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転生黙示録  作者: 水色つばさ
3章 ヒダの町の天才剣士
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16話 休戦

「タイミングが良すぎるな。何かあったのか?」

「リリー本人に聞いてくれ」


 そう言って一つの手鏡みたいなのを渡す。

  そして、ルトガアがそれを覗くと。

 

『お久しぶりですね。ルトガアさん』


 その手鏡からリリーの声が聞こえてきた。

 

「リリー何の用だ? 俺は今忙しいのだが?」

『レオーネとの戦いをやめて、一旦私たちと合流してください』

「何? どういう事だ!」

『それはこちらと合流してからという事で、あぁ、それと安心してください。向こうの方が襲ってくることないよう、話は通してありますので』

「何?」


 目線を手鏡からレオーネの方へ向ける。

  そしてそれに釣られるように、俺もサナエもレオーネの方を見る。

 

「なんだと! どういうことだ! エグル!」


 何故かレオーネはルトガアが持つ手鏡と同じものを持っていて、それに叫んでいる。

  おそらく、あちらの手鏡にはエグルが映っているのだろう。

 

『そんなに大声で喋らなくても聞こえていますよ。ですから、一旦帰還してください』

「だから、その理由を聞いているんだ!」

『はぁ……レオーネ、では心して聞いてくださいね?』

「あぁなんだ?」

『スカーレット王国を攻めにいった幹部が殺されました』

「なッ!?」


 薄っすらとエグルの声が聞こえてきたが、スカーレット王国だと?

  確かそれは、帝国の隣にある。王国だったよな?

  独裁政治で民を支配しているという。

 

「どういう事だ! 確かそこに向かったのは!」

『ええ、タイガーです。貴方と肩を並べるほどの実力者ですね』


 レオーネは拳を強く握る。

  そして、まるで信じられない物でも見たような表情をしていた。

 

「証拠はあるのか? タイガーが死んだという」

『残念ながら、あります』

「それはどんな証拠だ」

『今私が見ているんですよ。スカーレット王国の広場で晒し首にされている、彼の頭を』

「なん……だと」

『これでわかりましたよね? さぁ撤退してください』

「なら――」

『はい?』

「なら尚更この任務遂行しなければいけないだろう! 何故、撤退なんだ!」

『……そちらに戦神がいらっしゃいますね?』

「あぁ」

『今回、タイガーを殺したのは戦神と同格の者と予測されます。これだけ言えばもうわかりますね?』


 レオーネは歯ぎしりをして握りこぶしから血が垂れている。

  何故この距離でエグルの声が薄っすら聞こえるのか謎だが、どうやら今のエグルのはこう言っているのだろう。「戦神と同格の者がお前と肩を並べるほどの幹部の一人を殺した。つまり、お前も殺されるぞ」と。

  レオーネもそれは理解しているだろう。このまま戦っても戦神ルトガアには勝てないと。

  しかし、それでも彼は何かしらのプライドがあるのか、撤退することを拒否し続けている。

 

「俺と……同格、か」

「おや? ルトガアは何か心当たりでもあるんですか?」

「一応、な」


 ルトガアと同格となれば、俺の知る限り。ゼル師匠しか知らないな。

  でもあの人はあそこから動かないだろうし、他に誰が居るのか気になる。

 

「なぁエグル。タイガーを殺した奴は誰だ?」

『私は知りません。しかし、もしかしたら、私の()()()にいる。リリー・ネフティアなら知っているかもしれませんね』

「なんだと!」


 その言葉にレオーネこちらに視線を向ける。

  そしてルトガアも手鏡に視線を向けた。

 

「リリー! お前エグルの近くに居るのか!」

『はい。おそらくそちらにエグルさんの声が聞こえていたと思いますが、その理由は私が近くにいて、この鏡が声を拾っているからですよ』


  この場にいる、ルトガアと俺とサナエは驚きの顔になる。

  しかし、仮面の男とセシルは驚いた様子はないことから。知っていたのだろう。

 

『レオーネ』

「なんだ?」

『彼女に、タイガーを殺した奴を教えていただくための条件が、その場からの撤退なんですよ』


 レオーネは歯ぎしりをする。

  そしてしばらくの瞑目後。口を開いた。

 

「わかった」

『ありがとうございます。レオーネ』

『フフフ。交渉成立ですね。ではお教えしましょう。貴方達の幹部の一人を殺したのは、私の祖父『真の剣聖』ではなく。『雷帝』です』


 その言葉を聞いたルトガアの眉がピクリと動く。

 

「雷帝……か。どこに行ったかと思っていたが、まさかスカーレット王国にいたとはな」

『ええ、私も驚きました。ですが、スカーレット王国を支配しているのは女王……つまり雷帝ではないですから。雷帝を従えさせている女王に、個人的には興味があります』

「だがな。リリーお前忘れてないよな? 俺は家族の仇を討つために、お前の仲間になったという事を?」

『ええ、もちろん忘れていませんよ? ですが、今目の前に居るからって焦ってはいけません』

「ふざけるな! 今殺さずして、いつ仇が取れる!」


 鬼の形相で怒鳴る。

  あのレオーネという魔族が、ルトガアの家族の仇なのは聞いていてわかった。

  その仇が目の前にいるのに、そしてすぐにでも殺す事できるはずなのに、何故見逃さなければいけないのだろうか? そんな事を思うのは理解できる。

  むしろリリーは何を思って見逃せと言っているのか……。

 

『これはリーダー命令です』

「従えないな。約束が違う。お前が自ら約束を破るなら、俺はお前には従わない」

『いくらルトガアさんだからって。怒りますよ?』

「お前に何ができる? ただの小娘が」

『ええ、私一人では貴方に勝てません。しかし、メンバー全員ならどうですか?』

「何?」


 ルトガアはセリアと仮面の男を見る。

  そして気が付く。二人が武器を構えていることに、その武器を向けている先がルトガアである。

  様子を見ていた俺は全く状況に追いつけていない。

  何故だ、何故アイツらはルトガアに武器を向けている? そして、何故ルトガアも二人に殺気をぶつけている?

  仲間であるはずの三者が、今にも戦闘が始まりそうな緊迫感が漂っていた。

 

『いくらルトガアさんでも、私を相手にしながら、メンバー全員相手できますか?』

「……ならば、いまここで俺がこいつらを殺せばいい話だろ?」

『そうなれば、本当に私と貴方は手を切らなければいけませんね。そうなれば、あの魔族を殺す事は叶いませんよ? 私が殺しますから』

「……」

『私無しで魔族を探せますかね? 探したら何年かかりますかね?』


 リリーの怒涛の言葉攻め。

  そのたびにルトガアの表情が変わっていくのがわかる。

  怒りの表情から、自らの弱さを理解して悔しいそんな表情だ。

  この場合の『弱さ』とは自らの情報能力の事だ。

  ルトガアは理解しているのだろう。リリーの力無しで、魔族に……レオーネにたどり着けないと。

  そして、今目の前にはレオーネはいる。いるのだが、レオーネを攻撃しようとすれば、仮面の男とセリアが妨害される。

  ルトガアなら彼ら二人相手であろうと倒す事はできるだろう。

  しかしそれでも彼らは実力は相当なものだ。

  そんな彼らを一瞬で倒せるかと言われれば、ルトガアでもそれは難しい。いや――不可能なのだろう。

  今ルトガアは思い留まっているのだから。

 

「わかった。だが、今回だけだ。次奴と対面すれば今度こそ殺す」

『ご理解いただけて感謝します。それと、ルトガアさんカエデさんに変わってくれますか?』


 そんな声が聞こえると、俺に手鏡を渡してくる。

  それを受け取ると、俺は鏡をのぞき込む。

  すると、そこには案の定リリーの顔が映っている。そして、彼女の後ろにモニカがいるのも確認できた。

 

『カエデさんお久しぶりですね』

「お前はどこにでも現れるな」

『それはこちらの台詞ですよ? 私達の行く先々で貴方はいます。もしかしてら、これも()()なのかもしれないですね』

「何が言いたい?」

『改めて言います。私達の仲間になりませんか?』


 オルレットの町でも言われた台詞――

  あの時は俺は断った。しかし今の俺はどうだろうか?

  少し考える。

  そして静かに口を動かし、喉を鳴らす。

 

「アリアはどうなる?」

『はい?』

「アリアやサナエはどうなる?」

『ふむ……なるほど。そういう事ですか。残念ながら、彼女達は仲間にはできません』


 俺は瞑目する。

  アリアはメアリーに言われて俺が守らなければいけない。そして俺個人的な気持ちもある。

  サナエも俺のもう一人の剣の師匠でもある。年は俺より下なのはびっくりしたが、それでも彼女の方が俺より『刀』という武器の扱いは慣れている。

  彼女と別れるのは惜しい『力』だ。

  そうなれば、俺が出す答えはこの二つの考えで決まった。

 

「なら、お前とはいけない」

『そうですか。残念です』


 鏡の中でリリーは微笑む。

  初めてあった時のような笑顔だ。

  その笑顔に寒気を覚え、手鏡をルトガアに差し出す。

 

「もういいのか?」

「あぁ」

「そうか……」


 その言葉を発した後、ルトガアはレオーネの方を見る。

 

「行け。リリーに感謝するんだな。今貴様が俺の目の前に居ながら生きていられるのは、リリーのおかげなのだから」

「戦神。お前の命は俺が絶対にもらい受ける」


 一言そう言い。軍服を揺らしながら踵を返す。

  そして、横にいたミノタウロスは俺に視線を向けていた。

 

「小僧。今回は不覚を取ったが、次は殺す。そこの仮面の奴もだ」

「フフフ……楽しみにしていますよ?」


 そう言って魔族や魔物達は謎のゲートを開きその中に入っていった。

  おそらく、帰還したのだろう。

 そして、先ほどのミノタウロスの発言はどうやら、俺と隣に立っているこいつに向かっての宣戦布告のようだ。

  ミノタウロス……アイツあれだけの傷を負いながら、尚も立ち上がった魔物――

  魔族だけでなく、魔物の中にもあれほどの力を持つ者が居るのは誤算だ。

  そして幹部レオーネ。奴は今の俺が手を伸ばしても、背伸びをしても届かない程遠くの存在だ。

  俺が殺さなければいけない存在なのに、そいつがこれほど遠いとは……。

  魔力を纏う方法……これを学ばなければいけないかもしれない。

  そして、この『ムラマサ』とも向き合わなければ――

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