7話 センリ・カンナ
次の日の朝、目が覚めると疲労が身体に残っているのがわかる。
こんなに残っているのも久々だ。
どれほど昨日の戦いが激しかったのかわかる。
「おはようございます」
左側から声が聞こえ見てみると、寝転がりながら俺の顔を見ているアリアの姿があった。
寝巻でないところを見ると、どうやら先に起きて準備をしていたようだ。
しかし、何故また寝転がっているのだろうか?
「寝巻じゃないところを見ると、とっくの前に起きている筈だが、なんで寝転がっている?」
「ふふッ。楓様の寝顔があまりにも無防備だったので、つい眺めていたくなったのです」
どうやら俺は、寝ている間しばらく寝顔を見られていたらしい。
全く気が付かなかった。
いつもなら視線を感じれば起きれるはずなんだがな。
昨日は疲れていたからもあるかだろうが、それだけじゃなくて、アリアだからこそ起きなかったのだろうな。
俺の中でアリアは、意外と信頼できる人物に昇格していたようだ。
「ずっと見ていたのか?」
「はい」
アリアは太陽のような笑顔を俺に向けてくれる。
相変わらず俺には眩し過ぎる笑顔だ。
しかし、ずっと見ていた……か。少し恥ずかしい気持ちが沸いてくるな。
「どうか……しました?」
「いいや。何でもない」
俺はアリアの視線から逃げる様に、ベッドから起き上がるとすぐに洗面台に向かう。
顔を洗い頭をすっきりさせて、タオルで顔を拭く。
昨日のあの『ムラマサ』の力――あれは何だったのだろうか?
ルトガアは何かを知っている感じだった。なら、聞いてみる価値はあるか?
それに――あの女性の事も気になる。
俺はルトガアに『ムラマサ』の事を聞くことを決めて、洗面台から離れ部屋に戻る。
「アリア。サナエ達のところに行くがどうする?」
「え? また戦いにですか?」
「いいや。違う。今度はルトガアに聞きたい事があってな」
「ルトガア様にですか……わかりました。私も一緒に行きます」
アリアのその言葉に俺はうなずくと。すぐに準備を済ませて、サナエ達のところに向かう。
「やぁー、いらっしゃい」
「おはようございます。サナエさん」
「うん。おはよう。アリアちゃん」
「サナエ悪いが。ルトガアはいるか?」
「師匠? うん。いるよー」
「話が少ししたい」
サナエは俺のその言葉を聞き、ジッと顔を見てくる。
その目は何かを見透かそうとしている様にも見える。
そして踵を返すと「ちょっと待ってて」と言って奥に歩いて行った。
俺とアリアはその言葉通り、おとなしく玄関で待っていると、奥から高身長の大男が歩いてきた。
そして、その大男は俺の顔を見るなり、口を動かし喉を鳴らす。
「お前が聞きたい事は、ある程度予想はつく。中に入れ」
一言そう言うと奥へ再び戻っていった。
入室許可をいただいたため、俺とアリアは挨拶を小さく言い、部屋の中へ入っていく。
一番奥まで来ると少し広い部屋に来た。
畳の床に大きめのテーブルが置かれいる。そして、その上にはお茶が一つ置かれていた。
宿屋はベッドなどあって西洋風だったが、こういった場所は和風なんだな。
少しおばあちゃんの家を思い出す。
「まぁ座れ」
その合図を聞き座る。
丁度座った時、奥からサナエが片手にトレイを持って部屋に入って来た。
トレイには三つのコップが乗っている。おそらく俺達の分のお茶だろう。
テーブルまで来ると、三つのコップと俺とアリア――そしてルトガアの元に置いた。
元からルトガアの前に置いてあったコップは、サナエが回収して持っていく。
「さて……今日お前が来たのは『ムラマサ』の事だろ?」
「あぁ」
「むらまさ?」
俺の隣に座るアリアが、疑問を頭に浮かべながら復唱した。
そういえばアリアには、俺の武器の名前を教えていなかったな。
「あぁ。俺の武器の名前だよ」
「そうだったんですね。知りませんでした」
「まぁ今初めて言ったからな」
「ですよね、良かったぁ。私が忘れていたのかと」
アリアはホッと胸を撫でおろす。
そして再び俺に顔を向けると、もう一つの疑問を俺にぶつけてくる。
「その楓様の武器が、何故ルトガア様に聞くのですか?」
「昨日の事はもちろん覚えているよな?」
「はい。激しい戦いでしたね。私には何が起こっているのか、全くわかりませんでした」
「あぁ、あの時。この武器から何か出ていたのは覚えているか?」
「あぁ最後のあれですね。なんだかとても禍々しく恐ろしいモノでした」
禍々しい、か。
確かにあれは禍々しいモノだった。
あの時見た映像を思い出すだけで恐怖が湧き上がる。しかし俺は何故恐怖が沸きあがり体が微かに震える。
何故俺はこんなに恐怖しているのかわからないが、頭を振り頭から消し去る。
「それで、それがどうしたんですか?」
「ルトガアが『ムラマサ』について何か知っている風だったんだ。だから今後の為にも聞いておこうと思ってな」
「なるほどです……」
「……では、お前は何が聞きたいんだ?」
俺はあの時の頭に流れてきた女性を思い出す。美しくも、儚い姿の女性を――
「あの時――一人の女性をみたんだ」
「女性?」
ルトガアは俺の言葉に何を言っているのかという顔をする。
しかし、再び真剣な顔をすると、口を動かす。
「その女性は……もしかして、髪が長かったか?」
「え? あ、あぁ」
「他には何か覚えていることがあるか?」
「…………悲鳴」
「何?」
「様々な人の悲鳴が聞こえて来た。そして、人の屍の中にその女性がムラマサを持って立っていたんだ」
その話を終えると、ルトガアは驚いた顔をしていた。
そして目を瞑り何かを考えるように黙る。
しばらくして目を開け、俺の顔をジッと見る
それと同時にサナエが自らの飲み物を持って戻って来た。
戻って来たサナエは、この場の雰囲気を理解できず首をかしげる。
「楓」
「ん?」
俺の名前を呼んだルトガア、その顔は真剣そのものだ。
「お前が見た女性は誰か検討はついた」
「誰なんだ?」
「――――おそらく、センリ・カンナだろう」
センリ・カンナ?
俺は聞いたことが無い名前が出てきて、首をかしげる。
それはサナエも同じで「センリ・カンナ……?」と小さく呟いているのが聞こえた。
しかし、アリアだけは何かを知っているのか驚愕の表情をしていた。
「センリ……カンナってもしかして、あの?」
「知っているのかアリア?」
「は、はい。センリ・カンナとは、三百年ほど前に自らの村を滅ぼした人の名前です」
自らの村を滅ぼした?
驚きに思わず口が開いてしまった。
「何それ! 聞きたい!」
驚きと好奇心に満ちた顔でテーブルから乗り出すサナエ。
しかしそれをルトガアが咎める。
「やめないかサナエ、あとテーブルに乗り出すな」
「はーい。ごめんなさい」
少しふてくされた顔で元の位置に座る。
それを見届けたルトガアは口を開き喉をならす。。
「俺からセンリ。カンナについて話そう。姫様よりは長生きしているから、もう少し詳しく説明できるはずだ」
「お願いします」
俺は姿勢を正すと、ジッとルトガアの顔を見る。
「センリ・カンナ。彼女は可哀想な少女さ」
「と、言うと?」
「彼女はなセンリ一族の村に縛り続けられていたんだ。二十年もな」
「師匠。それじゃあ説明になってないよ」
「話を最後まで聞け。楓お前が見たのはおそらく、センリ・カンナが己の憎悪に飲まれ暴走した時の物だろう」
「憎悪……」
「あぁ。さっきも言ったがセンリ・カンナはずっと村に縛られていた。それがつもりにつもり、爆発したんだ。そしてその結果自らの村を滅ぼすことになった」
俺は映像を思い出す。人々が倒れている中に一人佇む少女の映像を――
あれが、村を滅ぼした時のものだというのか。
「だが、カンナは何故そんなに村を恨んだんだ?」
「センリ一族の掟が厳し過ぎたんだ。結婚相手は村の集会で決めるや、結婚は16で絶対にしなければいけないなどな」
「何それ!? 酷い……」
サナエの言う通り酷すぎる。
結婚する年も、結婚相手も全てが村が決めるだなんて……束縛が強すぎる。
おそらくだが、ルトガアが言った掟はほんの一部だろう。なら、もっと酷い掟があるはずだ。
「確かに酷い。でも、それだけでカンナという人が村を滅ぼすほどになるのか?」
「いいや。ならないだろう。何せ三百年前だ。流石に俺でも真実は知らない。あいつなら知っているかもしれないが……」
あいつ?
「あいつとは誰だ?」
「ふん。見た目の若いババアだよ」
見た目の若いババア?
何故だろうか、俺はその人の事を知っている気がする。
もし俺の予想通りの人なら、会いに行くときにでも聞いてみるか。
「まぁあいつの事はどうでもいい。だが、そういった村だからな。他にも色々変な掟があるんだ、そして、それが積み重なり――」
暴走して、村を滅ぼしたっと。
「それで、その人はどうなったの?」
俺が口を開く前にサナエが俺の聞きたかった事を聞いてくれた。
その言葉にルトガアは再び目を瞑り、目を開く。そして喉を鳴らした。
「彼女は村を滅ぼした後、自らで命を絶ったと聞いている」
村を滅ぼし、自殺した――
一体あの人は何を思って自殺したのか。
そして、何故村を滅ぼしたのか。
「自殺しちゃったんだ……」
「流石に私もそこまでは知りませんでした」
「まぁ、お伽話の様に広がっているのを聞いていただけだろうからな。ここまで細かいのは知らなくても仕方ないさ」
ふむ、なるほど。
となると、次に俺が聞きたいのはアレだな。
「ルトガア」
「なんだ?」
「ムラマサは、もしかして彼女の武器?」
「あぁ、その通りだ。元々センリ一族はお前やサナエが持っている武器を最初に作った一族だからな。そしてムラマサは彼女が村を滅ぼした時に使っていた武器だな」
やはりそうだったのか。
あの力も彼女のモノなのだろうか?
「…………まぁ今お前が考えている事は容易に予想できるが、おそらくお前の考えている通りだろう」
「その証拠はあるのか?」
「お前から出ていた、あのオーラは間違いなく呪いの類だ」
「呪い?」
「あぁ、この世界には数は少ないが、呪いが付いている物が何個かある。それは人の恨みが大きすぎる為に、生まれた力だ」
これもその内の一つとルトガアは言う。
そして、呪いの力だ宿っている物は力を発揮するときにあのような色のオーラを出すとか。
カンナという女性は呪いの力を生み出していしまうほど、自らの生まれた村を恨んでいたのか。
一体どれほど酷いモノだったのか、今を生きている俺にはわからない。
だが――あの時見た笑顔は、まるで待ち人に会えた時の微笑みにも思えた。
「――さま、楓様!」
「は!? な、なんだアリア?」
「何だじゃないですよ。どうしたのですか? ぼーっとして」
「いや――なんでもない。少し考え事をしていただけだ」
ふと前を見ていると、サナエも心配そうな顔をしていた。
どうやらアリアだけでなく彼女も心配させてしまったようだ。
そしてルトガアは相変わらずの真顔である。
「ぼーっとして悪かった。もう大丈夫だ」
「そうか、まぁとりあえず、その刀にはカンナの恨みが宿っているはずだ。そして、その力をお前は昨日使ったのだ」
そうか……あの力は呪いの力だったのか、だからルトガアが止めた。
あのまま俺が刀を振ってしまえば、呪いの力がサナエに当たってしまうかもしれないから。
「昨日止めたのは呪いの力を使ったからか?」
「そうだ。そして、あのまま振り下ろしていれば、あの辺一帯は吹き飛ばされていただろうな」
「え?」
予想外な言葉に俺は驚きの声を上げてしまう。
そして、頭の中でルトガアの台詞を復唱する。
俺があのまま振り下ろしていれば、あの辺一帯は吹き飛ばされていた?
あれには、それほどの威力が込められていたというのか……。
もし――ルトガアが止めてくれなければアリアも危険だったことになる。
その事実に息を飲む。
「それは……ありがとう」
「ふん。確かに呪いの力は強力だ、しかしもっと良い方向に考えろ」
ルトガアはニヤリと笑う。
そのルトガアが笑うところを初めて見たかもしれない。
「あの呪いの力を使いこなせるようになれば、きっとお前の力になるはずだ」
確かにルトガアの言うとおりだ。呪いの力を使いこなせれば、俺の復讐が成し遂げる力になれるはずだ。
「そうだな」
「ふ。さて、お前が聞きたい事はこれだけか?」
「あぁ、これだけだ」
そう言って俺は立ち上がる、アリアもそれを見て、続けるように立ち上がった。
「待って楓君」
俺が頭を軽く下げて出ていこうとすると、サナエが俺を止める。
そして、いまだに座っているルトガアを見下ろす。
「ねえ、師匠」
「なんだ?」
「今日は楓君と一緒に居てもいい?」
「好きにしろ。毎日の様にやっていたんだ。息抜きは必要だ」
「ありがとう」
会話が終わると再びこちらに向き、口を動かす。
「町を散歩しようか!」
そう一言――言い放った。
はい。皆さんこんにちは。
今回は前回出てきた謎の女性の名前が出てきましたね。
はい。センリ・カンナという女性です。彼女の恨みがこもった呪いの刀『ムラマサ』が今後どのようになるのかは、お楽しみという事で!
良ければ感想や評価などよろしくお願いします。 また次回会いましょう!




