14話 到着――最強の男
「ふむ。ここまで、ですかね」
「え?」
俺とサナエは突如真横から声が聞こえ、そちらに振り向く。
するとそこにはユミルさんが立っていた。
「ユミル……さん?」
「ん? お前いつからそこに居た?」
「さぁ……いつからだと思いますか?」
質問を質問で返すユミルさん。
その態度にレオーネは少し眉を動かした。
「質問を質問で返すとはな。礼儀がなってないんじゃないか?」
「魔族風情に礼儀など要りますか?」
その言葉が引き金だった。
後ろに控えていた、ミノタウロスが突如立ち上がり、ユミルさんに突進する。
というか、アイツ足を斬られて動けないはずだ。何故動ける!?
「フフフ……」
ユミルさんは、静かに手を目元の高さまで上げる。
そしてその指は中指と親指がくっついていた。
「灰になるがいい」
「ッ!? ミノタウロス! そいつに近づくな!!」
「遅い」
パチンッ
ユミルさんは指を鳴らす。
するとミノタウロスの足元から、紫の炎の柱が立ち上がる。
「ガアァァァァァァァァァァ!!」
見事に炎に柱に包まれたミノタウロスはその場に膝をつく。
そして、斧で体を支える。
まだアイツは倒れないのか。敵でありながらその執念に賞賛を送る。
「ほお? 咄嗟に少ない魔力を防御にまわしましたか。やりますね」
「ハァハァハァハァハァ。何者だ……お前」
俺も、いや俺やサナエも気になっていたことを、ミノタウロスが代わりに言ってくれ。
「僕ですか? 名乗るほどの者でもないですよ」
紫色の炎……。
俺はそれを一度見たことがある。
そう、それは帝都でアランが生きる屍となったあの時。
リリーと一緒に居た胡散臭い占い師だ。
「もしかして、お前帝都でリリーと一緒にいたやつか?」
「おや? 覚えていたんですね。光栄ですよ黒の剣聖」
やはりそうだったのか。
しかし何故彼がここに?
そんな疑問を頭に浮かべていると、今までで一番の強大な殺気を感じ振り向く。
すると、その殺気の主はレオーネだった。
「なるほど。俺に殺気をぶつけて来たのはお前だな? そしてよくも俺の大切な部下を傷つけてくれたな?」
レオーネは怒っていた。自らの部下を傷つけられて。
「怖いですね。でもあなたの部下を傷つけたのは、彼も同じではないのですか?」
そう言い。俺を見る。
「あぁそうだ。俺はそいつも許さない。だが、お前はもっと許せないんだ!」
「なんとよくわからない事を……でも、良いですよ? 相手してあげます。いつもはリリーも一緒に居るので取られてしまうのですが、今はいない。久々に戦場で一番強い人と戦えそうです」
そう言いながら彼の手元から霧の様な物が出てくる。そして、その手に徐々に槍が姿を見せる。
「さぁ、始めましょうか? 魔王幹部最強のレオーネ!」
「おぉぉぉぉぉぉ!」
レオーネは地面を蹴る。
そして一瞬にしてユミルさんの目の前へと移動した。
速い――
サナエの縮地ほどではないが相当な速さだ。
レオーネは自らの手の爪を立て、ユミルさんを切り裂く。
しかし、切り裂かれたユミルさんは霧の様に散ってしまう。
「どこを狙っているのですか?」
「な!?」
いつの間にか、レオーネの後ろにいたユミルさん。
そしてそのまま、手に持っている槍で薙ぎ払う。
一瞬の出来事だったが、レオーネは後ろに跳び避ける。
「お前。リリーの名前をだしていたな?」
「ええ」
「それに、先ほどの炎の色……そして目の前にいたと思ったら後ろにいる。この不可思議な現象」
レオーネはユミルさんから目を離していない。
そして言葉を一つづつだして、頭を整理しているようだ。
「……まさか!? お前、姿は違うがリリーのそばにいたあの魔術師か!」
「おや。レオーネ、貴方と会ったのは結構前のはずなんですが、覚えていたんですね」
「当り前だろう。お前らに俺たちの仲間がどれだけやられたと思ってやがる!」
先ほどより更に怒りの顔へと変わり、ユミルに怒鳴る。
普通の人ならばその怒鳴りですくみ上るが、ユミルはニコニコと笑顔のままだ。
「あの時はびっくりしましたよ。まさか、リリーが幹部の一人を倒してしまうとは」
その言葉にレオーネは歯ぎしりをする。
「その時のリリーの言葉はよく覚えていますよ。まさか幹部が、こんなに弱いなんて拍子抜け。いやー本当に弱くてびっくりでしたよ」
「それ以上喋るな」
「あとは魔王軍の精鋭部隊でしたか? あの軍団も、全然たいした事無かったですしね」
レオーネの怒りのボルテージが上がっていくのが傍からでもわかるほどなのに、ユミルさん煽り続ける。
「黙れと言っている人間風情が!」
レオーネは再び地面を蹴り、ユミルさんに近づく。そしてそのまま攻撃を仕掛ける。
それをユミルさん槍で防ぐ。
そんな攻防が繰り返される。
一体どれほど繰り返していただろうか、そう思うほど長い攻防が続いていた。そこで俺は気が付く。
ユミルさんがの額に少し汗があることに。
余裕そうな顔をしているが、どうやら実力はレオーネのが上の様だ。
「どうした! まだまだくたばるには早いぞ」
レオーネはさらに攻撃速度を上げる。
「カエデ君」
突然、今まで無言だったサナエが語り掛けてくる。
「サナエどうした?」
「来るよ」
「何が?」
「この、ヒダの町――いや世界最強の一角が」
その言葉で俺は思い出す。
時間が来たのだ。
最強が到着する時間が。
「レオォォォォォォネ!」
響く怒声。
その場にいた者は全てそちらに向く。
そしてそこに立っていたのは二メートルはある大男。
そう――『戦神』ルトガアの到着だ。
「師匠……」
「ルトガア」
「やっと来ましたね」




