第48話 メレーヌが攫われました。
メレーヌはいつものようにメイドカフェでのお給仕が終わると御影の屋敷に帰ろうとしていた。
もう、メレーヌは奴隷でも娼婦でもない。
堂々と表通りを歩いていいのだ。
「だいぶ、仕事にも慣れてきたなぁ。皆さんいい人だし、御影さんに感謝だわ」
そんな独り言を呟きながら、夜道を歩いた。
後ろから誰かが付けているようにも感じたが、この時は気のせいだくらいにしか感じていなかった。
いつもは杏かクラリス、御影の誰かしらが居るのだが、運の悪い事に今日は一人で歩いていた。
「おい、姉さんちょと待てよ」
後ろから声を変えられた。
「な、何ですか?」
「何ですかじゃねぇよ。お前、奴隷娼婦だったヤツだろ? ちょっと俺たちと遊べよ」
三人の男たちに囲まれたメレーヌは抵抗するも、男の力にかなう訳もなかった。
「そうだ、通信……あれ、無い!?」
メイドカフェのバッグヤードに置いてきてしまったのだ。
「やめて! 離してよ! こんな事したら御影さんが……」
恐怖で固まりそうになる体を必死に動かした。
「御影ってあの賢者か? 賢者様がお前なんかの相手をする訳ないだろ」
「来いよ、可愛がってやるからよ」
男たちにより裏通りに連れて行かれ、廃墟の中で縛り上げられた。
『御影さんがきっと助けにきてくれる』
そう信じて、泣きそうになるのを必死に堪えた。
「ひひひ、さすがは元娼婦だけあっていい体してんじゃねぇか」
「あんまり傷物にするんじゃねえぞ。高く売り飛ばすんだから」
「兄貴! その前にこいつの体楽しんでいいすか?」
「好きにしろ」
男の手がメレーヌの胸に伸びて来た。
『もう、駄目だ……』
そう思ったその時、扉が思い切りぶっ飛んだ。
『御影さんだ』
姿は見えなかったが、そう確信した。
「うちのメレーヌが世話になったみたいだな」
御影さんの姿を見て今まで必死に堪えたいたのだが、涙がこぼれ落ちそうになる。
御影さんは怒りに溢れた真っ黒な目をしていた。
メレーヌはそんな御影を初めて見た。
普段は温厚で優しい目をしている。
御影さんが助けに来てくれた事が凄く嬉しかったが、同時に怖いとも思ってしまった。
御影さんは三人の男たちを一瞬にして気絶させてしまった。
そして、御影さんはいつもの優しい目に戻った。
「ごめんな。怖かったよな。もう、大丈夫だから。帰ろう」
そう言って御影はメレーヌを縛っていたロープを解いて、手を差し出した。
「本当に……怖かったです。もう、駄目かとおもいました」
メレーヌは御影の腕の中で泣きじゃくった。
「ごめんな。遅くなった。好きなだけ泣いていいぞ。それで落ち着くならな」
お屋敷までの道のりを二人は手を繋いで歩いた。
その差し出された手はとても暖かく感じた。




