第一帖「桐壺」01
まずは、あまりにも有名な冒頭文から。
いづれの御時にか、
女御、更衣あまたさぶらひたまひける中に、
いとやむごとなき際にはあらぬが、
すぐれて時めきたまふありけり。
(意訳)
いつの時代のことだったでしょうか。
帝(天皇)の妻として女御や更衣がたくさんお仕えしている中に、
たいそう高い身分ではない方で、
帝に特別に愛されている方がいらっしゃいました。
有名な冒頭文です。
実は、ここにはツッコミどころ満載。
「いづれの御時にか」と時代を濁す意味が、もうね。
神である帝の異常事態を物語化するにあたり、
当然「あの帝がモデルじゃない?ってか今の帝?」という
あらぬバッシングをかわす狙いがプンプンです。
現代でいう「忖度」です。
なぜなら、この物語は、
身分の高い者(=血筋に間違いのない者。もっというと主流の藤原家)が
必ずしも栄えていく物語ではないから。
当時当たり前だった、身分が出世や幸福度を決める社会に、
何気に反する内容だから。
「たいそう高い身分でもないのに、帝に愛されている女性」
というのが、もう異常事態なのです。
現代であれば、「シンデレラ」的なサクセスストーリーなのですが、
当時はあってはならない異常事態なのです。
もう一つの注目ポイントは、「女御、更衣あまたさぶらひたまひける」。
裏を返せば、まだ誰も絶対的な正妻「中宮」にはなっていないのです。
天皇の妻の序列は
中宮(1名)>女御(数名)>更衣(大多数)
です。
中宮は、身分が高く男子を出産した女性が到達する最高位。
この時、大臣家から入内(帝へのお嫁入り)をして、
最初の男子を生んだ弘徽殿の女御というのがいました。
当時の常識では、この方が中宮の第一候補。
それなのに、それなのに…。
まだ中宮にはなれていない。
彼女が生んだ長男も立太子(次の帝として正式発表)されていない。
今ならまだ、ワンチャン下克上あり?
そんな微妙な時に…
帝の寵愛は、それほど身分の高くない別の女性に集中。
※「いとやむごとなき際にはあらぬ」を「身分が低い」とは
訳してはいけません。入内できるということは、
「それなりの身分・出自」ではあるのですが…。
これは、宮中を揺るがす大事件の予感!
次話に続きます。