第32話 クラリスからの提案があります。
「おい! 大丈夫か? しっかりしろ!」
ーーーあの日、意識の遠くで私を呼ぶ声が聞こえた気がした。
なんだか全身が暖かい光に包まれるような、そんな柔らかな感覚に身を包まれる。
すごく心地よい、そう思った矢先、男性の声が聞こえてきた。
「大丈夫か?」
「貴方は?」
「俺は叢雲御影、Sランクの冒険者だ。だいぶ、衰弱していたので、勝手ながら回復魔法をかけさせてもらった」
あの時、私は『この方に一生ついて行こう』そう心に誓った。
御影さんは私を王都に連れて行ってくださって、王都に住めるようにしてくださった。
「お待たせ致しました。こちらが永住権に関する書類になります。ここに永住権を所有なさるご本人様の署名と、御影先生の署名もお願いします」
そういって渡された書類には、生年月日と署名を書く欄があった。
【 2月4日 叢雲御影 】
綺麗な字で御影さんはサインをした。
『命を救ってくださった方のお誕生日、覚えておかないと』とクラリスは誕生日のお祝いができることを楽しみにしていた。
メイド喫茶セルヴァントがオープンして暫く経った頃、お店も繁盛はしているものの、みんなが仕事に慣れてきていた。
今日は杏さんとお店に立っていた。
オープンしてすぐは賑わいを見せていた店内も、落ち着いてしまっていた。
「平日の昼間は暇だねー」
杏がクラリスに話しかけた。
「ねぇ杏さん、お店を開いたときに自己紹介でお話ししたのだけれど、私は御影さんに命を救って頂いたのです」
「うん。聞いたよ」
「その時に、ひょんなことから御影さんの誕生日を知ったのですが、できればみんなでお店をあげてお祝いできたらなって思っているのです。どうでしょう?」
「いいと思う。誕生日はいつ? クラリスはどんなことしたいと思っているの?」
「2月4日です。できれば御影さんに内緒で、内装とか飾り付けして、このセルヴァントを御影さんの為に貸し切り営業したいと思っています」
「2月4日!? 来月じゃない!! 一度みんなで集まって色々決めたいよね。ここで働いているみんな、オーナーの御影さんにはすごくお世話になってるもんね」
そうしてクラリス達は『セルヴァントのメイドさんによる、1日だけのオーナー貸し切り営業』を考えた。
数日後、杏さんとセルヴァントのみんなと色々話し合いをした。
まず、当日はロイクさんにお願いして、国王陛下に御影さんを呼んでもらうことにした。
ロイクさんは叢雲家に仕える前は王宮で国王陛下に仕えてきた完璧執事である。
陛下と直接話が出来る数少ない一人だ。
当日は、午前中から御影さんに外に出ていてもらう。
その間にクラリス、アラベル、ルシールの三人が内装を
杏、天音、メレーヌの三人は食事を用意することにした。
「御影さんをお祝いできる!」
そう思ったら数日前から楽しくてしょうがない。
どんな飾り付けにしようかな?
御影さんは何が好きかな?
プレゼントは何がいいかな?
杏さんには内装を任されたけどせっかくならサプライズも用意したいな、なんてことを考えながら眠りにつく。
翌朝、屋敷の中で御影さんに会った。
「御影さん、もう起きてらしたのですね。おはようございます」
「クラリス、おはよう」
「御影さんにお願いがありまして……」
「何か困ったことでもあったのか?」
「いえ、もしよければ混雑する日に、天音さんとメレーヌさんで店番をしてもらうのはどうでしょう?」
「何か意図があってのことなのか?」
「はい。杏さんとお話していて、もしいつか誰かが病欠したりした時に、みんながみんなちゃんと店番できるようになっているのかを確かめて見るのは良いのでは? という話になりまして……」
「それを今実行しようと? 」
「はい、杏さんが『私がメレーヌさんの研修をしたからできれば私がメレーヌさんを見たいんだけど、そうすると甘くなっちゃいそうだから、ここは年上の天音さんにお願いするのはどうかな? 私もお店にはいるけど何かない限り何もしない、というやり方ならどうだろう?』と言ってらしたので、アラベルさんとルシールさんの時は私が、と思っているのですが……」
「なるほど、みんなも気軽に休みが取れるようになっていいんじゃないか。シフトはクラリスと杏に任せてるし、好きに組んでいいよ」
こうして私は嘘を交ぜながら2組が集まれるようにシフトを組んだ。
いつもお読み頂きありがとうございます。
私事ではございますが、明日2/4は私の誕生日になります。
それに合わせて、主人公、叢雲御影の誕生日ストーリーを書かせていただきました。
しばらく、誕生日ストーリーが続きます。
ご期待下さい。




