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現役高校生にリアルな戦場はマジ無理、勘弁してください……  作者: アイイロモンペ
第2章 戸籍を手に入れよう
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第9話 華小路子爵邸にて

 二人は、応接間に通されると革張りの高級そうなソファーに座って待たされることになった。

ソファーは見た目の高級感に反して座り心地が悪く、由紀は今更ながらに現代日本とのギャップを感じていた。


 

 さほど待つことなく仕立ての良いスーツをきた四十代と見られる紳士が、家宰を伴って現れた。

紳士は、由紀たちが座るソファーに対しローテーブルを挟んで対面に位置するソファーの桜子の正面に座り、口を開いた。


「さて、お嬢さん。正月早々、アポイントもなしに貴族の家を訪問するとはいかがなご用件かな。」


紳士はあからさまに不機嫌な様子で、桜子に言った。


「お初にお目にかかります、貴久様。

わたくしは、貴久様の玄孫、ご長男貴佳様の曾孫にあたります華小路桜子と申します。

こちらが、初代以来の慣習になっております嫡出の子に与えられるペンダントで、私が生まれた際に当主である貴佳ひいお爺様から賜ったものです。」


といって、桜子は首に下げていたペンダントを外して目の前の紳士に差し出した。

同時に、ダウンジャケットのポケットに入れてあったスマホの画面に、この建物の正面ロータリーの前で、老人と桜子が一緒に写る写真を表示して紳士に差し出した。



ペンダントを手にした紳士は、それをじっと眺めやがて驚愕した表情を見せた。

そして、スマホの画面に映る自分そっくりな老人を顔を見て更に驚いた。

紳士は、少し声を震わせて、


「信じられないことだが、このペンダントは決め事通りに表に我が家の家紋、裏に当人の姓名、生年月日、両親の名前、祖父の名前、曽祖父の名前を刻印してあり、更には偽造を防止するために隠すように彫られた刻印も刻んである。

 そして、この写真、これは晩年の貴佳なんであろう。

 なんてことだ、孫の顔も見てないのに玄孫の顔を見ることになるとは。」



 紳士は深呼吸をして、心を落ち着かせると



「で、私の玄孫である君は、なぜここにいるのだね。」


と桜子に尋ねた。


「その質問に答える前に、

この度は、当然訪問した無礼をお詫び申し上げます。

また、突然の訪問にもかかわらず、貴重なお時間をとって面談いただき心から感謝いたします。

それと、私の隣に座っているものをご紹介いたします。

彼の名は、山縣由紀と申し、わたくしと同じ時間同じ場所からここへ辿り着いた者です。」


と由紀を紹介した。


「おお、そうであったか。

そういえば、自己紹介がまだであったな。

私は、華小路貴久、華小路子爵家の現当主である。

よろしく頼む。」



 その後、桜子は貴久に対し大晦日の晩以降あった事を、細かに説明した。

あくまで、この世界の未来から飛ばされてきたという素振りで話し続けた。



 それを聞いた貴久は、


「にわかには信じられん話であるが、難渋したのであるな。」


と述べた。



 桜子から、視線でサインを受けた由紀は、


「遅ればせながら、お近づきのご挨拶に心ばかりの品を献上させて頂きたいと思います。

お笑納いただければ幸いです。 」


と言いながら、ザックからテーブルウェアを十人分一セットと五十年物のスコッチウィスキー、三十年物のボルドー産ワイン、若いシャンパンをそれぞれ数本ずつ、更には客船オリジナルの焼き菓子の詰め合わせを二つ、ローテーブルに並べた。


 スコッチウィスキーのラベルに千九百七十五の数字を見た貴久は、更に桜子の話に対する確信を強めた。



「舶来物の洋食器であるか、見事なものであるな。ありがたく頂戴しておこう。

スコッチも楽しみであるな。

このところ、西洋のものは忌避される風潮なので、ワインもスコッチも手を出し難いのだ。」



 貴久の機嫌がよくなったところで、桜子が話を切り出した。


「それで、貴久様にお願いがあって、本日お目通り願った訳ですが、お話を聞いていただけませんか?」



「玄孫の願いであれば、変な願い出なければ聞き届けられると思うが、どのような話だ。」



「率直に申しまして、わたくしと由紀の二人は現在戸籍がない状態なのです。

この時代に飛ばされてきて寄る辺のないわたくし達は、商会を起こして生業にしたいと考えているのですが、戸籍がないと会社の設立ができないのです。

何とか戸籍を手に入れるのに力を貸していただけないでしょうか?」



「確かに、九十年後から飛ばされてきたら、戸籍も何もないな。

二人分の戸籍なら、造作もないことだ何とかしよう。

商会のほうも援助がほしいのか?」



「いえ、資金的なめどは立っていますので援助は不要です。

ただ、もし協力いただけるのであれば、この時代の法律に不案内なもので、会社設立や専売品取り扱い認可等に関する助言をお願いできればと思うのですが。」



「確かに、これだけのものを献上する余裕があるのであれば金の無心はないか。

法的手続きについては協力しよう。

うちの顧問弁護士を好きに使えばいい。

それと、戸籍ができるまでここに泊まっていけばよい。

どうせ宿も決まっていないのであろう。」



 こうして、一番の懸念事項であった戸籍の問題が何とかなると共に、しばらくの宿を手に入れた二人であった。

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