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第三話 突然の出来事!

 帰りもまた図書館に寄り暇をつぶしていた。留学に関する本を借りて家へ帰った。

「コマキ、今日の帰りどこに行ってたのよ! あたしずっと探し続けていたのよ」

と、怒り声で言ったの。川澄先輩と何かあったのかしら? それはあえて言わないけど……。

「ごめん、ごめん。図書館に行ってたのよ」

そこへ、下の階からママの声がした。

「ねえどっちかパパのお迎え一緒に付いて来てくれない? パパ傘を持っていかなかったから、駅から帰れないと思うの」

今日って雨が降るなんで言ってたかしら? とあたしたちは目で合図を出していた。

「ママ、あたしが行くよ。コマキはお留守番しててよ」

あたしの返事を聞くより先に瑶葵がママに言った。あたしも下に下りて行ったの。外を見ると今にもザッーと降るような空模様だった。ママが、

「それじゃあこないだみたいに、キッチン汚さないでね。夕飯は駒葵一人で食べてていいわよ。ママたちは帰ってきてから食べるから……あとのことはよろしくね」

 なんか久しぶりに一人で食べるような気がする。でも今日ってほんとに雨が降るなんて言ってたかしら? ……あっ、ちょうど天気予報の時間だ。

 えー! 明日は雨……。体育外でやるのは無理かな。せっかくテニスできると思ったのに……。テレビを見ながらご飯を食べていると、スピードがとてつもなく遅いの。途中で箸がとまっていて、おかずをこぼしたりしてね。

 さーてと、茶碗でも洗わなきゃ。少しでも覚えられるようにしなくちゃね。

 一方、瑶葵たちの方では、雨が降り出していた。

「ママ、雨さっきよりもひどくなったと思わない?」

と、助手席から瑶葵が言った。

「そうね~。パパは駅で待っているから大丈夫だと思うけど……」

 信号が赤になり車が止まる。

 雨はまた更にひどくなるほうだ。

 そして信号が青に変わる。

 ママたちの車が発進する……そして……。

 うわぁ! なんかすごい雨。バケツがひっくり返りそうな降りかた。ママたち大丈夫なのかしら? 窓の外を見ると遠くのほうで雷鳴がとどろいていた。

 お皿を棚にしまおうとしたとき、思わず手からお皿が落ち、床に叩きつけられ……。

『ガシャーン』

と、同時に、

「ママ、危ない! キャアー!」

 瑶葵たちの車は交差点のど真ん中でグシャグシャに壊れていた。

 そんなことも知らずにあたしは。あーあ。お皿割っちゃった。怒られるのを覚悟して、割れたお皿の破片を片付けていた。そして自分の部屋に戻り、学校で借りてきた留学の本を読むことにした。

 ふぅーん、こんなことまでやるのか。と、納得してすっかり夢中になりママたちのことも忘れていた。一通り読んだので、明日またじっくり読むことにした。明日の数学の予習でもしようと机に向かったその時だった。急に電話がけたたましく鳴り出したのは……。時計を見るともう夜の九時を過ぎていた。パパかな? と思いつつ受話器を取ると、知らない男の人の声がしたの。

「大塚さんのお宅でしょうか? わたくし、中央警察の者ですが……実は、奥さんの楓さんと娘さんの瑶葵さんがさきほど、交通事故に遭ってしまい、今、中央病院に運ばれましたが来ていただけないでしょうか?」

 は? ママたちが事故! 嘘でしょ。だ、だって嘘、嘘よ。あたしは確認のためもう一度聞いてみた。

「何かの間違いではありませんか?」

「いいえ確かにそうですよ。免許証で確認したものですから。出来れば今すぐに来てもらいたいのですが……。かなり事故がひどかったものですから」

 警察の人は確かにママたちと断言したのだ。受話器を置いてからあたしはしばらくその場で立っていた。

 嘘よ、ママたちが事故だなんて。じゃあパパは? パパは乗っていなかったの? 急いで用意をして外へ出た。外は雨がすごい勢いで地面を叩きつけていた。傘はさせれない状態なので、濡れたまま雨の中へ走っていった。この際風邪を引いて熱が出て学校を休んだっていい。今はママたちのことだけ……。あそこの信号を渡ればもうすぐ病院に着く。信号が変わりそうになったけど、それどころではなかったので、無視をするつもりでいた。でもあたしの腕を誰かが思いっきりつかんだの。一体誰よ! 振り返ってみると、

「おい、あんた目ついてんの? 信号はもう赤だぜ。それにこんなに雨が降っているのにも関わらず、傘もささずに風邪を引くぞ!」

 高校生ぐらいの男の子があたしにむかってそう怒鳴った。

「そんなことはどうでもいいのよ! 早く……早く病院へ行かなくちゃならないの。それではさようなら」

 あたしはあっけなくその男の子に対して言った。助けてくれたのにお礼も言わずに。

「ちょっと待った。あんた瑶葵と双子か?」

「そうですけど何か? あたし急いでいるものですから」

 な~んだ瑶葵の知り合いの男の子か……そう思っていたが、

「ごめんごめん。俺の名前は、川澄暖都だ」

 川澄? はてどこかで聞いたような名前……。あたしの反応がなかったせいか、

「瑶葵と付き合っている川澄だよ。で、何で病院へ行くの?」

 へぇー、この人が瑶葵の彼氏の川澄先輩なのか……。ということは、

「大変なことになっちゃったんです」

 あたしは川澄先輩に瑶葵とママが交通事故になったということを話した。先輩はビックリした様子であたしと一緒に病院へ向かった。病院に着くとやけに静かで不気味な感じがした。しばらくの間、あたしは先輩と話をした。信号であたしを見かけた先輩は偶然だったという。先輩は塾の帰りだった。あたしはまだ信じられなかった。自分でも頭の中がぐちゃぐちゃだった。

 手術室の扉が開き、あたしは、

「あの、大丈夫なのですか?」

と、聞いたけど……。

「最善を尽くしましたが、二人とも……」

 医者は暗い面持ちであたしにそう言ったのだ。でもあたしは、

「……嘘よ! どうして? どうして助けてくれなかったの?」

 あたしはその場で泣き崩れた。医者は何も言わず、その場を去ったの。そこへ、

「中央警察の者ですが、あなたが娘さんでしょうか?」

「はい、そうです」

と、泣きながら言ったあたし。近くの椅子に座り事故の状況を話してくれた。

「事故が起きた場所は中央駅から一キロ離れた交差点です。何しろ雨がたくさん降っていて視界が悪かったのも原因ですね。あとで現場へ行きますのでその時に詳しく話します。誰か保護者の方は? お父さんでもいいのですが……」

「あ、父が駅で待っていると思います」

 そう言うと警察の人はあたしの隣にいる先輩に、

「君は?」

と、言ったがあたしが答えた。

「この人は妹の彼氏なんです。あたしと妹は双子なんです。ここへ来る途中に偶然会いました」

「そうですか。でも身内以外の方は外してほしい」

 こうして川澄先輩は家へ帰っていったの。あとであたしが先輩の家に電話をかけるつもりだった。そして中央駅に着いたの。

「駒葵! 家に電話しても誰も出なかったから心配したんだぞ。それでママたちは?」

と、パパが言った。

「大塚勇太さんですね? 実は、あなたの奥さんと双子の妹さんが交通事故に遭ってしまい、先程病院で亡くなられました」

「何だって! 瑶葵まで死ぬなんて……」

 パパはあまりの突然の出来事だったので腰を抜かしちゃったの。

「先程、駒葵さんにも話しましたが、中央駅から一キロ離れたこの交差点です。ちょうどこのあたりです。今はまだ詳しく調べている最中なのですが、妙なことが一つありましてね。奥さんは煙草を吸われるのですか?」

 あたしたちは事故現場にいたの。道路脇にママたちが乗っていた車と相手の車が置いてあった。両方とも無残な壊れ方だったの。目撃者によるとママたちはきちんと信号が青になってから、発車させたの。でも、相手の車が赤なのにも関わらず、無理に突っ込んできてそのままママたちの車とぶつかってしまった。という話だった。それにしてもママは煙草なんて吸わないわよ。パパが、

「いいえ、わたしも吸っておりませんし、妻も吸っておりません」

「車の中に煙草が見つかったのです」

 あたしの両親は煙草は吸っていないの。なのになぜ、車の中にあったのだろう?

「それって誰か他の人が運転でもしていたということですか?」

と、あたしは警察の人に聞いたの。

「その可能性も多少あると思います。最近、家族以外の人たちとどこかへ出かけていませんか?」

と、言ったがパパは否定をしたの。確かにパパの言う通りなの。デパートへ瑶葵たちが行ったときも電車を使って行ったのだから。パパも瑶葵たちと一緒の交通手段を利用して行ったの。

「あの、相手の方も亡くなられたのですか?」

と、あたしは聞いた。

「即死でしたよ。男性の方でしたが、飲酒運転はしていませんでした」

と、言った。

 こうしてあたしとパパは家へ帰って、親戚や学校に連絡をしたの。


葬 式 後


 あたしにはまだ信じられなかった。ママと瑶葵が死んだなんて……。パパはというと泣き顔を一切見せなかったの。あの事故の次の日、新聞には大きく載っていた。

〈次期社長夫人そして双子の妹 交通事故死!〉

と、書かれてあったの。毎日が悲しかった。泣いても泣いても涙は止まらず、とても苦しかったの。瑶葵の部屋に入ってみると、今にも瑶葵の声が聞こえてくるのではないかと何度も部屋を見回した。でも、もうここには瑶葵の声なんて聞こえてくるはずがないの。姿も見えない瑶葵。双子ってずっと心の中で通じ合えると思っていたのに。それなのに、瑶葵は……。

 ママたちが悪くないのは分かっている。どうして? どうして死んでしまったの? あたし一人を置いていかないでよ! 淋しいよー。ママや瑶葵がいない生活なんてイヤだ。あたし家事のこと全然できないよ。だから戻ってきてよ二人とも……。あたしはこれからどうすればいいの? パパなんて時期に社長になるわけだしどうすればいいの?

 学校は一週間丸々と休んでから出て行ったの。すると周りが何やらこそこそと瑶葵の話をするの。あたしには友達がいなかったし特に何も言われなかった。ただ先生たちは、

「もう出てきて大丈夫なのか?」

と、口々に心配をするの。そのたびにあたしは、あー瑶葵とママは死んじゃったんだと深く思うの。涙が出てきそうでこらしめるのがやっとだった。一日が過ぎるのがとても長く思えた。家に帰っても誰もいなくてよけいに淋しかった。こんなとき、誰かがあたしのそばにいてくれたらどんなにうれしいことか……。と、その時急に電話が鳴り出したの。慌てて取ると相手は瑶葵の彼氏の川澄先輩だったの。今からあたしの家に行ってもいいか? という連絡だった。葬式の時以来会うのだった。

「今日から学校出てきたんだね。家のほうは大丈夫なの?」

「ええ。あの先輩、瑶葵の部屋に行きませんか? まだそのままにしてあるので」

 あたしたちは瑶葵が使っていた部屋に入ったの。あたしは瑶葵の形見を先輩にあげるつもりだった。先輩は、

「え~! いいの~だったらこのパズルをもらっていくよ。このパズルは、初めて瑶葵が作ったものなんだ」

 あー、そうなんですか……。ほんとにパズル好きの先輩よね。すると先輩は、ぼそぼそしゃべったの。

「なんであんなことになっちまったんだろうな。なんかさー、瑶葵がいないとやけに学校が静かなんだよ。いっつもはしゃいでて明るかったのに……。若くして死ぬなんてさー。絶対許さねーよ。まあ俺より双子のあんたのほうが、もっと悲しいと思うけどさ。瑶葵の分まで長生きしてくれよ。それじゃあ俺、塾があるから」

「来てくださって本当にありがとうございました。瑶葵も天国で喜んでいてくれます」

 先輩が帰った後、あたしは夕食を作ったの。料理の本を見ながら作ったけど、味はあまりよくなかった。一人で食べている時早くパパが帰ってくればいいのになあと思った。ママたちが死んでからというものの、パパはいつもと変わらず夜中に帰ってくるの。こんな夜遅くまで何をしているのだろう? 仕事が忙しいのかしら? そう思いながらあたしは深い眠りに入っていくのだった。

 朝ごはんはほとんどパパが作ってくれて、早く家を出ていくんだけど今日は違っていたの。久しぶりにパパと一緒に朝ごはんを食べたの。

「駒葵、留学のことなんだが」

 朝はあたしたちはあんまりしゃべらないのに珍しい。

「その……なんだ……。留学するのはやめてくれないか」

「え? なんで?」

 あたしは手を休めパパの顔をじっと見つめたの。

「パパが一人で家のことをやるなんて危ないとは思わんのか?」

 そういえばあたしって全然家庭の仕事やってないわ。

「そりゃあ日中は怖いわよ。だって泥棒が入ったらイヤだもん。でも今しかチャンスがないの。先生にだって、報告してあるのよ! 向こうの高校の志望校もそろそろ決めなくちゃいけないのに……。今さら断るなんて、今までのあたしの努力が水の泡じゃないの! パパはあたしの夢を壊すの?」

 あたしは椅子を立ってパパに怒ったの。

「だったら瑶葵はどうなる? 瑶葵だって将来の夢があったんだぞ。それなのに、ママと一緒に事故死したんだ」

 いけない。瑶葵のこと考えてなかった。

「いいか。もう少し考えてみるんだ。時間はたっぷりとある。それに大学に行ってからでも遅くはないじゃないか!」

 それだけ言うとパパは急いで家を出て行ったの。あたしはしばらく瑶葵たちのことを考えていたの。瑶葵にも将来の夢があるということを……。


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