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転生黙示録  作者: 水色つばさ
1章  転生と出会い
9/63

7話 ゴブリンの住み処へ襲撃

 あれからさらに一週間が経過した。

  この一週間もいつもと変わらずココナとの特訓の日々だ。

  流石に毎日の様にココナと特訓を重ねて居たため、ここに来た頃よりもだいぶ強くなった。

  そして、今現在もココナと特訓をしている。

 

「はぁ!」

「くッ!」


 ココナの素早い攻撃を受け止めと、俺はすぐさま距離を取る。


 

「いやーすごいね。あれからまだ一週間しか経ってないのこんなに強くなるなんて」

「自分でもびっくりだよ、まさか俺がここまで出来るとは思ってなかったから」

「そうなんだ。でも、それってカエデ君が気にしていた剣の才能を、ちゃんと持っているってことなんじゃない?」


 確かに、ここまで自分の成長が早いと、剣の成長が本当にあるように思う。

 しかし、才能って呼ばれるものはもちろん俺が生きていた世界にもある。だけどここまですぐに成長を実感できるものなのだろうか? もしかしたら、この世界の才能っていうのはゲームで言うところのスキルみたいなモノなのかもしれない。

 

「どうだろうな。だけど、自分がちゃんと成長できてるのは実感できてる」

「それは良いことだと思うよ。そうだね、今のカエデ君ならいけるかもしれないね」


  ん? いけるとは何のことなのだろうか?

 

「いけるとは?」

「そろそろ。カエデ君には魔物と戦っても大丈夫かなって事。だから魔物と戦ってみる?」


 なるほど、確かに今のなら実力弱い魔物なら、なんとかできるかもしれない。だけど……魔物とはいえむやみやたらに殺していいものなんだろうか? それが気がかりだ……。

 

「どうしたの?」

「いや……なんでも無い」


 ココナは俺のために提案してくれてるんだし、それに俺もそろそろ魔物の一匹や二匹戦えるようにならないと。

 

「安心して」


  そんなことを言いながら俺の顔に手で触れる。


「え?」

「カエデ君の事は私が守ってあげる。そして、カエデ君が魔物を殺すのを躊躇っているのなら。代わりに私が魔物を殺す。だから、カエデ君は魔物と戦うだけでいいよ」


 俺の心を見透かしたように言葉を述べ、慈愛に満ちた笑顔が俺に向けられる。

  しかし、その笑顔が少し俺は気がかりだった。

  何故だかはわからない。しかし何か引っかかるのだ。彼女は俺の事を気にして言ってくれているのだと思う。

  だけど――どこか俺に依存している様な感じがする。

  もちろん俺の自惚れかもしれない。だけど、もし自惚れでも何でも無かったら?

  そう思うと何故そこまで、と疑問が頭に浮かぶ。

  そして、もしそうならそんなココナを守ってあげたいと思う。依存しているならそれは何か原因がある筈。それを取り除くためなら何でもして解決する。

 

「あれ?」

「ん? どうしたの?」

「いや……なんでもない」

「そう?」


 俺はなんでココナの事こんなに守りたいと思っているんだ? 

  もしかして俺ってココナの事好き……なのか? 自分では良くわからない、だけど、ココナに対するこの気持ちを一言で表すなら、恋をしている。ということではないだろうか? 

 

  少し心配そうな顔をして、俺を見つめてきてるココナの顔を見つめる。

  ココナはとても優しい女の子だ。そして、とても強く、よく俺の事を気にかけて構ってくれる。ここに来てからも、とても良くしてもらい、毎日の様に一緒にいる……。

  男として惚れるなって方が無理があるか。

  はっきりさせよう。俺はココナが好きだ。俺が誰かに恋をするとは夢にも思っていなかったな。

  向こうだと、別に気になる異性はいなかったから――

  なんだ? 少し頭痛がする。

  ここ最近、向こうの事を思い出すと頭痛がすることがある。理由はわからないが、思い出すたびに頭痛がするのは不快なので、これからはなるべく思い出さないようにしよう。


「ど、どうしたの? ジッと見つめて。それになんか顔色悪いよ?」

「いいや。大丈夫、ちょっと頭痛がね。それとジッと見ていたのはココナって男の人にモテそうだなって思って」

「な!? そ、そんなことないよ!!」

「そうか?」

「そうなの!」

「ふーん。なら、交際してる男性とか居ないんだ」

「いるわけないじゃん!?」


 よし! お付き合いしてる男はいない事が分かった。だけど、よくよく考えたら居たら俺にこんなに付きっきりにで鍛えてくれたりしないか。

 

「もう……本当にどうしたの?」

「いいや。それじゃ魔物と戦いに行こうか」

「なんか誤魔化された感じがするけど。やる気になってくれたのならいいか」


 やる気……か。俺は今も魔物と戦う事にい躊躇いを感じている。だけど、ココナが好きだと自覚した今ならなら、できるかもしれない、俺は今のままではダメなんだ。一歩踏み出さないと。

 


 ☆☆☆


「ここがゴブリン達の住処だね」

「ここが……」


 軽く辺りを見渡すと、焚火をした後や武器等を立てかけているのがわかる。そして、その場所から少し奥に目線を向けると、洞窟がありそこにゴブリンが二匹がたっていた。

  二匹のゴブリンは片方が剣をもう片方は槍を持っている。

 

「見張りが二匹か……」


 ココナは真剣な顔をしてそう呟く。

  見張り、か。

  改めて思ったが、ゴブリン達は俺たち人間と似たような思考をしてる。

  ちゃんと見張りをたてたり、俺が襲われた時とかしっかりと味方を間違って攻撃しないように立っていたりしていた。

  そして、何よりゴブリン達は集団で行動して居ることが多いようだ。今のところは単独で行動しているゴブリンを見たことがない。

  もちろん一つ一つ見ていると人間とは似ても似つかないが、しかし、それはあくまで人間と比べた場合だ。しかし、他の魔物と見比べると、まだ人間と似た行動をしていることが多い。

  前にココナからこの辺に出る魔物の事を聞いてみたのだが、この辺を支配している魔物はゴブリンだと言っていた。

  正直最初は耳を疑ったものだ。

  ゲームではスライムと並ぶ雑魚の魔物なのに、それがこの辺一帯を支配していて、意外と魔物の中では賢いときたもんだ。

  まぁ、戦闘能力は低いらしいが……。しかしそれを補うためなのか、集団でしか行動しないようで、さらにこの辺はゴブリンより強い魔物が少ないのだとか、それもあって必然的にゴブリンと遭遇する機会が多い。

 

 

「周りには他にゴブリンが居ないみたいだし。囲まれる心配はないかな?」

「なるほど。で、どうするんだ?」

「早速で悪いんだけど、片方はカエデ君に任せていいかな?」

「え? あぁ、頑張ってみる」

「安心して。ちゃんとフォローするから。右の奴お願い」

「わかった」

「うん。じゃあ私が合図したら行くよ?」


 俺は集中する。失敗はできない。失敗すれば中からゴブリンの大群が出てくるだろう。

  ココナがフォローをしてくれると言ってはいたが、男としてのプライド的にフォロー無しで成功させたい。

 

「3……2……1……0!」


 0と言うと同時に飛び出す。

  俺とココナはお互い全速力で二匹のゴブリン達の元へ走って行く。ココナは左、そして俺は右のゴブリンの元へ――

  ゴブリンは俺たちの存在に気づき武器を構えようとする。しかし、その行動はココナのスピードの前には無意味だった。ココナは剣を持つ方のゴブリンの後ろに回り込むとそのまま喉をかき切る。

  そして俺も槍を持つ方に攻撃を仕掛ける。がしかし――体が固まってしまった。

  勢いがあれば行けると思ったが、ダメだったみたいだ。

  武器を振り下ろそうとして固まった俺へゴブリンは槍を突き刺そうと構える。

  しかし、ゴブリンの槍は俺の体を穿つ事はなかった。

  何故か? それは今目の前にゴブリンの首にはナイフが刺さっているからだ。

  ゴブリンが俺に攻撃を仕掛けようとした瞬間に後ろの方からナイフが飛んでいき、そのままゴブリンの首にヒットした。

  ゴブリンは自分の身に何が起こったのかわからないように自らの首を触る。そしてその場に倒れ込み体をピクピクと震わせる。

  それが次第に動きが小さくなり、最終的には動かなくなった。

 

「ふう……危なかったね」

「すまない。ココナ……」

「気にしなくていいよ。言ったでしょ? ちゃんとフォローするって」


 確かに言った。しかしこれはフォローと言えるのだろうか? 結局これはココナが一人でやったのと変わらなかったのでは? そう思ってしまう。

  俺は顔を下に向けて俯く。すると背中に鋭い痛みが走ると同時にバシンッと音が体に響く。

  どうやらココナに勢いよく背中を叩かれてしまったようだ。

 

「いた!?」

「何暗い顔してるの? 無事二匹のゴブリン達を排除したんだよ? だから、そんなに気にすることないよ」


 不意に俺の顔にココナの手が伸びてくる。そして俺の顔を掴むと横におもいッきりしっぱられる。


「にゃ、にゃにふるんら」

「これは失敗じゃない。成功なんだよ? なら笑顔にならないと」


 ぐいぐいと俺の顔を横に伸ばし満面の笑顔を向けてくる。

  こういうポジティブな考えはココナに勝てないかもしれないな。

  とりあえず、顔を引っ張られてちょっとだけ痛いので、ココナの手を掴んで顔から離させる。

 

「そうだな。こんなところでウジウジしてる場合じゃないな」

「そうそう! じゃあ中に入ろうか?」


 そういってココナは洞窟の方に視線を向ける。

  そして、ふと、こんな考えが頭を過る。ゴブリンを全滅させる気なのだろうか? と。

 

「ああ」


 そんな考え頭に過らせながらも、俺は返事を返し。ゆっくりと洞窟の中に入っていく。

  洞窟あちこちにたいまつが立てられていて、中は意外と明るい。

  しばらく歩くと奥から薄っすらとだが、ゴブリン達の声が聞こえる。その声を聞き更に慎重に足音を潜めて奥へ進む。そして、しばらく進むと開けた場所が見えてきた。

  直ぐにはその場所に行かず、ゆっくりと遠くから辺りを見渡す。すると――何匹かのゴブリン達が居るのを確認できた。

 

「1……5……10」


 ココナは小さい声で数字を数える。おそらくゴブリン達の数を数えているのだろう。

 

「10匹はいるね」

「多いのか?」

「そうでもないよ。ゴブリン達の住処で10匹は少ない方だと思う。基本20や30いても不思議じゃないからね」


 20や30……。そんなに集団で暮らしているのか。

  確かに、それだけ数が居るのが当たり前と考えると10匹くらいならまだ少ない方だな。

 

「こいつらが特別少人数で行動してるだけなのか?」

「どうだろう? もしかしたら、誰かに大半やられちゃった可能性もあるよ。こんなに少ないのは私も初めて見たから」

「誰かにか――」


 俺はリリーの事を思い出す。確か俺が来た時に襲って来たあのゴブリン達……実際には数えてはいなかったが結構な数が居たはずだ。もしかしたら、あの時のゴブリンの生き残りかもしれないな。

  もしそうなら、ゴブリン達にとっては俺は仲間の仇になるのかもな。

  少し可哀想な気持ちが湧き上がる。

  魔物にこんなことを思うのはおかしいのかもしれないけど――

  そんな事を考えていると、ふと横から視線を感じる。視線を感じた方に目線を向けるとココナが俺の顔をジッと見ていた。

  そしてココナの顔は何故だろうか、どこか微笑ましいモノを見るような顔をしていた。

 

 

「な、なに?」

「ううん。何でもない。とりあえず、これだけ少ないのはチャンスだよ? 心の準備はいい?」

「……準備はできてる」



 何だったろうか? 少し気になるが、今は目の前の事に集中するしかない。

  俺は改めて回りを見渡す。

  上に二匹……どちらも弓を持っているな、そして下にいるゴブリン達は―――右には三匹、左には同じく三匹。そして少し奥にある穴には焚火が焚かれていて、それを囲む様にして二匹が座っている。

 

「そうこなくっちゃ。さて……結構ばらついてるけど、カエデ君はどう考えてる?」

「うーん。そうだな」


 ココナの言う通りうまいことばらついている。こういう場合はある程度固まってくれていた方がいいんだが――

  どうするか。左右のゴブリン達から攻めるか? いや、しかしココナは大丈夫でも俺が失敗してしまう可能性が九割ある。

  でも、これが一番確実なんだよな。上に弓を持ってる奴が二匹いるが、俺とココナが分かれれば片方に一匹が狙ってくれるはず。いや――そうじゃなくても、一人に集中するなら、片方が速攻で片づけて、上の奴を処理できるかもしれない。幸いな事にどっちにも上に行くための階段がある。

 

「お互いに左右のゴブリンを排除していくとか?」

「うーん。そうだね良いと思うよ。だけど――」

 ココナは申し訳なさそうな顔をして、苦笑いを浮かべる。

  だよな。そんな顔になるよな。

 自虐ではないが先ほどの俺の動きを見ていれば役に立たないと思うのが当たり前だ。

 

「ごめんなんだど、さっきのカエデ君を見てるとちょっと難しいと思う」

「だよな……」


 わかってた。うんわかってた。俺が逆の立場だったら同じ様に苦笑いしていたと思う。。

  しかし、それならココナには何か考えがあったりするのだろうか?


「まぁ、何も考えず強行突破しましょうか」


 何も考えないのか……。いや、まぁココナなら何とかなるような気もするけど、流石に何も考え無しに行くのはちょっと無謀な気がする。

 

「ココナ……流石にそれは」

「大丈夫」

「え?」

「言ったでしょ? 私はカエデ君を守るって」

「確かに言ってたけど」


 言っていた。しかし、なんで俺をそんなに一生懸命に守ろうとしてくれるんだ?

  そんな疑問が頭にちらつくのは必然だろう。

  しかし、そんな疑問が浮かんでたとしても、本人に直接聞く勇気は俺にはなかった。

 

「じゃあ行ってくるね」

「な!? ま――」


 ココナは俺が止めに入るよりも早く奥へと走っていく。そして、全てのゴブリン達がココナの存在に気が付き、それぞれ武器を構え始める。

  最初に攻撃を仕掛けたのは上にいる一匹のゴブリンだった。弓矢を弓に沿えるそして弦を引き――離す。

  弓矢はココナに向かっていく。しかし、ココナはまるで来る位置を予測していたかのように急転換して、左へと走って行く。

 左右のゴブリン達は剣をすでに抜刀しており、いつでも迎え撃てる準備はできていた。

  しかし、ココナのスピードについていけてない。

  近づいてきたココナに剣を振り下ろそうとしているが間に合わず、首をかき切られ絶命させられてしまう。

  そして、そのまま別のやつの元へ向かい首を刺す。さらに隣にいたゴブリンが攻撃を仕掛けてくるが、首を刺されて絶命しているゴブリンを盾にして呼応撃を防ぐと、そのままそのゴブリンを投げてぶつける。その後、怯んだゴブリンに、腰に付けていたもう一つのナイフを取り出して首を切りつける。

 

  血しぶきが出るがそれを気にした様子もなく。怯ませる為に投げた、一匹のゴブリンの首からナイフを引き抜く。

 

「すげーな……」


 そんな呑気(のんき)な感想が出てくる。改めてココナはすごいのだと思った。

  俺も流石に黙って見守っている訳にはいかず、自分にできる事を探す。

  ぱっと見た感じだと現段階だと俺には何もできる事が無い気がする。だが俺は考える――下手に俺も飛び出せばココナの迷惑になる。ならばどうすればいいのか。

 俺はふと、上の弓を持つゴブリン達を見る。奴らを何とかできれば、ココナも戦いが楽になるのではないか?

 

「どうする? どうやってあの弓を持ってるやつらをどうにかできる?」


 考えろ考えろ――

  俺が何とか役に立とうと考えてる間にも、ココナは右側の居たゴブリン達と戦おうとしていた、しかし、奥にいた奴らも奥から出てきて、右側の三匹と真ん中の二匹が合わさってしまい。合計で五匹も相手にしなければならない状況となってしまっていた。しかも、右側に居たゴブリン達はココナを目指して走ってきていたため、少し真ん中に近いところで戦うことになっている。

  俺は拳を強く握り俯く。

  どうする早く考えろ……このまま臆病者でいるつもりか、女の子に守られてばかりでいるつもりか。そんな自分を責め、自分ができる最善を探す。

 

  そして、ふと目線を戻すと、ココナが一匹のゴブリンを倒しているところだった、しかし囲まれているため、他のゴブリン達からの攻撃が来ている。ココナはそれをなんとか避けるが、避けた先にも他のゴブリンが居た。そして剣を振りかぶっており、さらには上からは二匹のゴブリンが弓を構え今にも射ち放ちそうだ。

 

「な!?」


 紫の線が見える。これは――剣聖の予知。

  紫の線は二つあり、二つとも弓を構えているゴブリン達がら出ている。

  このままじゃココナが弓矢に当たってしまう。

  考えている暇はない。そう思うと同時に俺の体は動き出す。

 

「うおぉぉぉぉぉ!!」

「え? カエデ君!?」


 おそらく俺が飛び出してくると思っていなかったのだろう。驚いた顔をしながら、後ろのゴブリンの攻撃を体を回転させながら、避るとゴブリンの首を切る。

  いつもなら、後ろにでも目があるんじゃないかと思うような行動で驚いているが、俺は目の前に見えてる紫の線を目指す。

  上のゴブリンから、弓矢が放たれる。

  間に合え、間に合え、間に合え間に合え間に合え間に合え間に合え。

 頭の中でその言葉だけが反響する。

 全速力で走る。足が今までに出したことのないスピードに悲鳴を上げているのがわかる。しかし俺は止まらない。たとえこの足が壊れようとも。

  そう思った瞬間――俺の頭の中で何かがカチっと音をたてた。

  そして、その音と共に体が軽くなり回りの動きがスローモーションになる。

  なんだこれ? 今の自分の状態に疑問が浮かぶ、しかし、俺は走るのを止めない。

  気が付けばココナを追い越し弓矢が飛んでくる位置まで来ていた。

  俺は鞘から刀を抜くと同時に飛んできた弓矢を一つ斬る。そして、もう一つを上から下へと動かし斬る。

 

「え……?」


 少し間を空け、ココナが間抜けな声を上げる。

  間に合った? 俺……間に合ったのか……?

  俺は心の中で少し安堵する。しかし、横に紫の線が見え、そちらに刀を向ける。するとゴブリンが攻撃してきていたようで、その剣を刀で受け止める形となった。

  俺は剣を押し返し、刀を横に振りゴブリンを斬る。斬られたゴブリンのお腹から血が噴き出る。次に俺の右側にいたゴブリンに視線を向けると、そのまま斜めに斬る。

  後ろから気配があり、振り向く。するとそこにはゴブリンが居た。俺はまるで水が川を流れるような当たり前の動きで、上から下へ斬る。

  最後にその隣にいたゴブリンも斬る。

  最後にゴブリンを斬った時疑問が浮かぶ、何故だ? 今すごく落ち着いている。さっきまでゴブリン達を殺す事を躊躇っていた筈なのに、何故か今はそんな気持ちが沸いてこない。今なら人ですら殺しても何も感じないかもしれないと。そんな事を思った。

 

「あとは上の奴だけか……」

「任せて」

「え?」


 俺が上の二匹を倒そうと思うと同時にココナがそう言ってきた。

 ココナが上に向かってジャンプする。その跳躍力にいつもの俺なら驚くはずだった。しかし、何故だか驚けない。まるでそれができて当り前すら思えるほどに冷静に思考が働く。

  ココナは上のゴブリン達の前の手すりに乗る。


「これで……最後!」


 上にいた二匹のゴブリンはお互いにそれほど離れていなかったため、ココナは二本のナイフを横に振り首を切る。

  ゴブリンの頸動脈から血が出るよりも早くそこから飛び退き下に降りてくる。

 

「ふぅ……」


 飛び降りてきたココナは息を静かに吐く。そして上ではゴブリンの首から血が噴水の様に噴出させ倒れていくのが見えた。

  あまりにも勢い良く出ているため、ココナの髪に血が降りかかる。

 

「……血の雨」


 そんな感想が口からでる。そして、その血の雨の中に佇むココナの姿が、何故だかわからないが、様になってると思ってしまった。

  そして、ココナは俺の方へ向く。

  一瞬――本当に一瞬だが、ココナの顔が悲しいモノに見えた。

  そしてまるで誰かに救いを求めているようなそんな目をしていた気がした。


「すごいよカエデ君!」

「へ? 何が?」

「ゴブリン倒したんだよ! カエデ君が! すごく頑張ったね」


 あ……そういえば俺ゴブリンを倒したんだ。自分のこの手で――

  だけど、あまり実感が沸かない。あの時は無我夢中だったし。

  しかし、自分が改めてゴブリンを殺害したと悟ると、急に罪悪感等が溢れてくる。

  そして次第にゴブリンを斬った感触が手に蘇ってくる。

  呼吸も少しづつ荒くなる。辺りに充満する血の匂いにも吐き気がこみあげって来る。

  血の匂いを嗅ぐのはこれが初めてではない。しかし今までは外だったため、まだ風に流されていたりしてマシだった。

  だが、今回は洞窟の中だ。換気扇といった物などある筈もない。

  今にも吐きたい気持ちがある。

  だがぐっと堪え平常心を保つ。

 

「あ、あぁ……確かに今までの俺ならありえなかった事だからな。自分でもよく頑張ったと思うよ」

「うんうん。そうだよね。でも私びっくりしちゃった。カエデ君が飛び出してくるんだもん」

「あ。やっぱり、あのまま隠れたままだと思ってた?」

「カエデ君には悪いけどそう思ってた。ごめんね」


 両手を合わせて俺に謝ってくる。別に俺はそれに関しては何も気にしていない、事実、俺自身もあのまま隠れてても不思議じゃないと思っていたくらいだ。

 

「別に気にしてない」

「良かったー! でももっとびっくりしたことがあってね」

「何?」

「カエデ君、すごいスピードでこっちに向かってくるんだもん」

「え? 俺そんなに早かった?」

「うん。もしかしたら、ゴブリン達には瞬間移動したように見えたかもね」

「そうなのか……」


 あの時は確かに必死だった。だが、あの時の自分の体の中で、何かのスイッチがONになった感覚があったのは覚えてる。

  あれは何だったのだろう? スイッチがONになった感覚が起こると同時に俺の体は軽くなった。

  ココナなら何か知ってたりするだろうか?

 

「なぁココナ」

「何?」

「聞きたい事があるんだが」

「どうぞどうぞ。何が聞きたいの?」


 俺は先ほどの感覚をココナに話した。剣聖の予知を持ってる事は、ココナから教えて貰ったのだ。だから今回も何かわかるんじゃないかと思った。

 

「うーん。ちょっとわからないなー?」


 残念ながらココナでもわからないらしい。

 

「そうか。残念。ココナなら何かわかると思ったんだが」

「私もそんなに詳しい訳じゃないしね」

「まぁ仕方ないか」

「ごめんね」

「いいや気にするな。わからない事は誰だってある」

「ありがとう」


 さてと、ココナにもわからな訳だが、あの感覚は本当に何だったのだろうか? おそらく、火事場の底力みたいなそんな感じじゃなかった。

  いやまぁその力を使えたのは火事場の底力かもしれないが……。

 

「まぁ考えてもわからないな。それにこんなところに居ても、もう意味は無いし帰るか?」


 正直なところ、辺りにゴブリンの死体が転がってる場所でこれ以上は長いはしたくない。

 それに……さっきから震えを隠すのが大変だ。

 

「そうだね。死体だらけの場所にこれ以上居たくないし帰ろうか」


 ココナも帰ることに同意してくれた。流石ココナもこんなところには居たくないみたいだ。

  まぁ当り前だよな、もしここでもう少しこの死体だらけのところに居ようよとか言われたら狂気を感じてしまう。

 

「……じゃあ帰るか」


 洞窟の出口に向かう道すがら、俺は考えていた。先ほどの力を自由に使えれば、ココナと同等それ以上になるのではないかと。

  明日はココナとの特訓が無い日だし、ゆっくりと考えれるな。

 

  そして宿屋に着くと同時に俺はすぐさま洗面台で嘔吐する。最初は飲み物など吐いていた。しかし次第に出るのは胃液だけとなる。

 

「はぁはぁはぁ……」


 まだ震えが止まらない。ここに帰ってくるまでの間。何回吐きそうになったことか。

 

「おぇ!」


 再び嘔吐する。

  そして、5分くらいして少し落ち着いてきた。

 俺はそのまま、ずるずると床に崩れ落ち息を整える。

 

「……今日は食べ物は喉を通りそうにないな」


 そう呟きながら、起き上がるとベッドに向かいそのまま眠ることにした。

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