。
王都での永住権、住居、職さえも与えてくれた。
クラリスの第二の人生はここから始まったのだ。
『この方と一緒に人生を歩んでみたい。この方に一生ついて行きたい』
そう、心に誓いながら、クラリスは笑顔を取り戻した。
お読み頂きありがとうございます。
「面白い』『続きが気になる』という方は、ブクマ、評価をお願い致します。
