第2話 迷い人を探して
カレンからの通信が途絶えた由紀は、しばらく腕輪を触っていた。
すると、機械音声で「チュートリアルを始めますか?」と聞かれたので、思わず「はい」と答えたら頭に直接響く感覚で取り扱いの説明が始まった。
この腕輪、実は未開惑星開発キットなるもので、かなり高価な品物らしい。
貰ったのは、C級品で任意のアイテムを二十種類と生体維持ナノマシーンアンプル千本を収納できるらしい。
生体維持ナノマシーンは、ウィルスや細菌をはじめ、あらゆる病原体を速やかに駆逐するほか、異常細胞の正常化、破損部位の即時修復などの働きをするので、直ちに服用するように言われた。
由紀は、アンプルを服用するのは、ここが地球ではないことを確信してからにしようと考えた。
支援物資というだけあって、アイテムは二十種類全て登録済みであった。由紀がチラ見したところ、船が殆んどの様に見えた。
このアイテムは総数で十倍まで増やして使えるとのことである。要するに、アイテム数は二百個まで使うことができ、あるアイテムを1つしか使わなかったら、残り9つ分をほかのアイテムを増やせるのである。
また、アイテムに備え付けられている消耗品は無限に補充できる。アイテムは腕輪に収納するときに「初期化」により新品に戻せるほか、「修繕」で損耗箇所を直せるらしい。
腕輪の概要を理解した由紀は、山を登るか下るか思案したが、周囲を見張らせる場所を探したいことと、先に綻びを潜った人が山を登ったのではないかと思ったことから、登ることを選んだ。
暗い細道を懐中電灯の明かりを頼りに登ること約二時間、由紀は少し開けた平坦な場所に出た。
懐中電灯で、先を照らすとこの広場の向こうに続く道は下り坂になっていた。
どうやらここは、峠らしい。
広場を懐中電灯で照らすと、片隅に人影らしきものが見えた。
目を凝らすとエアマットを敷いて、座っているのが判った。
由紀は、その人物の方へ歩み寄ると、
「こんばんわ。日の出を見に来た方ですか?」
と話しかけてみた。
「ええ、その積もりで来たのだけど。ここでいいのかしら?
なんか誰もいないのよね。
ここって、隠れた名所って聞いて来たんだけど。」
若い女性の声であった。赤いダウンジャケットに、ウールのパンツのショートヘアの女性で、明らかに由紀よりは年上の女性である。
「えーと、日の出の名所の峠はここではないです。その峠には茶屋があって、駐車場もあって、毎年初日の出を見ようとする人が結構来てますので割と賑やかです。」
「じゃあ、ここじゃないの?どこで道を間違えたのかな?一本道だったけど?あなた、分かる?」
「実は、僕も分からないんです。ちょっと荒唐無稽な話になるけど聞いてくれますか?」
といって由紀は、カレンから聞いた話を女性に説明した。
「なんか、にわかには信じ難い話よね。だってここが地球じゃないってことよね。
まあいいわ。朝になれば辺りの景色も見えるし、その話が本当か分かるわ。
もし本当なら、日本人どうし仲良くしましょう。
自己紹介が遅くなったけど、わたしは、華小路桜子、海上自衛隊で自衛官をしているわ。
よろしくね。」
「こちらこそ、自己紹介が遅れてすみません。
僕は、山縣由紀といいます。高校1年生です。」
「あら、君、男の子だったのね。
声も高いし、セミロングのおかっぱ頭だから女の子だと思っていたわ。」
とりあえず、山道を暗い中で進むのは危険なので、由紀たちは夜明けを待って行動することにした。
由紀が、広場の周りから適当に枯葉や枯れ枝を拾ってきて、二人の近くに焚き火をした。
焚き火をすると、辺りが少し明るくなったためか、ほのかに暖かくなってきたためか、二人の間の緊張感も緩みわずかながら会話も進んだ。
「由紀君、由紀君!」
目を開くと目の前には、由紀をのぞきこんでいる桜子の顔があった。
どうやら、寝てしまったようである
「華小路さん、おはようございます。すみません、寝てしまったみたいで。」
「いや、かまわないよ。しかし、君はおもったより肝が据わっているんだね。
この状況で眠れるなんて大したものだ。」
「それ、絶対褒めてませんよね。」
「ともあれ、明るくなってきたんで少し周りを見てみよう。
それに冷え込みがきつくなったんで少し焚き木を拾ってくる必要もありそうだ。」
こうして、由紀達は夜も明ききれぬ早朝から周囲の状況を確認するため活動を始めたのであった。