8話 疲れを癒す場所と言えば……?
サナエに言われ俺達は町を散歩している。
しかし、何故いきなり散歩なのだろうか?
そんな事が頭に浮かびながらも、俺は少し先を歩くサナエとアリアを見ていた。
何故かサナエは、俺には少し離れて歩くように言って来た。
意味がわからなかったが、特に断る理由もないしアリアと大切な話があるからっと言われたのだ。
しかも、女の子にとって大事な話だし、デリケートな話題だから。と言われてしまっては尚更断り辛くなった。
まぁ、何か盛り上がっているようだし、男が入るような話題じゃないんだろうが、一体どこに向かっているんだろうか?
さっきから、サナエは何か目的地を決めて、そこに一直線に向かっている様に見える。
「え!? 本当にやるんですか……?」
「うん。きっとびっくりすると思うよー」
「それはびっくりすると思いますが……恥ずかしいです」
「大丈夫、大丈夫。わたしも恥ずかしいし、お互い様だよ。それにわたしがリードするから」
離れているとはいえ、全く会話が聞こえないわけではなく、今みたいに会話が薄っすらと聞こえてくる事はある。
しかし、それは途切れ途切れだったりするので、さっぱり内容がわからない。
恥ずかしいとか、リードするとか言ってたが本当になんの話をしているのやら。
「なぁサナエ」
「んーなにー?」
「何処へ向かっているんだ?」
「え? 何が? わたし何処にも向かってないよ?」
「…………そうか、なら散歩なんだし、俺は自由に散歩してくる」
俺がそう言うと、二人は焦ったような顔をして、俺に近づいてきた。
「待って、待って、待って!」
「楓様、どうか待ってください。もう少しだけ私達の散歩にお付き合いください!」
サナエだけでなく、アリアまでもが止めに入るのは予想外だった。
しかし、二人とも必死だな。何があるというのだ……。
「ね! 楓君何も聞かずに着いてきて!」
「はい! 別に何か悪い事をしようというわけではないので!」
俺は少し考える。
確かにこの二人は何か悪い事をすることは無いと、思う。
だが――この反応からして、アリアは目的地を知っていると思っていいだろう。
それが、俺にとって納得がいかない。何故わざわざ俺を仲間外れにしているのか、しかも女の子にとってデリケートな話題とか言ってだ。
何も言わない俺をジッと二人は見てくる。その顔はいかないで、と言っている様に見える。
俺は深いため息をつくと口を動かす。
「わかった。何も聞かず着いていくよ」
その言葉に二人は満面の笑みを浮かべ、俺に抱きついてくる。
――――て。
「おい! は、離れろ!」
「あ……ごめんなさい」
「本当は嬉しいくせにー」
前言撤回してやろうかサナエ。
しかし、目的地を知らされずに案内されるのは、ココナを思い出す。
あの時のおかげで、アリアと出会えたんだよな。
懐かしさに少し微笑む。
そして、その時から数日してココナは死んだ。
ココナと仲良しだったアリア――彼女はココナを失った。
しかし、今はサナエという女の子と仲良くなっている。
サナエはココナとは違う。
しかし、雰囲気はサナエとココナは似ている部分がある。
特に人懐っこいところというか、ぐいぐいと来るところというか……そういうところが似ている。
☆☆☆
「ここだよ。楓君」
少し山に近いところに立っている大きい建物に来た。
外装からでもわかるが、立派で歴史を感じさせる雰囲気を醸し出している。
俺の世界の言葉を使うなら――
「老舗旅館みたいだな」
「そうだよー、ここは温泉が入れる場所!」
この世界にも温泉ってあったんだな。
しかし、温泉か……。
「ここなら、日々の特訓で疲れた体を癒すには持ってこいでしょ?」
サナエの言うとおりだな。
ここなら疲れを取るには持ってこいだ。
もしかしたら、俺に黙っていたのは驚かそうとしたからなのかな?
なら、さっきの態度は申しわない事をした。
「じゃあ中に入ろうか?」
「あぁ」
「はい」
俺達は建物の中に入る。
入って早々俺は圧倒される。
外から見たらとても古い様に思えたが、中はとてもきれいにされており、そしてとても広い。
赤い色と金の刺繍が入った絨毯が、ロビー一杯に敷かれている。
「私が受付済ませてくるね。アリアちゃんと楓君はここで待ってて」
そう言ってサナエは小走りで受付に向かう。
そして、受付のところに何か書いてあるのか、指を指して話しをしているのがうかがえる。
何故か俺達の方に指を指すと、受付の人も見てくる。
何を思ったのか、ニヤニヤとした笑いを向けてきていた。
サナエの方へ顔を再び向けると、口を動かす。
受付の人の口が動き一秒足らずで、サナエが顔を赤くした。
「サナエのやつ何を話しているんだ?」
「さ、さぁ? でも、なんとなくわかるかもしれません」
そうなのか……俺にはさっぱりわからないが。
そんな事を話していると、サナエが戻って来た。
「はい。お金も払ってきたから、温泉早速入りにいこう!」
「あぁ」
「うぅ……」
「ん? どうしたアリア?」
「え!? な、なんでもないですよー!」
いや明らかに何かある喋り方なんだが……。
「いや、随分と焦っているように思えるんだけど」
「そ、そんな事無いです」
「まぁまぁ、いいじゃないの。さぁ温泉入りに行こう?」
横からサナエがアリアに助け船を出して、温泉いく事を進める。
まぁ確かにアリアの反応は気になるが、今は折角の温泉を楽しむとするか。
「それも、そうだな」
「そうそう。さぁレッツゴー」
俺とアリアはサナエに手を引かれて、歩かされる。
そして奥に行くと一つの扉の前へと到着した。
こういうのは、男湯だとか女湯だとか書いてある暖簾が掛けてあったりするが、この世界にはそういった物はないのだろうか?
「ここが入り口か?」
「そうだよー」
「じゃあここでいったんお別れだな」
「そうだね。じゃあ私達はこっちだから、ゆっくりと入っててねー」
「あぁ、そっちもゆっくりな」
そう言って、サナエ達は右にある角を曲がっていく。
アッチがいわゆる、女湯がある場所なんだろうな。
俺はそう思うと、目の前の扉を開き中へと入っていく。
「中は意外と狭いな」
中に入ると早速脱衣所らしき場所が目の前に現れた。
しかし、なんだろ? 脱衣した服を置くカゴが、少ない気がする。
「うーん。まぁいいか」
俺は特に気にすることなく、服を脱いで、脱衣所にあったもう一つの扉を開ける。
すると、目の前が湯煙で真っ白になる。
そして、温泉特有の匂いが鼻腔を刺激する。
しばらくして、視界が晴れていき、目の前に温泉が見えてくる。
それは石で囲まれていた。
俺はゆっくりと温泉に近づくと、指先で少し触れる。
温泉はそれほど熱くなく、地肌に丁度いい温度となっていた。
俺は辺りを見渡し何かお湯をすくう物が無いか探す。すると、少し離れた所に桶があるのを見つける。
桶の近くまで行き、拾う。
そして、それでお湯をすくい身体にかける。
それからゆっくりと足を温泉に付けて、身体を沈ませていく。
「はぁー気持ちいい」
思わずそんな独り言がこぼれた。
しかし、俺の至福の時間はものの数分で打ち砕かれてしまった。
ガラガラという音を立てて扉が開く。
俺は最初、他のお客さんかと思っていたが、そちらに顔を向けて驚愕する。
そうそこに居たのは――タオルで体を隠している。アリアとサナエだったのだ。
「な、な、な……」
俺はあまりの出来事に口をパクパクさせてしまう。
何故アリアがここにいる?
何故サナエがここにいる?
そんな当たり前の疑問が、頭の中をグルグルと駆け巡っていく。
「何故お前達がここにいる?」
「え、えっと……」
アリアは恥ずかしそうにタオルを身体に押し付け恥ずかしそうに俯く。
「ふふーんどう?」
「どう、とは?」
「こんな可愛い美少女が一緒に温泉入りに来てあげたんだよ?」
サナエは一体何を言っているのだろうか? 美少女の部分は否定はしない。
しかし。一緒に温泉に入りに来たという言葉が意味不明過ぎる。
「お前は何を言っているんだ? いいから出て行けよ」
「えー、何その反応……もっと喜んでも良いと思うんだけどー?」
確かに、今の俺のこの状況は一般の思春期の男子なら、泣いて喜ぶ状況なのだろうが、俺はそこまで喜べない。
いや――別に嫌という訳ではない。俺も男の子だからな。
「あ、あの……恥ずかしいですけど。サナエさんが一緒にお風呂に入って、背中流したりしてあげれば、楓様が喜んでくださると言ってましたので……」
サナエの入れ知恵か。
しかし何をアリアに吹き込んでいる。姉のメアリーが聞いたら激怒するぞ。
「あの……変ではないでしょうか?」
「へ? 何が?」
「その、私の……身体」
――――は?
アリアは君はどうしてしまったのだ? そんなことを思いつつも、思わず目線がアリアの身体に吸い寄せられる。
白くて細い腕、タオルから微かに見える、太もも。
どこを見てもアリアの身体は美しかった。
「あー楓君アリアちゃんの身体を舐める様にみてるーいやらしー」
俺の視線が、アリアの身体に向けられていることに気が付いたサナエは、いたずらっ子のような顔をしてそう言って来た。
「え!?」
「な!? 別に変な目で見ていたわけじゃないぞ!」
「本当にー?
「本当だ」
もちろん全く下心が無かったかと言われればノーだ。
俺だって男。色々と興味を持ってしまう。
「ふーん。じゃあわたしの身体はどうかな?」
そう言いながら、大事なところはしっかりと隠しつつ、足や腕や肩といった部分の露出を増やす。
「な、何しているんだ!?」
「サナエさん……大胆――」
いや、アリア。感心している場合じゃないぞ。
何故こいつらはこんなことをしている。
というか、まだ俺だからいいが男湯に入って来るって痴女と間違えられても知らないぞ。
「とりあえず、出ていけ。他の男が入ってきたらどうするんだ?」
「え? 入ってこないよ?」
「は?」
「だって、ここは貸し切りの温泉だもん」
思考がしばらく停止した。
貸し切り温泉とサナエは言ったか?
俺の知っている貸し切り温泉と言えば、家族とか恋人とかが誰にも邪魔されず、のんびり温泉に入れることの事を言うのだが……。
「かしきり?」
「うん」
「貸し切りって。あの貸し切り?」
「楓君がどんな想像しているかは、わからないけど。その貸し切りでいいと思うよ」
またもや思考が停止した。
そして、俺は腰にタオルを巻くと、脱衣所に行こうとする。
「ちょっと、ちょっとどこに行こうとしてるの!?」
「うるさい。俺はもう出る」
「まだ入ったばっかりでしょ!? 早すぎない?」
俺はサナエの言葉を聞かず、扉に手を掛ける。
しかし、誰かに手を握られ動きを止める。
一瞬サナエかと思い、「離せ」ときつく言おうと振り返るが、俺からその言葉が出る事は無かった。
何故なら、俺の手を握っていたのは――アリアだったのだ。
「アリア?」
「あの……騙す様な真似をしてしまってごめんなさい。でも、本当に楓様を癒してあげたかったのです!」
タオルしか自らの身体を隠すものがない状態で、顔を赤らめながらも、上目使いで俺の目を見てそう言った。
「ダメ……ですか?」
「う……」
アリアの身体を見ないように、目線を逸らしながら、俺は口を開き喉を鳴らす。
「わかった。今回だけだぞ」
俺のその一言に、アリアは太陽の様な笑顔を俺に向けて、「ありがとうございます」と言った。
本当――俺はアリアに甘いな。
なんでかはわからない。しかし俺は彼女を見放す事ができないのだ。
彼女はココナにとっても大切な存在だったしな。
はい、お待たせしました! 今回は温泉回……に入る前までですね。
このまま温泉回も入れてしまおうと思ったのですが。文字数的にはこのくらいで一度区切った方がいいかと思いました。
楽しんでもらえたら嬉しいです!
それでは、感想や評価など出来ればお願いいたします。それが作者の力になりますので!
ではでは、( ´Д`)ノ~バイバイ




