13話 魔王幹部レオーネ
「上!」
気が付いた時にはすでに遅し。
ガタイの大きい男性の真上から巨大な何かが降ってきて、轟音を響かせながら下にいた男性を踏み潰した。
そして、男性の血液と思われるものが辺りに飛び散る。
「な――」
「ん? 何かいたか?」
上から降って来たモノは軍服を羽織り獅子の姿をしていた。
そして自らの足の裏を見る。
そこには赤い色をした液体が大量についている。
「結構、強そうな気配していたから、跳んできたんだが、うっかり誰かを殺してしまったようだな」
その言葉と共に自らの口の端をあげて笑う。
俺はその姿を見るのは初めてだ。しかし一目でわかるこいつの強さが。
こいつは今の俺ではまだ届かない。
そう思った瞬間アリアを見る。
やはり連れてくるべきではなかった。わがままを言っても止めて宿へ残ってもらうべきだったんだ。
後悔先に立たず。いままさに、その言葉がぴったりな展開が俺を襲っている。
「カエデ君! アリアちゃんをお願い」
そう言うと。サナエは一気に魔族に近づくと斬りつけた。
だが――
「ん?」
魔族は紙一重でサナエの攻撃を避けた。
その後サナエの方をジッと見る。
「ほー、お前は強いな。なるほど一人はお前か」
そんな魔族の言葉を無視して、サナエは攻撃を続ける。右へ左へ、上へ下へ。
普通の一般人なら、その攻撃を避ける事は不可能なほどの斬撃。
サナエも初めから本気だ。
しかし魔族はそんなサナエの本気をいとも簡単に全て避けると。
一旦距離を取る。
「うーん? おかしいな」
獅子の姿をした魔族は怪訝な顔をする。
「レオーネさん!」
魔族の後ろから声が響いてくる。
その声に誘われるように魔族が振り向く。
「なんだ?」
「いきなり飛ぶんでびっくりしました」
ドスドスと大きな音を立てて、走って来る魔物が一体。
その魔物の姿はまるで猛牛の様な姿を模様していた。
そして俺はその魔物に見覚えがあった。もちろん会ったことなどは無い。しかし知っている。何故ならその魔物はまさしく――ゲームで有名なミノタウロスと同じ姿をしているのだから。
「すまないな。だが、俺を威嚇して来た奴がいるはずなんだ」
「レオーネさんを?」
「あぁ……だが、目の前の女は強いが違う」
「でしたら、あの後ろで小さな女を守っている男はどうですか?」
おそらくそれは俺の事だろう。
「流石だな。アイツも強いが――違う」
この二匹……俺とはまだ戦ってもいないのに俺の力量を見抜きやがった。
それほどまでの実力を持っているって事か。
「うーん。となると、もういませんよ? あとはゴミじゃないですか」
「そうなんだよ。だから俺も気になっている。あの殺気をぶつけてきたのが誰なのかってな」
殺気をぶつけてきた?
それはどういう事だ? 俺もサナエもそんな事はしていない。
かといって、自らの力を自負するわけではないが、このメンバーだと、俺やサナエと同格またはそれ以上の実力者なんていないはずだ。
俺達意外に誰かこの近くに居ると言う事だろうか?
「待て」
「ん?」
目の鋭い男性が魔物に話しかける。
「何だお前?」
「そこの少女と少年以外がゴミだと? 聞き捨てならないな」
どうやら、先ほどのミノタウロスの言葉に不満があるようだ。
「ま、待って!」
「君は黙っていてくれないか?」
サナエは男性を止めようとする。
しかし、男性は聞く耳を持たず語り続ける。
「君は確かに強い。だが、俺達だって今まで様々な人と戦って来たんだ。こんな魔物や魔族程度に負けはしない」
その言葉を聞くと、レオーネと呼ばれていた魔族は何かを堪える様に震える。
そして――
「あっははは!」
大口を開け。
手を顔に持っていき。
大声で笑いだす。
まるで面白い物を見たかの様に大きく、とても大きく笑う。
「な、何がおかしい!」
「いやー、悪いな。お前の言葉があまりにも面白くてな。そうか、そうか。お前は強いのか……ククッ」
いまだに笑いを堪えている。
それほどまでに、先ほどの言葉がおかしかったのだろうか?
そしてしばらくして収まって来たのか、目線を男性に戻す。
「そんな怖い顔するよ。わかった、ならお前の強さを見せてみろ。ミノタウロス」
「何でしょうか?」
「相手してやれ」
「わかりました」
そして身長4メートルはあると思われる巨体がレオーネの前に出る。
それと同時に後ろから、何体かの魔物の姿が見えてきた。
どうやら、この二体だけが独走していたようで、本隊は進軍速度を上げずに進めていたようだ。
「このミノタウロスに勝ってみろ。そしたらお前の強さを認めてやる」
「舐めやがって」
鋭い目の男は剣を構える。
ミノタウロスも先ほどから持っていた巨大な斧を構える。
そしてお互いが見合う。
レオーネはまるで結果がわかってると言いうように腕を組み。ニヤニヤとしていた。
正直この男性には申し訳ないが、彼が勝てるとは到底思えない。
しかし、ミノタウロスの実力を知るいい機会だ。
流石に瞬殺されるほど力の差はないはず。それなら、危なくなったところで助けに入ればいい。
最初はそんな風に思っていた。しかし、現実はそう甘くはなかった。
ミノタウロスは斧を振り上げると、一気に振り下ろす。
その瞬間、何故かユミルさんが足を滑らせて転ぶ。
ユミルさんが転んだと同時に何かが通り過ぎる感じがしたかと思うと、男性の持っていた剣の先が落ちると、時間差で男性の体と地面が縦に真っ二つになる。
「ひッ!?」
ユミルさんの足すれすれの場所が裂けている。
もし――もしユミルさんが転ばなければ、ユミルさんもミノタウロスの攻撃の犠牲者となっていただろう。
「ほらな? やっぱりゴミじゃないか」
ここまでか……ここまで実力差があると言うのか。
俺は奥歯を噛みしめる。
これは勝てない。あの男性も俺やサナエを除けばレオーネに踏み潰された奴と同じくらいの強さのはずだ。
そして、このチームでは実力者だったはずだ。
それがいとも簡単に殺された。
となれば、もう勝てる者はいない!
「アリア! 今すぐ逃げるんだ!」
「で、でもカエデ様が! サナエさんが!」
「無理だよ。アリアちゃん! このメンバーじゃ勝てない! せめて師匠が居ればひっくり返るけど、師匠の居るチームはわたし達の担当場所から一番遠い場所にいる」
その言葉でアリアは察したのだろう。
そう、この状況をひっくり返すにはルトガアの力だ必要。
ならば、アリアに町に戻ってもらい、伝令係りにこの事を伝えてもらうのが、今この状況での最善の一手だ。
「アリアお前なら今の話で何をするべきかわかるよな?」
アリアは顎を引く。
そして踵を返すと一直線に町に向かって走って行く。
「一人逃げましたがどうします?」
「追えるなら、追いたいところだが、目の前の二人が許してはくれなさそうだな」
刀を抜刀して俺は構える。
サナエも霞の構えを取り臨戦状態にする。
ミノタウロスとレオーネ。
俺とサナエ。
この二人と二匹がお互い見合う。
辺りにいる人も魔物も音一つ、指一本動かす気配はない。
風の音すらしない。
この場に居るのは、俺達だけのような錯覚を覚え始めた瞬間――サナエが動く。
「速いな」
縮地――サナエが得意としている、相手に一気に間合いを詰める技だ。
普通の人なら、この技を見ればサナエが瞬間移動した様に見えるだろう。
そう普通の人なら――。
しかし、レオーネは違った。
彼はサナエが自らに近づくと同時に、自らの爪でサナエを切り裂こうとする。
サナエはその場ですぐに止まる。
その瞬間にサナエの鼻先ギリギリをレオーネの爪が通り過ぎる。
額に汗を滴らせながら、サナエはレオーネを睨む。
「わたしの動きが見えていた?」
「あぁ一応な。そんなことより、小娘お前は速いな。オレはびっくりしたぞ」
「流石はレオーネさんですね」
「ミノタウロスお前は見えなかったのか?」
「いえ、そんな事は無いですが、流石にレオーネさんみたいに反撃するほどの余裕はないですね。防ぐのが精一杯だったと思います」
やはりこのミノタウロスも相当の実力の持ち主だ。
今のサナエの動きが見えるとは……。
「そうか……ミノタウロス」
「はい」
「俺はこの小娘と戦う。お前は向こうのやつをやれ」
「わかりました」
そう言い俺の方に視線を向けてくる。それから、巨体を揺らしながら静かに近づいてくる。
どうやら、俺の相手はこのミノタウロスのようだ。
俺は気を引き締め直す。
ミノタウロスは動きが鈍い分、強力な一撃を持っている。
それは先ほどの一撃を見るとわかるが、掠りでもすれば、それでゲームオーバー。つまりは『死』だ。
「悪いな小僧。死んでくれ」
そんな事を俺に向かって発すると同時に巨大な斧を振り下ろす。
横に大きく跳び回避する。
斧は地面に突き刺さる。
そして、一気に跳んだ時に開いた距離を詰める。
ミノタウロスの足を斬りつけようと試みるが、それは叶わなかった。
ミノタウロスが、地面に突き刺さった斧を地面に突き刺さったまま横に動かしてきたのだ。
地面を大きくえぐり激しい音を響かせて俺に向かってくる。
再び俺は跳躍。
こんどは横でなく後ろに跳ぶ。
「むちゃくちゃな力だな」
「流石にこれで死なれては拍子抜けだったが。ふむ、なかなかやるじゃないか」
ミノタウロスは口の端を上にあげる。
こいつ……戦いを楽しんでやがる。
奴の目は「やっとまともな奴に会えた」とそう言っている様にしか見えない。
こいつだけなのか、他の奴も同じなのかわからないが、相当な戦い好きのようだ。
仕方ない――『無我の境地』を使うか。
瞬間、頭がすっきりする。
余計な邪念が消え去り、周り全ての動きが手に取るようにわかる。
いくぞ――
「ん? な!?」
一気に近づきミノタウロスの腱を斬る。
俺のその動きに驚きの表情に染まっていくミノタウロス。
奴の驚きの顔は至極当然の事である。
何故なら俺が先ほど見せたのは――
「お前あの娘と同じ技が使えるのか!」
そう――俺はサナエの得意技である『縮地』を使ったのだ。
もちろん練度はサナエの方が圧倒時に上だ。
それに、この『縮地』は無我の境地の状態でないと使用はできない。
それに、今初めて使用したが、これは俺が連発できる技ではない。
体の負担が半端ではない。サナエはこの縮地を普段から利用しているのか?
改めてサナエの凄さが身に染みた。
「ミノタウロス」
突如後ろから自らの名前を呼ばれて、ビクリとして、後ろにゆっくりと振り向き自らの名前を呼んだ人物を見る。
「油断するなよ?」
「……はい」
たった一言。
そうたった一言言っただけなのに、ミノタウロスの目が変わる。
正直、余計な事をしてくれたものだ。
しかし、レオーネと戦っているサナエが息が上がっているのが見て取れる。
それに比べると、レオーネは呼吸は乱れていない。
それだけで、実力差がどれほどあるのか理解ができる。
息を静かに吐き頭の中を整理する。
アリアの足の速さを考えると町に到着するのに10分は掛かるだろう。
そこから伝令がルトガアに向かう。
馬を使う筈だ。それならば、3分掛かるか、掛からないくらいだろう。
だとするとルトガアも馬を使ってくれるはず。それでもこちらに到着するのに合計で、20分は掛かるか。
そして現在アリアが町に向かってから5分は立っている筈だ。
あと15分はレオーネとミノタウロスを相手にしないという事か。
他の人たちは別の魔物の相手をしてる。
いつ周りが戦い始めたのか、気が付かなかったのは不覚だったが。入ってきてもあの程度の魔物なら一瞬で始末できるだろう。
となると、やはり相手で厄介なのはレオーネとミノタウロスだけとなるだろう。
武器を構え直す
ミノタウロスの自らの武器を構え直す。
「小僧。今度こそ死んでもらうぞ」
来る――そう思った瞬間横に跳ぶ。
それと同時に斧が振り下ろされており、斧の刃が地面に着地すると同時に、地面に何かが走り抜ける。
斬撃波――
ミノタウロスの強力な一撃に軽度の地震が起こる。
それに足を奪われないように走りミノタウロスに近づく。
「それはこちらの台詞だ!」
俺は再びミノタウロスの足の腱を斬ろうとする。しかし、斧から手を離し裏拳を放つように体を回転させ攻撃してくる。
デカい図体のはずなのに、そんな事もできるのか!
驚きと困惑が混ざり合う。
だが、すぐに冷静さを取り戻し。次なる一手を考える。
足がダメなら次は腕だ。
足を狙い動けなくして、一気に攻め立てようと考えていたのだが、標的を腕に変える。
再びミノタウロスに近づく。
ミノタウロスは拳を振るってくる。
それを俺は紙一重で避けると、その突き出して来た拳を斬りつける。
「ぐぅ!」
腕を斬られたため、ミノタウロスの顔が苦痛に歪む。
だが、すぐに先程と同じ顔に戻し、空いていたもう一つの手で地面に刺さっている斧を抜き。その巨体を浮かし一旦距離を取る。
その際、着地で大きな音が出る。
「ちッ。この腕をやられたか」
自らの意思で、動かす事の出来ない腕を見ながらそう言う。
そして俺を睨みつけてくる。
「小僧ぅ!」
斧を片手で構え一気に突進してくる。
俺は焦らず、冷静にミノタウロスを見据える。
そしてミノタウロスが目の前まで来て斧を横に振る瞬間に、身を屈め奴の足元に近づき両足を斬る。
それと同時に、ミノタウロスが振るった斧の斬撃により木々が倒れる。
「クソ! 足が」
「これで……もうお前は終わりだな」
「何言っているんだ。まだ、終わってない。戦いはこれからだ!」
斧を杖に立ち上がろうと試みる。
「ハハハッ! 久々だ! こんなに追い込まれたのは。良いぞ小僧。もっとだ、もっと戦いを楽しもう!」
ミノタウロスは笑っていた。
自らが追い込まれているのが、わかっている筈なのに――だ。
だが、悪いがもう終わりなんだ。
この一撃で――
「な、なんだそれ……」
『ムラマサ』に意識を集中する。すると、刃の部分から黒紫のオーラが纏いだす。
「これで終わりだ」
刀を振り下ろそうとした瞬間――何かが俺の方に向かってくる気配を感じる。
しかし、俺はすぐに反応できず飛んできたモノと衝突してしまう。
そしてそのまま一緒に吹き飛ばされ、木に激突する。
「痛ッ」
「ご、ごめんカエデ君」
俺の方に飛んできたモノはサナエだった。
「な、サナエどうしたんだ!?」
「あはは。ちょっとしくじった」
サナエは額に血を流している。
そして、よく見ると服のあちこちが切り裂かれ、あちこち出血していた。
「ミノタウロス良くやった」
「レオーネさん」
「お前はもう休め」
「俺はまだ負けていません!」
「今の技食らっていたら、お前の体はバラバラだったぞ?」
「うッ!」
レオーネはミノタウロスにそれだけ言うと。軍服を揺らしながら俺達の元へ近づいてくる。
「小僧。よくミノタウロスをここまで追い込んだ。その働きを評価し、俺が相手してやろう」
俺を睨み殺気をぶつけてくる。
それだけでわかる。このレオーネの強さが。
しかし、今恐怖している場合ではない。
そう思うとサナエの腕を持ち一緒に立ち上がる。
「まだ、戦えるか?」
「よゆーよゆー」
そうサナエは言うが、すでに体はボロボロで体力も限界が近いのだろう。
「そういえば、まだ名乗っていなかったな。俺の名はレオーネ。魔王様の幹部の一人であり、魔王軍の総括を任されている」
やはりこいつもエグルと同じく魔王の幹部だったか。
エグルは戦闘向きではなかったが、このレオーネは間違いなく戦闘向きの魔族だ。
そして、何よりも俺を絶望に陥れる事がある。
こいつは先ほどまでサナエと戦っていたはずなのだ。だが、こいつは一切息を切らしておらず。それどころか無傷だ。
サナエと俺はほぼ互角か、サナエが少し上ぐらいだ。
だが、そんなサナエが傷一つつけられない相手なのに、俺で勝てるだろうか?
否――無理だ。
下唇を噛む。
アリアが行ってからどのくらい立ったのかわからない。だけど、まだよくて10分だろう。
これでは、全然ルトガアが間に合うはずがない。
万事休すだ。
俺はここで殺されるのか……。
「ふむ。ここまで、ですかね」
「え?」




