21話 エピローグ
「なるほど、そういうことだったのか」
荷物をまとめて、サナエとルトガアの家に戻ってくると。サナエが丁度昼食を作っているところであった。
ちょうど俺達もまだ何も食べていなかったため、ありがたく貰う事にした。
そして、昼食が出来上がると、サナエは数枚の羊皮紙を持ってきて俺に見せてくる。
俺が首を傾げていると、ジッと無言で見てきたのでとりあえず目を通し、ちょうどいま読み終わったところだ。
「サナエ、お前はこれを読んで落ち込んでいたんだな」
「……うん」
蚊の鳴くような声で小さくうなずく。
俺はワザとらしく大きな溜息をつきサナエに一言言ってやった。
「バカだろ?」
「な!?」
その言葉に顔を赤くする。もちろん羞恥ではなく怒りでだ。
「わたしバカじゃない!」
「いや、バカだろ。何よりこんなの本人が言わない限り気が付くなんて無理だし」
「でも……もしわたしが気が付いていれば」
「……何も変わらないよ。サナエと出会う前から心は決まっていたんだから」
そう……サナエがたとえこの事に気が付いていてもルトガアの気持ちは何も変わらなかっただろう。
しかし……ルトガアまでもがこの世界を恨んでいるとは。
やはり、リリーが集めている仲間はそういう人物ばかりなのかもしれない。
だとすると、セリア、モニカ、仮面の男。こいつらも何かしら世界を恨んでいるのかもしれない。
まぁ……仮面の男は間違いなく世界を恨んでいそうだがな。人間も魔物も嫌っているような感じだった。
だが、モニカやセリアはどうなんだろうか? モニカは帝都で主――アリアやメアリーを襲ったことでエグルに相当な怒りを向けていた。
セリアはまだそういった姿は見せてないが、特に人を嫌っている風には見えない。
「そうかもしれないけど……」
「……ふう。まぁなんだ、その辺も踏まえてルトガアにぶつけてやればいい」
「うん」
薄い返事をしてくる。
そして、俺の隣で先程俺が読んでいた物を、アリアがいつの間にか読んでいた。
その表情は真剣そのもの。
初めてかもしれない。アリアのこんな真剣な顔。
この羊皮紙に書かれていることは、アリアにとっては見逃せない事情なのかもしれない。
「ルトガア様……」
戦神の名前をアリアは呟く。
そんな姿をみて、俺はアリアの手から羊皮紙を奪い取る。
「あ!? 返してください!」
「これはアリアのじゃないだろ。あと、アリアも気負いするな」
「え?」
「アリアは優しいから、色々考えてしまうだろうけど。お前は気にすることはないし、何より気にする方が間違い。これはこの町の問題だ。帝都にいたアリアでは何も出来なくて当り前」
「わかってます。でも! ルトガア様が戦に出られたのは争いが続いていたから、私たちが早く決着をつけていれば」
確かにそうだろう。この羊皮紙に書いてある通り。ルトガアが家族と一緒にいれば、レオーネの脅威から家族を守れていたかもしれない。
しかし、今更そんな事を考えても無駄だ。何よりレオーネの家族が殺されたのは11年前だ。その頃はアリアもメアリーもまだ子供。
だから、もしあの時戦いが終わていればと考えるのは当時の王様だろう。その人も今はもう亡くなっているが。
「それは当時の人たちが考えること。当時はまだ親に甘えたい年頃だったアリアが考えることじゃない」
「そうですね……。わかってます」
アリアは暗い表情になる。
困ったな。折角サナエが元気を取り戻したのに、今度はアリアが元気をなくしてしまった。
どうしていいのかわからなかったので、とりあえず頭を撫でる事にした。
「カエデ様?」
「さっきサナエ撫でてるとき。羨ましそうに見てただろ? だから、今回は特別だ」
「あ、ありがとうございます」
アリアは気持ちよさそうに目を細め微笑んでいる。
「アリアはココナの親友だからな……このくらいどうってことはない」
「え……」
俺の言った言葉にアリアは目を見開く。
先程まで嬉しそうだった表情は徐々になくなり、無表情へと変化した。
「ん? どうかしたのか?」
「いえ、もう大丈夫です。満足しましたから」
そう言って、頭にのせている手を持ち下へと下ろす。
そして、上目使いでこちらを見てくる。その時の瞳がとても悲しそうだった。
「ねぇ」
「なんだ?」
「ココナって?」
「あー」
俺はサナエにココナについて話した。
サナエは最初から最後までまるで一言一句聞き逃さない様に聞き入っていた。
ココナの話が終わる頃にサナエは一つ息を吐く。
「そう……だったんだ」
ココナの話を終えると、サナエは少し目を目を伏せて見るからにしんみりとした雰囲気を醸し出していた。
「色々あったんだね。カエデ君も」
「まぁ……な」
辺りもしんみりした雰囲気が流れ始めた時、バッとサナエは顔を上げる。前髪がその際に揺れた。
俺の瞳を見据える。そのサナエの瞳は真剣そのものだ。
そんな瞳で見据えられるとこちらも戸惑ってしまい、思わず目を逸らしてしまいそうになるが、その前にサナエが口を開いた。
「わたし!」
突然大きな声を出す。
「わたし! カエデ君を置いて死んだりしないから!」
などと言い始めた。
「そうか……なら約束な?」
「うん」
そして、俺は小指を差し出す。
そしてサナエも小指を絡めてくる。上下にお互いの手を振りお決まりの言葉を言う。最後に指切った、で終わらす。
「じゃあ。もし嘘ついたら針千本絶対に飲ますからな?」
「うん。わかった。でも、カエデ君の方が先に死んだら、カエデ君も飲んでもらうからね?」
俺も飲むのか……。まぁ良いか。
「わかった。その時は針千本飲んでやる」
お互いに笑い合う。
なんだろうな、この懐かしさ……。まるでずっと前にもこういうやり取りをしたような感じだ。
もちろん、俺は現代でもこの世界でもそんなことをした記憶はない。でも、懐かしく心地いのだ。ずっと他愛のない会話をしていたいと思えるほどに。
「もう! お二人とも楽しそうでずるいです!」
「あはは。ごめんねアリアちゃん。でも、アリアちゃんもわたしたちより先に行っちゃダメだよ?」
「はい! もちろんです!」
その力強い返事に俺とサナエは微笑む。
☆☆☆
あれから3日が経過した。
3日しか経っていなかったが、少し色々な事があった。
一つはユミルさんの葬式。遺体は既にあの仮面の男によって灰にされている存在しないが、それでも彼の死を弔った。
俺はユミルさんを知らなかったが、彼はこの町では良心的人間で通っていたようだ。
そんな彼の死を悲しむ人は多く、涙を流す人が多く見受けられた。サナエもその中の一人だ。
葬式が終わった後、サナエはこう言っていた。「ユミルさんを殺した人は絶対に許さない」と。その瞳は怒りに満ちていたのを覚えている。
次に、この町の町長の元を訪れて、ルトガアの家族の事を聞いた。
最初は町長もとぼけていたが、サナエの鋭い目と殺気に(刀を突きつけるおまけ付)で白状した。
そして、ルトガアの家族を差し出した事の罪悪感を全く抱いていない事を知った。サナエがついにキレて町長に襲い掛かったが、俺が阻止し、そして、ルトガアがこの町を恨んでいることを伝え、いつ滅ぼされても良いよう準備しておくようにと吐き捨てて、町長の家を後にした。アリアにはサナエの家で待っててもらっていた。
そして現在はついに旅を再開する準備が整ったところだ。
「持っていくものはそれだけでいいのか?」
「うん。特に問題ないよ。これから長い旅になるんだから、あまり荷物多くは持ちたくない」
納得のいく回答だ。俺も同じような立場なら荷物は多くは持ちたくない。
特に持っていく必要のある物と言えば、水、食料、お金くらいだろう。
それ以外は特に必要ない。あ。でも替えの下着とか服はいるかもしれないな。
だが、それも2、3枚でいいだろう。それ以上多くするとかさばる。
「それじゃ、行くか」
「うんレッツゴー!!」
「レッツゴー!」
サナエの合図にアリアも便乗する。
そんな微笑ましい姉妹のような光景をみて、俺は、いや俺達は歩きだす。
目的地は――魔女や魔法使いがのみが住む町だ。




