18話 師弟のけじめ
何かの話し合いをしている三人を眺めていると、突然セリアが魔法銃を構える。
そして、木々が生い茂っている森に向けて、撃つ――
その弾は見えなかった。
普通に撃ったくらいなら、俺は見えるのだが、今のが全く見えなかったとなると何か特殊なモノだろう。
そして、セリアが撃ってから少しして、奥から悲鳴が聞こえる。
「何か居ましたか?」
「ええ、というか、君は気が付いていたでしょ?」
「ええ、もちろんですよ。隠れてこそこそと、こちらを見ているのは気が付いていました」
「だったら、なんとかしてほしかったんだけどね」
セリアは呆れた声を出しながら、仮面の男にそう言い放つ。
「嫌ですよ。正直もう無駄な魔力は使いたくなので」
「無駄な魔力って、なら最初からルトガアさんをこっちに来させれば良かったじゃない」
「フフフ、それはちょっと面白くないじゃないですか。折角なんですからもっと面白くしないと」
セリアは大きなため息を吐いて、口を動かす。
「それで、やられそうになってたら世話ないと思うよ?」
「僕がですか? そんなわけないじゃないですか。僕は苦戦などしていません」
「遠くから見えたけど、結構苦労してなかった? それにやっと来ましたかなんて言っちゃて」
しばらくお互いを見つめ合う二人。そして仮面の男がくぐもった声を出す。
「はぁ……わかりました。白状しますよ。確かに僕は苦戦しました。しかしそれは魔力を半分しかなかったからです」
「言い訳しちゃってぇー、まぁでも本来の君ならもう少し粘れたろうね」
先程から2人はなんの話をしているのだろうか? 魔力が半分だったからとか。
魔力が本当に半分しかないのならかなりの疲労感が出ている筈だ、しかし、この男からは全くそんな気配は感じられない。
「ん? どうかした? こっちそんなに見て、もしかしておねさんに見とれちゃったかな?」
「流石にそれはないでしょ?」
「ちょっと!? それどういうこと? 喧嘩売ってるの」
セリアから黒いオーラが出ているのがわかる。これは否定したら戦いが今にも始まりそうな雰囲気だ。
触らぬ神に祟り無し。俺は何もコメントしないことにした。
「まさか……格下なんかに喧嘩は売りませんよ」
その発言が既に喧嘩を売っているように思えるのは、俺の気のせいなのだろうか?
「君の考えはよーっくわかった。なら今ここで格下かどうか確認する?」
「やめておきましょう。ここで本気で僕たちがやり合えば周辺は焼け野原になります。そうなればーーーー」
仮面の男は顔を動かし、ルトガアの方を向く。それに釣られるように、セリアも向き。「あー」と声をだした。
「仕方ないか。ここはルトガアさんの目的の1つだもんね」
「ええ、流石の僕もあの人を相手に勝てるとは思いませんので」
言い終わると同時に空を仰ぐ。
「そろそろ、時間ですね」
「あ。本当だ。じゃあね黒の剣聖」
セリアは俺に手を振りながら森の中へ歩いていく。
そして、仮面の男も歩き出そうとして、停止する。踵を返しこちらに振り向くと声を発した。
「いずれ、近いうちにまた会える気がします。その時は存分にやり合いましょう……黒の剣聖ーーーーカミシロカエデ」
強い殺気をぶつけられる。それが威嚇だと頭では分かっている、分かっているのだが咄嗟に刀を抜いてしまいそうになった。
「…………まだまだ、ですね」
そう吐き捨てるように言って歩いていく。
彼の殺気から解放された俺は安堵の溜息を吐く。
次本当に出会えば問答無用で殺し合いになるだろう。あの仮面の男の今までの行動を見てそう思わざるおえない。
「カエデ君。ごめんちょっとどいてくれる?」
突如背後から声がかけられた、肩を思わず震わせて、振り返る。
するとそこには、サナエが立っていた。
仮面の男に集中しすぎて、背後に立たれているのに気がつかなかった…………。クソっ! これは失態だ。
そう自分を咎めながらも、サナエに言われた通りに、横に移動してサナエの前を空ける。そして、ゆっくりと歩いて行く。
その行き先はただ一つ。ルトガアのもとに向かっているのだ。
「なんだ?」
「一つお願いを聞いてもらえないでしょうか」
ルトガアはしばらくサナエを見つめたあと、喉を鳴らし口を動かす。
「良いだろう。俺に叶えられるモノなら叶えてやる」
その言葉を聞き、サナエは真剣な面持ちになり。頭を下げる。
「戦神ルトガア師匠。どうか、最後にわたしと勝負をしてください」
一瞬の静寂。
音をたてずに吹く風がサナエの前髪を揺らす。
それを見据えていたルトガアが、自らが持つ薙刀を上に掲げクルクルと回し始める。
静かだった風がその薙刀が引き起こす強風に呑まれる。
数回頭上で回して地面に叩きつける。
衝撃が地面に走り、地震と錯覚するほどの揺れを起こす。
「承知した。さぁこい! ヒダの町の天才剣士ーーサナエ!」
うっ……。なんだ。先ほどの仮面の男の殺気は鋭いものだったが。ルトガアの殺気は重い。まるで上から重いもので押しつぶされるような感覚だ。
「あはは……久々だよ師匠の殺気……。すごく重くて痛い。あの獅子に付けられた傷なんかよりずっと痛い」
ルトガアは独白のように呟くサナエを見据え続ける。
「師匠は師匠じゃなくなる。そんな気がするです。だからーー参ります」
あぁ……これはサナエ自身のけじめでもあるのかもしれないな。今までお世話になった師匠に対しての。
ルトガアはこれからリリーと行動を共にするだろう。そして、もう出会うことはないかもしれない可能性がある。
そういった意味でも、今が師匠に自分の成長を見せるには最後のチャンスとなるだろう。
「来い!」
ルトガアは叫ぶ、それが合図というように、サナエの姿が消えた。
速い――
「サナエ……やはりお前は天才だ」
ルトガアがそう呟くのが聞こえた。
そして、その意味も理解できる。今のサナエはこの土壇場で超えたのだ――自らの壁を。
俺がサナエの動きを見えないのがその証拠。
彼女の最速は俺も完全に目に追えるわけではない。しかし、それでも薄っすらとはみえていたのだ。
しかし今のサナエが動いたとき見えなくなった。
つまり、今までの最速を超える速度を出したという事だ。
また一歩サナエに突き離されたようだ。
腰を屈め薙刀を構える。
その時点で俺は悟る。この戦いの決着はルトガアの勝利で終わると。
だが、俺は目を離さない。
俺はこの二人の決着を見届ける義務があるのだ。
そして心の中で応援する。
サナエ頑張れ、と。
「強くなったな。サナエ」
戦神ルトガア・ヴェルデは薙刀を振るう。瞬間――サナエが現れ、そのまま後ろに吹き飛ばされる。
それを見届けた俺はこれで決着と判断。
すぐさまサナエの着地地点に先回りしてキャッチする。
良かった。気を失っているだけの様だ。
安堵に笑顔を浮かべていると、ルトガアが近づいてきた。
その二メートルはある巨体が、目の前で止まると俺達を見下ろす。
「カエデ」
「なんだ?」
「サナエを頼めるか?」
この人もか――
俺はサナエを見る。
傷だらけで、痛々しいものだが気を失っているその顔は、何かを成し遂げたように満足げな顔だった。
「アンタもそう言うんだな」
「何?」
俺は一瞬言うべきか悩むが、口止めをされている訳ではないため、話す事に決めた。
「俺の師匠もリリーを頼むって言ってきてな」
「お前の師匠……アイツも可能性を見出したというわけか」
「可能性?」
「いや、なんでもない。まぁアイツと同じ台詞を吐くことになるのは癪だが、頼めるか?」
瞑目する。
そしてサナエの利用価値を考える。
いまだ俺は剣の腕に関しては全然だ。リリーにもモニカにも勝てないだろう。
そしてサナエは先ほど壁を越えてみせた。彼女はまだまだ強くなる。
俺にはない物を全てサナエは持っている。俺が次の段階に踏み込むための物をすべてだ――
「わかった。俺より強いから逆に守られそうだが」
「済まない。助かる」
そしてルトガアは踵を返し、歩いて行こうとする。
「そうだ」
だが、突然足を止めると、こちらに振り向く。
「一つお前に教えておく」
一拍置き、ルトガアは喉を鳴らす。
「カエデ。お前はすでに次の段階へ踏み込める筈だ。だが、今の状態では次にはいけない。良く自分を見つめ直す事だ」
それだけ言うと、ルトガアは再び歩き出す。今度は止まることをせず森の中へ消えていった。
今の言葉どういう事だろうか? 俺は既に次の段階に踏み込める?
ルトガアの言っている意味が理解できない。
しかし、何故だろうか? その言葉は俺に深く、深く突き刺さり。胸に刻み付けて行った。




