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第二話 将来の夢

 翌日、あたしが起きたのはお昼を少し過ぎていた。外を見ると、暖かそうな感じだった。瑶葵とママは昼食は豪勢なんだろうなぁと思いつつ、あたしは朝・昼兼用の食事をのんびりと食べていた。新聞を珍しくじっくりと読み、暇をつぶしていたあたしはそろそろアレを始めようと決心をしたの。

 その頃、ママたちは、

「ママ、お腹空いちゃったよ。早く食べようよ」

と、瑶葵は両手に荷物を持ちながらママに言った。

「ねえ、どっちがいいと思う?」

と、ママはお昼のことをすっかりと忘れている。

「どっちでもいいよ。それより、もう二時だよ」

「はいはい。すいませ~ん、この服ください」

 結局、二着も買ったママ。それを見て瑶葵はあきれて声も出せない。

「なに、食べようか?」

「スパゲッティが食べたい。ママ、食べ終わったらあたしの服買ってよね」

「分かったわ」

「それにしてもママ、どうしてブランド品ばっかり買い集めているの?」

あたしでも聞けなかったことを瑶葵は堂々と聞いているの。ママの答えは、

「そんなの好きだからに決まっているでしょ。瑶葵もブランド品たくさ~ん買ってあげるわよ。今の女子高校生ならグッチかフェンディでしょう?」

「あたしは別にブランド品で着飾らないもん。コマキのほうが似合うよ」

勝手にあたしをママと一緒にしないでよ!

「そう? だったら買わなくちゃね。そういえば駒葵、留学しちゃうの? 昨日、パパが言ってたからびっくりしちゃった」

と、ママ。

「やっぱり留学しちゃうんだ。あのね、学校の先生から言われたらしいのよ。コマキは将来、翻訳家になるつもりなんだって……」

と、残念そうに言う瑶葵。ママは、

「ホームステイの研修ならば少しは安心するけど、留学なんて怖いじゃないの。一人で出歩くなんて危険だし、もし殺されたりでもしたら……」

「ママ、大丈夫よ。コマキならあたしと違って頭の回転が速いもの」

そういう問題じゃないと思うんですけど……。

「まあ、このことは家に帰ってからゆっくりと話さなくちゃね。それじゃあ、服を買いに行くわよ!」

と、元気な声でレストランを出る二人とも。

 ……よ~し、できた。あたしがアレをやれることはつまり、コレなのよ!

えーと、初めに入れる材料は……というと、小麦粉二百グラムに卵黄二個ね。なになに、卵は白身と黄身を分ける? な、なによこれ! どういうふうに分ければいいの? どっかに分け方の説明書いていないのかしら……。

 これで分かったでしょ? あたしが今やっていること。料理なんですよね。でも一応クッキーにしておくことに……。本当は豪華にグラタンやスパゲッティなどが作りたいんだけれども、まあ大の苦手なあたしがそんなもの作り方を見てもたぶん、分からないと思うの。

 そ・れ・よ・り、卵のことについて書いていないのよ! だいたい、なんで分けなくちゃいけないわけ? だから、そのまま分けずに混ぜちゃおうっと……。バレないでしょう?別に……アハハハ……。

 え~! もうこんな時間なの? 早く焼かなくちゃママたちが帰ってくるじゃないの。よぉ~しあとはオーブンに入れておしまい。ふぅ~、つ、疲れた。なんでクッキー作るだけなのに疲れたかというと、

その一 料理用語は全然分からない

そのニ 慣れないことには、肩が凝る

その三 料理を全くしたことがないから

と、まあこんな感じです。いい加減なあたしだよね。焼けるまで暇だからテレビでも見ていようっと。テレビに夢中になっていてクッキーの存在すら頭から消え去っていた。そのままあたしは、うとうとと眠ってしまい気がついた頃には、家中が焦げ臭かったの。半分、ボォッとしていたあたしはなんの臭い? もしかして火事! なんて考えていて、慌てて廊下へ出てみるとキッチンから黒い煙が出ていたの。その時ようやくあたしは、今まで何をしていたのかを思い出したの。そうだ、クッキーが焼けるまでテレビを見ていて、そのまま寝ちゃったんだ。こんなこと考えている暇なんて今はないのよ! とりあえずキッチンに行って見ると案の定、オーブンからは黒い煙が……。

 あ~どうしよう? 早くしなきゃ誰かが帰ってきちゃう。オーブンから取り出したクッキーはもちろん炭になっていた。せっかく初めて作ったのにこれじゃあ、だ~れも食べてくれないわ。トホホ。仕方なくゴミ袋に入れ捨ててしまうあたし。あとは家中の窓を全開にして煙が逃げるようにと、願っていた。もう一つ忘れていた。この臭いはかなりヤバイ!押入れの中から、芳香剤を取り出して、一気にばら撒いたの。

 ふぅ~と溜息。あとは何かを忘れていたような気がするんだけどなあ……。う~んと、うなっているあたし。時計を見ると、夕方五時近くになっていた。そろそろママたちが帰ってくる。ど、どうしよう! 玄関に入ってきた瞬間、

「何なの、この臭いは?」

なんて言われてしまったらピンチ。まさかあたしがクッキーを作っていておまけに、全部焦がしてしまい、家中、煙が漂っていました。なんて言えやしない。やっぱりあたしにはムリだったのよね料理は……。これだと主婦も出来ない、最悪な女にしか見えない。たぶん、男の子は、あたしの料理を見て一言こう言うと思うの。

「これ、何? 食いもん?」

と、言われるに決まっている。あ~あ瑶葵はいいよな。そういえば瑶葵の将来の夢ってシェフなんだよね? 料理の専門学校に行くのかな? その時、玄関から騒ぎ声が聞こえてきたの。

「コマキ~、今帰ったよ。おみやげも買ってきたよ。コマキィ~どこにいるのよ?コ……」

と、瑶葵は口をポカ~ンと開けていたの。あたしは恐る恐る、

「おかえり! どうしたの? そんな顔しちゃって」

まさかバレちゃったのかしら? でもそのまさかだったの。瑶葵はあたしの方に向いて、

「……コマキ、今日なにをしていたの?」

と、優しい声で言ったの。あたしはごまかすために、

「何って? 別に大したことはやっていないよ」

と、あたしが言い終わらないうちに瑶葵は突然大きな声で、

「ママァ~。た、大変!」

「何の騒ぎなの? 帰ってくるなり」

と、ママ。それでもあたしは、

「ねえ、何が大変なのよ? ママも何よ、あたしの顔ばかり見ちゃってなんかついてる?」

瑶葵が、

「コマキちゃん、今日クッキー作ったんじゃないの?」

と、いつもと違う雰囲気なの。でも、なんでクッキー作ったことがバレているの? あたしが、

「なんで?」

と聞くと、

「だって、台所全然片付いてないわよ。それにオーブンが開けっ放しで中が……。げぇ~!」

と、あたしの顔を見たの。ママもキッチンの中に入ってきて、

「駒葵! なんなの、このオーブンの中身は!」

 最後にママのトドメがきたのだ。

 嘘、片付けていなかった? しまった、あと何かをしなくちゃいけなかったことって、片付けることだった。すっかり忘れていたわ。もう遅いよね。それに作ったのがクッキーだと一発でわかるなんてさすがだわ。あたしは正直に、

「クッキー作っていました。でも失敗しちゃった」

と焦がしてしまったことも全て言ったの。ママや瑶葵はキッチンの片付けをしながら、あたしの話を聞いていた。あたしは何をしているかというと、ただリビングのほうから眺めているだけ。本来ならあたしがやらなくちゃいけないんだけど、これ以上汚くなってしまったら夕飯が食べれないと口々に言い、仕方なくリビングのソファーに座っていました。

 片付けがある程度終わったので、あたしと瑶葵は部屋に戻ったの。

「コマキ、何でまたクッキー作ったのよ?」

案の定、問いつめる瑶葵。

「別に、ただ簡単かな……なんて思ったから」

瑶葵はそれ以上何も言わなかった。

「そうだ。コマキにおみやげがあるんだよ。ママったらブランド品買ってくるんだよ」

何であたしにブランド品なの?

「コマキって服のセンスいいじゃない。だから似合うってママに言っちゃったの。はい、コレ。あたしからはペンダント買ってきたよ」

「ありがとう、瑶葵」

 こうして夕飯も無事に食べれてパパが帰ってきたの。

「パパ、どこに行ってたの?」

珍しく瑶葵がパパに尋ねていた。瑶葵ってあんまりパパとはしゃべらないのよね。パパもあんまりしゃべりかけないし。

「会社の連中たちとゴルフに行ってきた」

「ふぅ~ん。そういえばパパってゴルフ用具なんか持っていなかったんじゃないの?」

またまた痛いところをつく瑶葵。そこへママがあたしを呼んだの。

「駒葵、話があるの。和室の部屋に来なさい。……単刀直入に聞くけど、留学するつもりなの?」

今日のことを聞くのかと思ったけど全然違っていたので、拍子抜けしちゃった。

「将来、翻訳家になりたいの。だから留学して勉強したいの。ママは反対なの? パパは一応賛成してくれたけど……」

「翻訳家になることについてはママは何も言いません。でもね駒葵、今すぐに留学することなんてないじゃない? 別に絶対、留学するな! とは言ってないわ。ただね心配なの。留学するっていうことは、一人暮らし、もしくは寮。しかも周りは外人ばっかり。夜なんて出歩いたら、簡単に殺されることもありえるのよ」

ママはそれだけ言うと、しばらく沈黙が続いてまた言い始めた。

「でも、仕方ないわね。駒葵の好きにしたらいいわ」

と、静かに言った。

「ママありがとう。あたし一生懸命がんばるよ。今日、服買ってくれてありがとう。ママってほんとにブランド品が好きなんだね」

あたしは心の奥底から喜んだの。ママはママで、

「そうよ。今は『ブランド命』だからね」

「ママ、パパのことなんだけど……そのなんというか……」

あたしよっぽどパパのこと言おうか迷ったの。でも言えなかった。

「パパがどうかしたの?」

「パパってやっぱりパパなんだね」

と、あたしは訳の分からない言葉を言ったの。ママも、

「は? それより何でまたクッキーなんか作ったの?」

「だって、瑶葵は料理できるもの。それに比べあたしは全然できないもん。留学したら向こうで困ると思ったし」

「確かに瑶葵は料理が上手よ。でもね料理なんてそのうち自然と覚えられるものなのよ。ママだって全然ダメだったんだから。結婚してから毎日、母の所へ行ってたわ。そうして一ヶ月も経たないうちにほとんど覚えちゃったの。自分でもびっくりするぐらいだったの。やればできるって思ったのよ。そりゃあ何度も失敗したわよ。焦がしたり、調味料を間違えたり余分に料理を作ったりもしてたわ。パパは文句も言いながらも残さずに食べてくれたからうれしかったわ。何か昔のこと言うなんて恥ずかしいわね。それじゃあ、がんばって勉強するのよ」

 やったぁ~! これで夢が叶うかも。クッキーは大失敗だったけど、留学については承諾も得たし、あとは先生に報告するだけね。パパのことはまあいつでもいいか……。部屋に入ると、

「コマキ、嬉しそうな顔をしてるけどなにかいいことでもあったの?」

と、瑶葵が言った。

「あたしね、留学について承諾がもらえたのよ。瑶葵って将来の夢は、シェフなの?」

「シェフ? なんであたしが? まさか。確かにシェフもいいかな……と憧れていたけど、今は違うわよ。まあ料理に関係するけどね」

え~変えちゃったの? もったいない。そして今度は、

「ねえ思ったけど、コマキが翻訳家になったらこの家はどうなるの? だってどっちかはパパの会社を継がなくちゃいけないのでしょう? それってもしかしてあたしなの?」

そんなこと考えたこともなかったわ。

「絶対、あたしだよ。だってさコマキは金儲けするじゃん。それに比べあたしは、その半分以下よ。だからこそあたしの可能性があるわけ。そうなると、勝手に結婚を決められちゃうよ。つまり政略結婚ってやつ。あーあ、双子はいいけどどっちかが、男の子だったら苦労しないのにねー」

 パパの会社は超有名な会社で、しかも次期に社長に昇進するらしいの。そうなるとやっぱり、あたしか瑶葵のどちらかが継がなくてはいけない。それがイヤな場合は結婚した相手の男の子が養子になるわけ。そうしたほうが、あたしとしてはいいだけど、まず養子に来る人はいないと思うの。でも、あの会社だったら、お金を狙って来る人がたくさんいるかも……。ハァ~と、大きなため息。

 翌日あたしは、日直で朝から大変だった。それにも関わらずクラスメイトは、瑶葵のことばかり聞いてくるの。あーあ、またかと思いつつ仕方なく返事するあたし。バカなあたしだよね。

 授業もあっという間に過ぎ、お弁当の時間になった。あたしはいつも瑶葵と一緒に中庭で食べていたけど、川澄先輩という彼氏がいるので遠慮しているあたし。他に友達と呼べれる人はいないので、静かな図書館で一人で黙々と食べているの。ここの図書館は、校舎と別館なので利用している人は滅多にいないの。まあ一人のほうがすごく落ち着くし絶好の場所なのよね。瑶葵にもまだそのことは言っていない。教室の中で食べたい気もするけど、一人だけポツンとなるのはとてもイヤなのよ。放課後もだいたいこの図書館で、本を読むか宿題をして帰っているの。部活は何もやっていない。瑶葵は料理部に入っている。一週間に一度だけ活動していて、文化祭になるとバンバンといろいろな食べ物が作っているという噂を聞いたことがあった。中学とはだいぶスケールが違うのは知っているけど、高校の場合は一般公開があるからいいのよ。

 そうそう、留学のこと先生に言ってみたら喜んでいたの。先生は、今年はもう無理だから来年の四月から行くことになると言っていた。でも誰もが簡単に留学することはできないの。一つの高校につき、三人までと厳しく、しかも留学専用のテストに合格したものだけが、確実に留学することができるの。そのテストというのは、筆記試験と面接試験。あとはTOEFL受験をしなくてはいけないの。筆記はともかく面接がすごく苦手なの。だって外人としゃべるのよ。しかも英語で、当たり前か……。あたし、人と接することがかなり苦手なの。それだから筆記は合格しても面接で落とされる人がけっこういると聞いていた。


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