第51話 お嬢様のご帰宅です。
メイド喫茶セルヴァントは二号店もオープンし、経営も軌道に乗って来た。
「おかえりなさいませー」
杏も本店の店長として、クラリスも二号店の店長として頑張ってくれている。
この世界にもメイド喫茶という文化がだんだんと定着して来た。
今では御影の経営するセルヴァントとは別のメイド喫茶も出来るほどだ。
まぁ、二番煎じはあまり順調ではないよだが。
「お、今日もお客さん入ってるなぁ」
御影は二号店の方を覗いていた。
このカウンターの雰囲気はかなりの好評であった。
「さて、今日は本店の方だったな」
御影は二号店を後にし、本店へと歩いた。
「お疲れさん」
お給仕をしていた杏と天音に軽く声をかけ、バックヤードへと入る。
いつものようにドリンクを作るのを手伝ったり、帳簿を付けたりしている。
「おかえりなさいませ、お嬢様！」
最近ではお嬢様が一人で来店する事も増えてきた。
まぁ、それ自体は悪い事では無いし、むしろ喜ばしいことなのだが。
「お、あのお嬢様、また、天音さんが居る時に来てるな。推しなのかな」
御影は天音さんが出勤する時にはいつも来て、天音を眺めては微笑んでいる、そのお嬢様を何となく気にしていた。
「おかえりなさいませ。ご注文はお決まりですか？」
天音がお冷やを出して聞いた。
「天音さんのお絵かきオムライスで！」
「かしこまりました。ありがとうございます」
出来上がったオムライスを天音が運ぶ。
「お待たせ致しました。メイドのお絵かきオムライスです。何をお描きしますか？」
「んー、天音さんにお任せしようかな」
「かしこまりました」
天音はケチャップを使い、器用に描いて行く。
「出来ました！ ネコさんです」
天音は定番の猫を描いていた。
「わぁ、可愛い。ありがとうございます」
お嬢様は喜んでオムライスを口に運んでゆく。
その間、天音は他のご主人様とお話したり、料理を運んだりしている。
御影が作りたかったのは『メイドと話せるメイドカフェ』なのでその理想に近づいていると言えるだろう。
しかし、最近よく来店されるそのお嬢様はどこか他の男と話す天音を睨んでるようにも見えた。
「これで、よしっと」
御影は帳簿を付け終わり、棚に戻す。
「お疲れ様でした。そろそろ閉店の準備します？」
ふと、時計を見ると閉店時間の少し前だった。
「うん、そうだね。もう、帰ろっか」
一通りの片付けをして閉店となる。
天音は御影の屋敷とは反対の方向に家があるので、店の前で別れる。
「では、お二人ともお疲れ様でした」
「うん、お疲れさん」
「お疲れ様でしたー」
しかし、御影は昼間のお嬢様の事がどこか気になっていた。
お嬢様の来店自体は珍しくも無いし、最近は増えている。
「このまま何も無いといいけどな」
「え、何がです？」
「いや、何でもない」
まだ確証も何もないので口には出さなかった。
「そうですか」
「うん、帰ろうぜ」
こうして今日も一日が終わろうとしていた。
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