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現役高校生にリアルな戦場はマジ無理、勘弁してください……  作者: アイイロモンペ
第2章 戸籍を手に入れよう
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第8話 上京

 当面の目標を話し合った由紀と桜子は、山本翁に客船の米を炊いて食べてもらった。

予想通り、食味優先で品種改良された現代日本の米は、この世界の米より数段美味しいらしい。

 山本翁は、たいそう気に入ったようなので、世話に成ったお礼にと五十キロほど進呈した。

その上で、これを売ることはできないかと聞いたところ、やはり米の流通は政府の統制化にあるようでおおぴらに売るのは難しいと山本翁は言った。


 加えて、山本翁は、


「これだけ美味い米は初めて食べた。是非とも親しい友人に食べさせたい。

公定価格でよければ、できる限り買わせてほしいが、どうだろうか?」


と聞いてきた。

 公定価格は、十キロ当り二円四十銭らしいが、二円五十銭で買いたいと提示されたので、由紀は一トン売却することで応じた。

 由紀のザックから、明らかのザック以上の体積の米が出てきたが、山本翁は異世界の技術ということで、黙って見過ごしてくれた。

 気を良くした山本翁は、二百五十円を全て正貨で支払ってくれた。


 こうして、ある程度の社会常識と資金を手に入れた由紀と桜子は、山本翁の屋敷を辞することにした。



 山本家を辞する前に、由紀はここが異世界であることが確実になったため、生態維持ナノマシーンを服用した方がよいのではないとか提案した。

 由紀の記憶では、戦前の日本は日本脳炎を始め、危険な病気が結構あったはずなので、この国も変わらないのではないかと考えたのだ。

 これには、桜子も同意し、二人ともアンプルを服用することにした。



       **********


 汽車を乗り次いで上野に着いたのはもう日の暮れかかる時刻であった。

正月なので営業しているか不安であったが、上野の駅の近くのホテルを無事とることができた。

ツインルーム二食付二人で七円だそうだ。安いのか高いのか、由紀には見当がつかなかった。


 チェックインを済ませた二人はすぐにレストランで夕食にした。

メニューは、コンソメスープ、牛肉のカツレツ、サラダ、パンで、まずますの味だった。

由紀は、大宮の街にある古い洋食屋の味がこんな感じだったなと思った。



 部屋に戻ってベッドに腰掛けた桜子は、由紀に言った。


「手持ちのアイテムに正装はないか。

私なら、パーティドレスだな。由紀なら燕尾服かタキシードか。」


 調べてみると、客船に貸衣装があることがわかり、とりあえずコピーして取り出してみた。

何種類かあったが、身長が百七十センチを超えている桜子に着れる服は、赤のイブニングドレスしかなく、桜子にはお気に召さないようだったが、渋々赤いイブニングドレスを体に合わせていた。

 由紀が着れるのはタキシードしかなく、桜子に「七五三のようだと。」とからかわれた。



 また、由紀は桜子から手土産になるものを用意しろと指示されたため、山本翁に買い取ってもらったティーセットに加えて、ディナーセットを十ピース一組にして用意した。

 更に、仕込み年が入っており未来から来たと印象付けられるスコッチやワインを何種類か見繕っておいた。



 翌朝、朝食をとった後、着替えるから外に出ていろと締め出されていた由紀は、「入れ」と言われて部屋に入りびっくりした。



 そこには、完璧にメイクアップされた桜子がいたカラスの濡れ羽色の黒髪にやや釣り目がちな大きな目、整った鼻梁は高貴さを感じさせる。

 赤いイブニングドレスは、背が高く贅肉のまったくない桜子の体にフィットし、正に女王様という感じに纏われていた。

 残念なのは、美しい黒髪がロングヘアでなくショートであることか。



 美しいというよりかっこいいという感じの桜子をみて、由紀は見惚れていたが、気を取り戻して


「華小路さん、メイク用品持っていたんですね。」


と愚にもつかない感想を言って、桜子に呆れられた。




     **********



 ホテルをチェックアウトした二人は上野の駅前からタクシーを拾った。

サスペンションが悪いのだろう座り心地がごつごつするタクシーに揺られること十五分程すると、タクシーは大きな洋館の門の前に着いた。

 門の前には、門番が一人立っている。由紀を残してタクシーを降りた桜子は門番に話しかけ、何かを見せた。


 タクシーの中の由紀からは門番の表情は窺えなかったものの、門番はあわてて邸内に駆けていった。



 桜子がタクシーに戻ってきてしばらくすると、門番が門扉を開きタクシーを招き入れる仕草をした。

タクシーはそのまま門扉をくぐり、洋館の玄関前ローターリーに車をつけた。

 よくラノベなどで出てくる門から玄関までが見えないなんていうものではなかったが、門扉からロータリーまで三十メートルはあり、由紀はすごいお屋敷だなと驚いていた。

 ロータリーにタクシーが着くと、家宰らしき身なりの良い老人がドアを開いて桜子を招きいれた。

 由紀は、タクシーの運転手に一円札を渡し、釣りはいらない旨を告げると慌てて桜子に続いた。




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