第7話 今後について話し合おう
桜子に今後どのように行動したいかを問われた由紀は、今思っていることを述べた。
「僕はできれば、少し人を集めたいなと思っています。なるべく口の堅そうな人を。
カレンさんからいただいた物って殆どが船なんですよ。
客船も軍用艦もあるようなんですが、客船だと動かすのに二百人くらいの人が必要なんです。
軍用艦だともうちょっと少なくて六十五人くらいで動かせるのがあるらしいのですが。
どちらにしろ、現代日本の技術で作られたものなんです。
この国の技術水準は、二十世紀初頭の日本くらいの水準みたいです。
なので、国にばれたら拘束されかねないと思って、口の堅い人を集めたいんですよ。
できれば、華小路さんにも協力を仰ぎたいのですけど。」
由紀としては、頭数だけ揃えても船は動かせないことは理解していたので、海上自衛隊の自衛官だという桜子の協力は得たいところであった。
「私は、戸籍を手に入れたら、軍人にでもなろうかと考えていたが、国力の差を考えずに猪突猛進する軍と共倒れになるのは遠慮したいね。
そもそも、この国に女性軍人が居るのかもわからないしね。
まあ、なにかの縁で一緒にこの国に飛ばされてきたんだから、一緒に行動するのもやぶさかではないね。
ところで、客船だけでなく軍艦もあるのか?」
「カレンさんの話では、彼氏に贈った物の予備らしいですけど、その彼氏がミリオタで異世界で俺TUEEEEでもやりたかったんじゃないですか?
というより、客船は弐隻だけで、残りは全部軍用艦ですね。まあ、輸送艦や補給艦もありますけど。」
といいながら、由紀は要らない紙に、保有するアイテムを書き出していった。
もちろん、手の内を全て曝け出すのではなく、一部は隠すことにした。
それは、桜子を完全に信用してはいないという理由だけでない。
流石に、個人で核兵器を保有しているということを明らかにするというのは躊躇われたからである。
オハイオ級原子力潜水艦やB2爆撃機などという物騒なものが目に付いたが隠すことにした。
由紀は、客船と自衛艦を中心に切の良い十種類を書き出して、桜子に提示した。
桜子は、メモ書きを手にとって眺めながら、
「なになに、クルーザー船、カーフェリーが客船で、あとが軍用艦と……。
なんだ、一人で艦隊を所有しているってか。
最新のイージス艦に、これまた最新の多目的フリゲート艦と、え、これは私が乗っていた艦じゃないか。
由紀、これってF-35Bは搭載しているのか?」
「ええっと、どれどれ、これって空母じゃないかってマスコミで騒がれていた多目的護衛艦って言うやつですよね。
艦載機は選べるようですよ、デフォルトはSH60Kが七機、MCH101が二機だけど、全部F-35Bに変更すると十二機搭載可能って書いてある。」
桜子は満面の笑みを浮かべて、
「F-35Bの操縦は任せておけ、私はこれに乗っていたんだ。後進の育成もするぞ。
この艦を運用するには五百人は必要だな。人集めをしないとなー。」
桜子はご機嫌な様子で、この多目的護衛艦というのを動かすのは規定路線らしい。
何に使うつもりなんだろうかと由紀は疑問に思ったが、思いがけず桜子の子供っぽい表情が見られたのでよしとした。
「その艦をどうするのかはさておいて、客船1隻は稼動させたいんです。
本当は、客船業務を営みたいところですが、戦時下だと接収される恐れがありますよね。
太平洋戦争中、日本でも客船や輸送船が軍に接収されたらしいですし。
とりあえずは、家代わりにならないかなと考えているんです。
だって、柔らかいベッドで寝たいし、水洗トイレやエアコンも使いたいです。
どれも、今のこの国ではかないそうもないので、いっその事船を家代わりしたほうが快適じゃないですか。
燃料も食料も気にしないでいいんですから。」
由紀は、初めて使う汲み取り式のトイレに驚くとともに、現代日本の生活に慣れた自分では、適応するのが難しいと思った。
「たしかに、由紀の言う事も分かる。人目につかないところで船を停泊して生活するのは悪い考えではない。
しかし、人を揃えるにはそれなりの金が要るぞ、どうするつもりだ。」
「とりあえず、カレンさんから貰ったアイテムを売って手元資金を作って商会を起こそうかと。
で、人集めの手段は考えてあるんです。
東北地方はひどい凶作で、政府が備蓄米を放出したので飢饉にはなっていないようですが、現金収入が足りなくなった貧農の間で娘を身売りに出すのが増えているそうです。
年頃の娘は、女衒が買い漁ってしまっているでしょうけど、もっと小さい子を買って教育を施せば秘密が守れる人員を確保できるんじゃないかと思うんです。
それに、この国の義務教育は小学校レベルらしいので、どちらにしろ教育レベルを上げないと使い物にならないと思うんですよ。」
昨日から社会情勢を調べる中で、東北地方で一部の若い女性が極めて不遇な立場に置かれていることを知った由紀は、うまく活用できるのではないかと考えていた。
「そう、女性の待遇改善と私達の利益の双方を狙おうというのね。
でも、それをやろうと思うと本当にお金がかかるわよ。
住む場所も必要だし、教師も雇わなくてはならないんじゃないかしら。」
「売り物は、米、洋食器、寝具、調味料なんかは無難じゃないかと思っているんだ。
でね、目玉商品が女性用の生理用品。
日本で今のような生理用品が発売されたのって千九百六十年代なんだって。
だから、きっとこの国でもまだないんじゃないかと思って。
昨日、船の売店の商品のリストを見てたら見つけたんだ。
高分子ポリマーの商品なんて絶対ないし、真似出来ないんじゃないかな。
あと、米軍の軍艦の装備品の中に大量のコンドームを見つけたよ。きっとこれも売れるよね。」
米は統制品の可能性があるが、山本翁にご馳走になったこの国の米は現代日本の米ほど食感が良くないし甘みが感じられなかった。
由紀は目立たないように流せばそれなりに売れるのではないかと考えていた。
「洋食器は、いけそうだなティーセットで大卒初任給を超えるならぼろ儲けだ。
あと、由紀の言うとおり生理用品はいいな。ところで、私が使う分はもちろん只なんだろうな。
あと、コンドームはどうかな、米軍用なんだろ、サイズ合うのか?」
コンドームを使う機会のなかった由紀には、そんなものにサイズがあるのも知らなかったのだ。
確かに、体格が違えばサイズも違うかもしれない、由紀は当てが外れたことに落ち込むのであった。