第28話 杏は一人で抱え込み過ぎです。
翌日、セルヴァントは定休日であった。
例によって御影は昼過ぎに起き出した。
「おはよう」
眠い目を擦りながら御影はリビングへと降りた。
「おはようじゃないわよ。相変わらず休みだと昼まで寝てるんだから」
杏が口を尖らせていた。
「夜まで作業してるとね、起きるのも遅くなっちゃうんだよね」
御影は苦笑いだった。
「それで、御影さんにちょっと相談したいことがあるのだけど」
杏が深刻そうな顔を向けてきた。
「ん？ どうした？」
「実は、最近、帰り道とか買い物に行くときとかに誰かからつけられているような視線を感じるんです」
「え、それはいつ頃からだ？」
「うーんと、一週間くらい前からですかね」
「もっと早く言えよ」
メイド産業にはストーカー問題も付き物である。
「で、でも、確信が持て無かったし」
「杏は何でも一人で抱え込み過ぎだ。もっと、俺やクラリスを頼っていいんだぞ」
「ありがとう……」
「とりあえず、これからしばらくは行きと帰り、俺が送り迎えする」
「え、でもそれは忙しい御影さんの負担になるんじゃ……」
「気にしなくていい。うちの従業員に手を出そうとするヤツは誰であろうとぶっ飛ばす」
御影の目に怒りの灯火が灯った。
翌朝、御影は杏と共にセルヴァントへ向かう。
クラリスもメレーヌも今日は休みだ。
「ごめんなさいね。御影さんもお休みなのに」
杏は少し目を伏せた。
「気にするなって言ったろ？ 杏にもしものことがあったら、俺やクラリスやメイドカフェのみんなが悲しむからな」
「ありがとうございます」
御影は探知系の魔法を展開していたが、特定の人物がつけて来るということは無かった。
探知魔法なんぞ無くても敵意を向けられたら御影は察知できる。
これも職業『賢者』のスキルなんだろう。
ちなみに賢者は、上級職の上、特別上級職にあたる。
更に上には特殊職というものがあるらしいが、その職は『勇者』だけである。
賢者は御影含め、この国に数人はいる。
御影のように若くして賢者になるの前代未聞のことらしいが。
「とりあえず、朝は大丈夫だったな。じゃあ、俺は一回帰るから。また、杏が帰る頃に迎えに来るね」
「本当にすみません」
「いいってことよ。大切なうちの店長さんを怖がらせているヤツは俺が鉄拳制裁してやらないとな」
御影は、一度屋敷に帰るのであった。
「ただいま」
「あ、御影さん、杏さん大丈夫でした？」
「なんだ、クラリスも知っていたのか。うん、とりあえず朝は大丈夫だったよ」
「そうですか。ならよかったです」
クラリスは少しほっとしたような表情をした。
その後、昼食を終え、魔術書などを読みあさっていたら夕方になった。
「そろそろ杏を迎えに行くか」
御影は屋敷を出ると、メイド喫茶セルヴァントへと向かった。
「お疲れ様。その後大丈夫だった？」
御影は中に入ると、キッチンに居た杏に話しかけた。
「はい、お店では大丈夫でした」
「そうか、ならよかった。じゃあ、そろそろ閉店準備をして帰ろうか」
「そうですね」
御影は他の従業員を帰して、杏と共に外に出た。
そのまま、探知魔法を展開しながら、御影の屋敷の方へと歩みを進めた。
「ん？ これは」
御影の探知魔法に敵意を向けてきている人間を一人とらえた。
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