17話 スカーレット王国
ここはスカーレット王国にあるスカーレット城の玉座である。
そして、玉座に置かれている椅子には一人の紫の髪の少女が居た。そしてその隣には、執事服を着た金髪のオールバックの男性が立っている。
少女は頬杖をしながら、自らの目の前にいる、拘束されてひざまついている男性を眺めていた。
「さて……何か言う事はあるかしら?」
「死ね。クソ女王」
「…………随分と無粋で幼稚な言葉ね。でもいいわ、今回は見逃してあげる。だからお逃げなさい」
「慈悲など受けない。さっさと殺せ!」
男は目の前の少女を殺しに来た暗殺者だった。
そして少女はそんな彼を見逃すと言った。しかし、暗殺者である彼にもプライドがある。慈悲で見逃されるのはそのプライドに傷がつく。だからこそ彼は吠えたのだ。「殺せ」と。
「貴方は何か勘違いしてないかしら?」
「何?」
自らを殺せと言った彼を、見下し、あざ笑いながら、王女は口を開く。
「これは慈悲じゃない。命令よ?」
「めいれい……だと?」
「そう。命令。私を殺そうとしたことに目を瞑ってあげるから、逃げなさいって命令」
その言葉に男の堪忍袋の緒が切れる。
「スカーレット王女! 貴様はどこまで人を見下せば気が済むのだ!」
「……うるさいわね。私以外の人なんて皆手足も同然よ? いいからさっさと逃げなさい――」
そして彼女は顎で動かし何かを指示したのか、横にいたはずの男はいつの間にか、拘束された男の後ろにいた。
執事の男が後ろに現れると同時に、彼の拘束が解かれる。
「さぁ、拘束も解いてあげたのだから、行きなさい。これ以上の命令違反は『死』よ?」
「――ふざけるなぁ!」
男は立ち上がり、王女に襲い掛かる。
しかし王女は動じた様子もなく頬杖をついたままだ。
そして男が王女の目の前まで来て、動きが突如止まる。
王女はまるでそれがわかっていたかのように、口を開いた。
「私……言ったわよね? これ以上の命令違反は死だって」
彼女がその言葉を言い終わると同時に、暗殺者の首が横にズレていく。
そして、そのまま、首が落ちて床を転がっていく。
「王女様……あまりお戯れは」
王女は目だけ動かし、右側を見る。
するとそこには赤い色のエプロンドレスを着ている女性がいた。
「あら、良いじゃない? 今日は本当に面白い物が見れたのだから」
「王女様。よろしかったのですか?」
「何をかしら」
彼女は執事の言葉の意味を理解している。理解しているがあえて、聞いたのだ。
「魔王の幹部である。タイガーは殺しましたが、他にネズミ――いえ、鳥がいましたが見逃してもよろしかったのですか?」
そう――彼らは気が付いていたのだ。
エグルの気配に、そして、あえてそれを見逃したのだ。
「あぁ……別にいいのよ。タイガー、あの魔族は中々私を楽しませる余興だった。だから特別に見逃してあげたの。まぁもしあの鳥も攻撃を仕掛けてくれば、別だったけどね」
「しかし、何故、アイツは攻撃してこなかったのでしょう?」
発言するのは赤いエプロンドレスの女性だ。
「うーん。彼自身が実力差を理解しているのもあるんでしょうけど、誰かに止められたとみるのが、正しいかもしれないわね」
「誰かに……」
一瞬の静寂が玉座に訪れる。
しかし、その静寂はすぐにかき消された。扉の音と共に――
「失礼します! スカーレット王女。ご報告があります」
一人の赤き鎧の兵士だやって来た。
「何かしら?」
「黒の剣聖の素顔が判明しました!」
まるで、ずっと待ちわびていたおもちゃがやって来たかの様な表情を彼女はする。
「そう……それで、どんな素顔なのかしら?」
「は! こちらです」
兵士は女王に近づき、丸い鏡を見せる。
そこには数名の人物が映っていた。
一人は、あちこちが傷だらけで瀕死の少女。
もう一人は仮面を被り、素顔を隠しているが、後ろの長い髪が特徴の人物。
そして、二丁の魔法銃を持つ女性に、二メートルはある大男。
最後に――黒き衣服をまとい、そしてその目はどこか遠くを見ているような感じを漂わせている少年。
それを見て王女はすぐに悟る。
彼こそが黒の剣聖だと――
しばらく眺めていると。二丁の魔法銃を持つ女性がこちらに向く。
おそらく気が付かれたのだろう。
そして、女性はこちらに、いや――この状況を映していた密偵に魔法銃を向け放つ。
その後。映像が途絶えた。
「あら死んじゃったみたいね」
「……」
「どうしたのかしら?」
「いえ、今映っていた中に知り合いがいたのもので」
「あぁ……戦神ルトガアの事ね」
「知っていらしたのですね」
「私に知らない事はないわ」
「そうですね」
女王は何も映っていない鏡を眺めている。
ジッと眺めてから瞑目する。
「出来れば、戦神ルトガアも私の物にしたかったのだけど、リリーとかいう子に取られてしまったのは不覚だったわ」
「王女様。彼女は……」
「わかっているわよ。魔王と相打ちになった英雄。剣聖ノラン・ネフティアの娘でしょ?」
「はい。そしてその母親も只者ではありません。こういっては何ですが、彼女はあと十年すれば、オレ――失礼しました。私を超える存在になります」
その言葉を聞き薄く女王は笑う。
そして、手に持っている鏡を放りだすと。玉座から立ち上がり歩き出す。
目の前の首のない死体をモノともせず、そして服が汚れる事も気にした様子もなく、血だまりを一歩一歩歩む。
そして、中央に来たあたりで歩みを止めて短いポニーテールを揺らし振り返る。
その瞳は狂気に染まり、見るものを震え上がらすほどの笑みを自らの従者に向ける。
「十年……でしょ?」
「……」
「十年たったら貴方を超えると言うだけで、今現在はまだ貴方の方が上。なら何も問題ないわ」
執事が言いたかったこと。それはリリーは強い。だから手は簡単に出せない。そう遠回しに言っていたのだ。
そして女王は大げさに両手を広げ、喉を鳴らした。
「さぁ『雷帝』と呼ばれしわが従者よ。私の名を言ってみなさい」
「はい。貴女様はクリステラ・スカーレット。このスカーレット王国の女王にして、いずれ世界を支配する者です」
「そう……私はクリステラ・スカーレット。そして私は欲しい物は絶対に手に入れる」
絶対の部分を強調して声にだす。
クリステラ・スカーレットは心の底から楽しそうに微笑み。雷帝に向かって言葉を発する。
「私……黒の剣聖がとても欲しいわ」
一瞬の静寂――そして、その場にいた数名がほぼ同時に足を揃え、頭を下げる。
「かしこまりました。二週間以内にはスカーレット様の前にお連れします」
「ええ、頼んだわよ? 雷帝――ニコラ・グローム」
主の命令を聞き入れ、ニコラはその場から移動する。
これからスカーレット王国は『黒の剣聖』上代楓を捕まえに行く作戦を立てるのだろう。
「王女様」
「あら、何かしら?」
「私はわかりません。何故黒の剣聖が欲しいのですか?」
「最近名前を聞くようになったから気にはなっていたけど。実際に彼を見て欲しくなったの」
「何故です?」
「うん? 欲しくなった理由?」
「はい」
「彼は――この世界の人間じゃないからよ。あぁ早く私の元に来ないかしらぁ」
狂気の目を輝かせ、自身の手足である従者が上代楓を連れてくることを想像して、彼女は楽しそうに笑う
そして、その彼女の笑い声が玉座に響き反響する。




