第一帖「桐壺」07
ついに光源氏誕生
先の世にも御契りや深かりけむ、
世になく清らなる玉の男御子さへ生まれたまひぬ。
いつしかと心もとながらせたまひて、急ぎ参らせて御覧ずるに、
めづらかなる稚児の御容貌なり。
(意訳)
前世でも深い契りがあったのでしょうか、
件の更衣にこの世にないほど美しい男の子がお生まれになりました。
帝は里に下がっている更衣と生まれた男の子が参内するのはいつか、
早く会いたいと心がせいて、急いで参内させてご覧になったところ、
滅多にないほど美しいお顔立ちの赤ん坊であった。
人と人が結ばれ、子をなすことに前世の因縁を感じるのは、
現代にもあることではあります。
またとない因縁があればこその「帝の男子誕生」というのが当時の考え。
宮中は血の穢れはご法度ですから、当然件の更衣は里下がりをしての
出産となるのです。
通常は十分に落ち着いてから、頃合いをみて参内であるのですが…
ここでも帝は自分を抑えられません。
最愛の更衣が生んだ男の子。
早く会いたくて仕方がないのです。
そして、急遽参内させてご覧になります。
するとどうでしょう。
またとない美しいお顔立ちの男の子です。
やっとこの物語の主人公・光源氏がご誕生になりました。
私たちは、この物語の先をうっすらと知っています。
彼が臣籍降下して「源」という姓を賜ることになることは、
物語の署名「源氏物語」からも察することができます。
しかし、物語の登場人物たちはどうでしょうか。
そんな先のことは、知る由もありませんね。
帝の最愛の寵妃が男子を出産。
しかも、この世にまたとないほどの可愛い赤ん坊…。
他の女御や更衣、貴族たちはいったいどう思うのでしょうか。